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LEONE #43 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第9話 1/2


1章:The Good, The Bad and The Ugly

第9話  カウボーイ(2億GD)の夜 パート4


「それはダメだ」

クライドの気勢が色褪せるほど、カルビンは動揺しなかった。

彼が手振りをすると、保安官たちが一斉にリボルバーを抜いてクライドに照準した。

クライドの突然の登場にもかかわらず、彼らの誰一人も動揺しなかった。逆に笑いがこぼれる始末だった。

ただ、カルビンだけはあまり明るい表情ではなかった。彼は自分のリボルバーを装填をしながら、いらだたしい声で聞いた。

「どうやって抜け出したんだ? あの若造は死んだのか?」

「いや。うまく口説いて、鍵だけ奪ってから、気絶させて留置場に入れてやった」

素直に答えるように見せかけながら、クライドは素早く保安官の数を数えた。

五、七、八、十、十二。

それにカルビン。そして間もなく他からも保安官が到着するだろう。

どう計算しても危うい状況だった。

クライドは、内心では不安を隠せないながらも、ひとまず沈着を装った。カルビンの鋭い目を避けるため、彼は出任せにしゃべりまくる方を選んだ。

「ちなみに、あのクソガキの彼女も一緒に留置場に入れておいた。お前ら知ってたのか。そいつ、宿直のたびに保安官事務所に彼女を呼び込んだようだけど」

「そう? ふたりでロデオでもしたってか?」

カルビンは鈍い声で言い返し、弾丸の装填を終えた。クライドは首の後ろに流れる冷や汗を感じながら笑った。

「おい、猥雑なことは言うな。お嬢様が聞いていらっしゃる」

「あ……そう。お嬢さん。そのお嬢さんの事だが……」

そこでカルビンは突然、セロン・レオネに目を向けた。ビル・クライドの出現による衝撃がまだ消えていない状態だったセロンは、彼の視線に自分も気づかないうちにびくっとしてしまった。

しかし、カルビンがセロンを見たのはほんのわずかだった。彼は少しだけセロンを意味深な目で眺めた後、クライドの方へ再び顔を向けた。

「ビル・クライド。一つ聞こう」

「投降する気はないのかと? 答えはNoだ」

「いや。そうじゃない……お前とあのお嬢さんも、ロデオを楽しむ仲なのか?」

カルビンはあまりにも何気ない声で、そんな質問をした。そのせいでビル・クライドも瞬間的に言い返す言葉を失い、口元を震わせた。一方セロンは、カルビンの質問の意味を把握するのに、そして次には自分の解釈が正しいのかで、もう一度確認するのに忙しかった。

その間、しばらく寂寞が流れた。

その寂寞は、たちまちセロンの顔がストーブのように真っ赤になって破られた。

「この変態野郎が! 何をふざけたことを!」

「お、お嬢様!」

セロン・レオネの鋭い叫びとクライドの哀しい叫びが虚空で重なった。セロンの叫び声がどれだけ鋭かったのか、鉄のような表情の保安官たちも眉をひそめ耳を塞いだ。

自分も知らないうちに、反射的に手に届くものを投げようとでもしたのか、セロンは2億GDが入ったカバンを高く持ち上げたまま、ぶるぶる震えていた。

カルビンは大笑いしながら話をつづけた。

「“ハイエナ”のくせに危険を冒してまでここに来ているからそんな仲かと思ったが、どうやら違うようだな」

「このクソカウボーイ種馬の野郎が!」

セロンはカバンを下ろして歯ぎしりをし、言った。

「お前たちは、いつも頭の中に押しこんでいるのがそんなことだから、無礼という単語が何なのかも分からないんだろう。でも、もし僕がこんな状態じゃなかったら、もうお前らの額に風穴を開けていたはずだ」

「おい、お嬢さん」

「また何だ、このー!」

「熱くなるところを間違えてる。『お嬢さんが自分にすっかりはまって、2億GDを捧げてくれる』と説明したのはクライドの方だ。むしろ俺はそれを疑ってもう一度尋ねただけだ」

セロン・レオネの殺意がこもった視線がクライドの方へ向いた。クライドはそのメドゥーサのような目を避け、口笛を吹いた。

「とにかく、それで、ビル・クライド。そのお嬢さんとそんな関係でないなら……」

突然カルビンが手を上げた。

セロンとクライドも表情を固めて、カルビンの手先を見つめた。その手がそのまま虚空に跳ね上がったら、それは射撃を意味する合図だった。

席を埋めた十二の保安官たちの拳銃からは、それぞれ弾を装填する音がした。

しかし、カルビンの手はそれ以上上がらなかった。彼の手は大まかに口の高さくらいで止まっていた。それからしばらく震えるように見えていたが、一度こぶしを握り締めた。そして、その手はそのまま胸ポケットに向かった。

やがてカルビンがポケットから取り出したのは、真っ黒なサングラスだった。

夜に何でサングラス?

セロン・レオネとクライドは、みんな不審な目でカルビンを眺めた。しかし、カルビンはものともせず、ゆっくりとサングラスをかけた。かすかな月の光がそれに映って輝いた。

カルビンが口を開いた。

「交渉をしよう」


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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」


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