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LEONE #51 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第12話 1/2


1章:The Good, The Bad and The Ugly

第12話  脱出への道


耳元でうなる音が響いた。

体の感覚が消え、まぶたが重くて目を開けることができなかった。誰かが自分をつかまえて揺さぶるようだったが、単なる酔いによる錯覚のようでもあった。

「……兄貴!  兄貴!カルビン兄貴!」

酔いではなかったな。

カルビンはかろうじて目を開けた。

まだ夜だったはずなのに、かすかな月の光が、まるで真昼間の太陽のように目を刺してきた。そして少しづつ、自分の体ではないような状態だった体に、少しずつ感覚が戻ってきた。

もちろんその感覚のほとんどはひどい痛みだった。

「兄貴! 気が付いたんですか?!」

カルビンは焦点のない目で、やっと目の前の若いカウボーイを眺めることができた。彼の格好もなかなかのものであった。

土だらけの顔や、小さな傷などはいいとして、額から血が流れているのを見ると、どうやら頭に大傷を負ったようだった。それだけでなく、彼の後ろに取り囲まっているほかのカウボーイたちも、全員それぞれの傷を負って、満身創痍になっていた。

カルビンはゆっくり両手を動かした。両方とも動きには問題がなかったが、激しい痛みが伴っていた。どうやら骨にひびが入ったようだった。

「奴らは?」

カルビンは返ってくる返事を予想したが、あえて聞いた。彼の予想通り、若いカウボーイは暗い顔で首を横に振った。

「騒動に乗じて逃げました。ビル・クライドも、あのちびも。何の衝撃も受けていないように、ぱっと立ち上がって、走っていきました」

「そうか。じゃあー」

メインストリートの方にいる連中に連絡を。

すぐに下されるべきだった命令は、そのまま彼の口の中で沈んでしまった。その前に一つ、聞かなきゃいけないことがあった。

「……今の爆発は?」

若いカウボーイの顔がさらに土色に変わった。他のカウボーイたちも黙って首を垂れた。

その不吉な反応に、カルビンは瞬間的に体を起こそうとしたが、脇腹を抱え込んで呻いた。若いカウボーイがびっくりしてカルビンを止めた。

「あ、兄貴。むやみに動いてはいけない……」

「さっきの爆発は何だ!」

カルビンはかっと大声で叫んだ。もう一度激しい痛みが脇の方を伝わってきたけど、彼は平然としていた。冷や汗をかきながら、首に血管を立ててカウボーイたちを睨んでいた。

「何だったのか言え!」

「ル、ルチアーノです!」

若いカウボーイは目を閉じ、思いっきり顔をしかめながら叫んだ。

次に慌てるのはカルビンの方だった。カルビンはしばらくぼんやりした顔で若いカウボーイを眺めて、また別のカウボーイたちに目を回した。

彼ら全員が目と口を堅く閉めていることを確認してから、カルビンは再び静かな声で質問を繰り返した。

「ルチアーノ? まさかあのボッシー・ルチアーノなのか?」

「はい! そのボッシー・ルチアーノです! や、奴があのうわさの『アーマードスーツ』で武装して押し込んできたらしいです!」

「『アーマードスーツ』だと…………?」

カルビンは瞬間的に、自分がまだ夢を見ているのではないかと疑った。

「その鎧の破壊力に俺たちはやられたのか? いや、その前に、あいつがなぜここへ来たんだ? 自首でもするつもりで来たのか?」 

「そ、それが」

「頼むからグズグズせずに早く言え!」

「お、女を寄越せと言ったんです! 状況から見ても、言っている格好や年齢から見ても、確実にあの2億GDの女の子を言っているのに間違いありません!」

その話を最後に、若いカウボーイは息を切らしながら後ろへ退いた。その言葉を聞いたカルビンは目を大きく開けて虚空を睨んだ。

やっと彼の頭の中でパズルの欠片が形になった。

突然現れた謎のご令嬢。その令嬢にかけられた2億GD。それに2億GDにも満足せず、その令嬢を連れて逃げたビル・クライド。

他のカウボーイたちは、ただ銅像のように動きを止めて、彼らの隊長の様子を見ているしかなかった。彼らはお互いの顔色をうかがいながら、すぐにでも爆発する隊長の怒りを、その怒声を受け取る準備をした。

しかし彼らの隊長は、笑った。

歯をむき出しにして、残酷に笑った。

「なるほど。ビル・クライド」

カウボーイたちは、その姿を見た瞬間、恐怖で震えた。彼らはただそこで、カルビンの次の言葉を待っていた。

「今回お前が選んだ狂気の選択は、それなんだな? ボッシー・ルチアーノの女を奪うこと」

カルビンはためらわずに体を起こした。

全身から感じられる激痛のせいで、かすかなうめき声が口から漏れたが、気にしなかった。あわてて助けようとした他のカウボーイたちの手も軽く振り切った。彼は不吉な破裂音がしそうな体を無理やりに立て直した。帽子を直し、割れたサングラスをはずしてポケットに入れた。そして彼は、カウボーイたちを見回した。

すぐにでも倒れそうな表情をしている部下たちに向けて、カルビンが口を開いた。

「獲物を追加する」

カウボーイたちは口を大きく開けて、彼らの隊長を眺めた。彼らとしては、まさかという心情だったが、カルビンはほんの1秒もかけずに、彼らの期待を無残につぶした。

「ビル・クライドも、あの小娘も、ボッシー・ルチアーノも、全部捕らえる」

「あ、兄貴」

「やつらは俺たちを甘く見た」

カルビンは血の混じった唾を飛ばした。

「ビル・クライドは取引に応じるふりをして、私たちに不意打ちをかけた。あの小娘は依頼を受けたからには捕まえるべきだろう。そして、ボッシー・ルチアーノは、俺たちに仕事を任せておきながら、我々を信じられずこんな騒ぎを起こした。全部捕まえる。捕まえて、カウボーイの戒律による代価を払わせる」

「し、しかし兄貴!」

若いカウボーイがよろめきながら前に出た。カルビンは怒りの目付きで彼を睨みつけたが、彼は体を震わせながらも、最後まで声を絞り上げた。

「ほ、他のふたりはまだ十分に捕まえることができます。いや、捕まえます。しかしルチアーノは……奴の『アーマードスーツ』は……」

「お前は俺と保安官事務所に行く」

カルビンは一気に彼の話を切った。彼がびくびくしている間、カルビンの指は次々に違うカウボーイたちを指した。

「お前らは、いますぐメインストリートに行け。対峙状態を作って時間を稼げ。俺が到着するまでルチアーノには手を出すな。交渉を提案しろ、うまくいかなかったらストリップショーでも、何でもやってとにかく時間を稼いでおけ」

カウボーイの一人が深いため息をついた。彼は帽子を軽く押してから、また上にあげた。

それは命令に服従するという意味だった。

メインストリートへ向かう前、彼は最後にカルビンに聞いた。

「……保安官事務所に何かありますか?」

カルビンは生臭い笑いをして答えた。

「勝算がある」

彼の話を聞いたとたん、カウボーイたちは一斉に帽子を押して上げた。路地の向こうに消えていく彼らの背中を見つめながら、カルバンは再び笑った。

少なくともカウボーイたちには、勝算があった。


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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」

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