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コンプライアンス対応を越えたプライバシー運用が見据える先

※このインタビューは2024年5月6日に収録されました

プライバシーを保護するために技術的な新しい取り組みが進んできています。

今回は広くデジタルマーケティング分野で活躍し、現在はプライバシー保護ソリューションのスタートアップで活動するヴィヴィアンさんに、プライバシー保護に関するビジネストレンドについてお伺いしました。

前回の記事より

業界全体でプライバシーに対する考え方はどのように変わってきたのでしょうか?

デジタル広告とヘルスケア業界がプライバシー保護に向かう理由

Vivian: 非常に大切な質問ですね。私たちのクライアントは主に広告やヘルスケア等の2つの業界に分類されます。この二つの業界はそれぞれプライバシーという意味では対極的な特徴を持っています。

ヘルスケア業界は長年厳しく規制されてきた業界で、メディアや広告業界はデータ保護法が施行されてからプライバシー侵害への変更を求められてきた分野です。GDPRや現在議論が進んでいるAI法案への期待の高まりから、世界的にプライバシーへの関心がより強くなってきています。

なぜか? AIが発展していくためには個人データを処理していくことが必要で、AIの発展と個人データとは切っても切り離せない関係なのです。先程私が紹介したメディア、広告業界とヘルスケア業界はここまで話をしてきた課題に直面しています。

中でも越境したデータ共有については非常に大きな問題となっています。2023年末までに全世界の65%の人たちが現在のプライバシー保護規制の対象となることがわかっています。

規制の波が広がっていく一方で、規制の対象については国によって違いがあります。いくつかの国では、新しい規制へと移行する手続きを進めています。そのため、規制が異なる地域に対しても地理的な対応を検討する必要があります。

対象の企業が世界的にサービスを展開しているとすれば、どのようにして一つのソリューションでデータ管理を行うことができるでしょうか。これは私たちが直面している大きな課題です。

そして、規制に準拠した形でのデータ利用とは一体何かということです。私たちがコンプライアンスという言葉を使う際には、個人データ全体のライフサイクルの中でデータ提供者の権利を保護することを指していると思います。

現在は同意管理の技術を利用してこの問題に取り組むケースが出てきており、これはオプトインしたものに限ってのデータ利用を認めるような方針です。

ただ、何に同意をしたのかというステータスについては、日々変更していくことになります。消費者が、今日はオプトインしたけれど、明日は気になってオプトアウト、もしくは削除リクエストをしたいというケースも珍しくはありません。

先程私が紹介したメディア、広告業界やヘルスケア業界を思い浮かべていただくと、どちらも大規模なデータ共有のエコシステムを開発しています。消費者がオプトアウトやデータ削除を依頼したとしても、既にエコシステム内でデータを共有していることもあるのです。

こういった場合にはどのようにデータを管理すれば良いのでしょうか。まだ答えは出ていないと思います。このデータ共有の問題については、私たちが関わっているどちらの業界でも大きな問題になっています。この業界に関わらず、どの業界でも同様の問題は今後避けられなくなっていくと思います。

Kohei: 非常に重要な業界の変化について教えていただきありがとうございます。勿論、ヘルスケアやメディア、広告業界はデータを共有して利用する際たる分野の一つだと思います。現在よりその兆候が広がってきていると思います。

ヴィヴィアンさんの会社では産業課題に対して、プライバシー保護技術という解決策を提供していると思います。プライバシー保護技術にも特徴があると思います。秘密計算を始めとした様々な技術要素が点在しています。

ヴィヴィアンさんの会社で取り組まれている新領域の研究から、どのような点が独自の技術的な特徴になるのでしょうか?

プライバシー保護技術を通して、プライバシーやデータ保護業界が抱えるどのような課題を解決したいのかも教えてください。

プライバシー保護技術をビジネス実装するための課題

Vivian: 私たちが提供するソリューションについてお話ししても良いですか。

Kohei: はい。技術的な特徴についても教えてください。

Vivian: わかりました。現在様々なプライバシー保護技術が誕生しています。全てのプライバシー保護技術は、プライバシー保護とデータ利用のバランスを保つために日々技術開発に取り組んでいます。この技術が目指すところは、プライバシーを保護しつつ、データの価値を高めていくことにあります。

(動画:プライバシー強化技術が築く未来「A day with PETs」)

先程、宏平さんが言及された準同型暗号を始めとして、異なる技術要素が誕生しています。それぞれの技術が異なる切り口での解決策を模索しています。我々Karlsgareは個人データを保護することに加えて、安全に個人に関連したデータを共有できるような環境づくりに取り組んでいます。

これはデータ利用に関わる重要な要素の一つになります。データの計測やモデル開発、KYC等の本人確認等が具体的な利用例として考えられます。個人に関連した情報に関しては、様々な要素が関わっています。個人に関連したデータを取り扱い際には、簡単に個人のデータをコピーして共有することができます。

コピーを拡散することによって、膨大な個人の情報が出回ってしまうことになりますよね。こういった状況が広告やヘルスケア、金融業界では日々行われています。私はこういった問題の解決をしたいと思い、起業することにしたのです。

Karlsgareを利用することで個人データを必要としなくても、テクノロジー活用が進む社会を目指していきたいと考えています。データがサイロ化してバラバラな状態になっていることを解決するために、分散型が上手く機能するだろうと思います。

私たちの技術を通して、データ管理者はデータの大きさや技術要素、専門性に関わらず広くデータ利用ができるような機会を作っていきたいと思います。私たちが広くサービス提供者が利用できるようにデザイン設計を考えている理由はここにあります。

私たちが目指していることが、最終的にはプライバシーバイデザインが目指すデータの流れをより民主化することにつながっていくので、広くサービスにアクセスしつつ、データが保護される環境を作っていきたいと思います。私たちの世界観を実現することは、企業と消費者のどちらにとっても有益な目標だと思います。

Kohei: 素晴らしいですね。テクノロジーを活用してデータを保護する環境を実現できれば、企業側にとっても素晴らしいことだと思います。

ここからは未来のプライバシー保護技術の展望についてお伺いしたいと思います。 現在プライバシー保護技術は大きな分岐点に来ていると思います。

勿論、テクノロジー開発を進めていくことも重要ですが、産業界からの要望についても考えていくことが必要だと思います。現在プライバシー保護技術が乗り越えるべき最も重要な課題について教えて頂いてもよろしいでしょうか?

コンプライアンス対応を越えたプライバシー運用が見据える先

Vivian: そうですね。プライバシー保護技術の最も大きな課題としては実運用まで辿り着けるかということがあげられます。他にもいくつか異なる要因がありますが、実社会での利用を促進していくことが必要ですね。

多くの企業がプライバシーの重要性を理解しているのですが、コンプライアンス対応やチェックボックスを利用した確認作業に留まっています。

まだ戦略的にプライバシー保護に取り組むよりも、コンプライアンス対策として対応するケースが多いですね。コンプライアンス対策だけであれば、十分な対策予算や主体的な実利用ケースも少なく、プライバシー保護技術を普及していくためには課題も残っています。

基本的には、プライバシー保護技術の導入を推進する部門や担当があまり社内にいないことですね。

それ以外に、ステークホルダーとの関係性作りも課題です。プライバシー保護技術を実装するためにはテクノロジー部門、ビジネス部門、セキュリティ・コンプライアンスチームとの連携に加えて、部門長クラスの方の協力も求められます。

各ステークホルダーがプライバシー保護技術の重要性を理解できるように、啓蒙教育活動を行うことも必要です。関係するステークホルダーの方々とコミュニケーションをとっていく事がテクノロジー企業にとっても求められるようになります。

最後に技術的なスキルのギャップを埋めていく事が必要です。多くのプライバシー保護技術は実利用を進めていくために技術的なスキルが求められることになります。

スキルを持った人材が必要なため、先程私が紹介したように組織内でテクノロジーを広く利用できるようなサービスデザイン設計を心がけていくことが必要になります。

小規模企業でIT関連のスキルを持った人が数人しかいない場合にも、運用できるようなデザインが必要になります。私たちが民主的と呼んでいるのは、このような誰でも、どんな組織でも利用できることが鍵になるからです。

私たちはまだアーリーステージの会社なので、より多くの企業が出てきて欲しいと思います。特にAIへの関心が高まるに伴い、倫理的な思考を持ちつつデータの価値を最大化していく事が必要です。プライバシー保護技術はCレベルと呼ばれる部門長の方々も関心を持つようになるだろうと思います。

まずは組織全体でのプライバシー戦略について検討することが必要ですね。プライバシー保護技術の普及に向けては多くの課題が残っていますが、今後大きな変化が訪れるだろうと考えています。

Kohei: ヴィヴィアンさんの会社は世界各国を拠点にしたチームで構成され、各地域で活躍されていると思います。プライバシーについては、各地域や国によって法律や考え方が大きく異なるテーマです。

これまでの活動を通して、各地域でのプライバシーに対する対応の違いについて教えていただけますか?

ヴィヴィアンさんはオーストラリアを拠点にされていると思いますが、欧州のメンバーや米国メンバー、その他のメンバーが拠点としている地域での違いについてお伺いできると嬉しいです。

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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