見出し画像

アップル社の戦略転換から学ぶ自動運転産業への影響とは

※このインタビューは2024年3月27日に収録されました

自動運転を始めとした既存の産業とテクノロジーが交わるにあたり、倫理的なテクノロジー活用がより重要になりつつあります。

今回はオーストラリアのスウィンバーン工科大学で市民エンジニアリングと建設技学部門のフセイン教授に自動運転の未来と倫理的なテクノロジー利用ついてお伺いしました。

Kohei: 皆さん。こんにちは。本日はオーストラリアよりフセイン先生にお越し頂いています。フセイン先生はモビリティ分野で広く新しい取り組みに挑戦されています。フセイン先生。本日はお越し頂きありがとうございます。

Hussein: ご招待頂きありがとうございます。

Kohei: ありがとうございます。始めにフセイン先生のプロフィールを紹介したいと思います。

​​フセイン・ディア先生はオーストラリアのスウィンバーン工科大学で市民エンジニアリングと建設技学部門で教授を務めています。研究テーマは未来の市民モビリティに関する調査です。

彼が現在取り組んでいるのは脱炭素公共輸送機とデジタルを組み合わせた持続可能なスマートモビリティを実現する研究です。高度交通システムに関する書籍や書物を含めて150以上の出版物を発表し、持続可能な街づくりに向けた低炭素モビリティに関連した内容や人工知能を搭載した輸送機に関するハンドブックを公表しています。

フセイン先生はスタンフォード大学の全世界科学引用ランキングの物流と輸送分野で上位2%の有識者としてランクインしています。現在はオーストラリアエンジニアリング、輸送エンジニア協会、米国市民社会エンジニアリングでフェローを務められています。

改めて本日はインタビューにお越し頂きありがとうございます。

Hussein: 貴重な機会を頂きありがとうございます。

モビリティ分野を探求しようと思った理由

Kohei: では早速本日のアジェンダに入っていきたいと思います。フセイン先生の研究には非常に感銘を受けていて、今後のモビリティ分野を語る上では、とても重要な取り組みだと感じています。早速お伺いしたいのですが、なぜモビリティ分野に飛び込もうと思ったかの経緯を教えていただけませんか?

Hussein: ありがとうございます。私は輸送機のエンジニアリングに憧れてこの分野に飛び込みました。この分野は異なる考え方を持った人たちが社会が抱えている問題に対して、解決策を見出すために日々取り組んでいるからです。

輸送機について考えた時に、50年以上の歳月をかけてインフラや道路を整備してきたにも関わらず、多くは交通渋滞が発生し、排ガスによっての大気汚染が交通社会によって引き起こされています。

こういった問題を解決するためには、エンジニアやインフラの専門家、情報技術の専門家や社会科学、経済に詳しい人たちが一緒になって考えることが必要になります。

私が現在関心を持って取り組んでいるのが輸送システムのアプリケーションと持続可能な社会です。

研究を進めるにあたって、インフラや技術、行動科学等を研究している人たちとも連携sながら社会にとって付加価値のある取り組みの調査を行っています。

Kohei: 素晴らしいですね。フセイン先生はいつ頃くらいからモビリティ分野に関心を持ち始めたのでしょうか?大学でモビリティ関連の分野を専攻されていたのですか?

Hussein: そうですね。私はこれまでアカデミアでのキャリアが長いです。これまでに数年ほどコンサルティング業界でも働いていたこともあります。これまでの私のキャリアを振り返ると、これまでになかった解決策について着目することが比較的多かったですね。例えば、混雑解消の解決策を研究したケースなどが該当すると思います。

私が新しい分野に着目する理由はいくつかあります。一つには、常に新しい解決策を探求することが面白いからです。テクノロジーによって生み出されるイノベーションは我々が抱える問題を解決していくことにつながっていきます。

未来のモビリティリーダーに学んでほしいこと

Kohei: お話しを頂きありがとうございます。フセイン先生がこれまでに関わられてきた市民エンジニアリングとモビリティに関する調査にとても関心を持っています。現在フセイン先生が大学で教えている内容についてもお伺いしてよろしいでしょうか?

Hussein: わかりました。私たちは輸送技術に関するいくつものコースを準備していて、学部から院生まで広く授業を提供しています。最近私が注力している分野は未来の輸送分野で活躍するリーダーに向けた専門性の開発コースです。

このコースを立ち上げるために、Future Transport Academyと呼ばれる輸送技術に関する短いオンライン動画を作成していて、15〜20時間で好きな時に受講できるような教材を作成しています。教材には、持続可能性による影響や、スマートモビリティ、低炭素輸送技術、高度輸送システム、輸送モデリングを始めとした専門性の高いコンテンツを組み込んでいます。

          (動画:Masterclass Introduction)

このコースでは、テクノロジーと持続可能性を軸に輸送システムが抱えている課題を解決するための知見を取り入れることを軸に設計しています。

Kohei: ありがとうございます。先程コースについてのお話もいただきましたが、フセイン先生は未来のモビリティリーダーにどのようなことを期待されていますか?

Youtubeでフセイン先生が配信されている動画を拝見すると、モビリティに関する知見だけでなく、デジタル技術に関する考え方を取り入れることも重要だと理解しました。未来のリーダーに向けてどういったことを期待されているかを教えてください。

Hussein: わかりました。私たちの大学ではテクノロジーについての講義も行っているため、研究で得た成果を教材にも応用しています。理論的な調査や社会のためにアプリケーション開発を実施したり、調査計画を開発したりもしているので、そういった知見を通して得たものを学生向けのカリキュラムやコースに活かしています。

大学を卒業する際には、必要な道具やスキル、経験を学びつつテクノロジーを活用しつつ解決策に応用できるようなことを目指しています。

産業界からも、ここまで紹介した人材を求める声を多くいただいています。大学が提供するプログラムを受講した学生を採用する企業も出てきています。企業側は、一定数の経験を積んだ学生の採用を期待していて、ハンズオンで学びつつもテクノロジーの知見については好意的に受け取ってもらっています。

Kohei: 素晴らしいですね。モビリティとテクノロジーの知識を相互に学ぶことは、未来の経験に活かしていくことができる考え方だと思います。ここからは、モビリティ業界の変化について先生にお伺いしたいと思います。以前に拝見した記事の中で、自動運転技術の発展についての先生からのコメントが印象に残っています。

最近では、アップル社が自動運転への投資を停止するという記事が出ていたと思います。このアップル社の戦略転換について、先生はコメントをされていました。自動運転産業への見解とこれまでにどういった議論が行われてきたか教えて頂いてもよろしいでしょうか?

アップル社の戦略転換から学ぶ自動運転産業への影響とは

Hussein: わかりました。これはとても重要なトピックですね。自動運転については、多くの企業や研究者が参画し、20年以上にも渡って研究を重ねてきました。現在課題になっている点は、自動運転車や自動運転が抱える安全性の問題が公になってきたことです。

一般的な合意事項として、自動運転技術を実装して社会で導入する際には走行中の安全性が担保されることを前提に話が進んできています。皆さんにもわかりやすい例を紹介すると、毎年全世界で120万人近くの人が交通事故によって亡くなっています。

これは200の客室を抱えるワイドボディ機が15機毎日墜落して、全ての搭乗者が亡くなっている状況と同じことが起きています。もしこんな事が起きていれば、私たちの航空サービスは成り立たなくなります。

残念なことに私たちが日々利用する道路では常に事故が起き続けています。オーストラリアでは、毎年1000人近くの人が交通事故で亡くなっています。事故の多くがヒューマンエラーによって引き起こされているのです。

こういった事故の多くは自動運転が普及することによって避ける事ができるようになります。こういった背景があって自動運転技術への社会的な注目が集まり、私たちが運転する際のヒューマンエラーが発生する確率を減らしていく事ができるのです。

自動運転を車に実装していく際には、AIを利用したソフトウェアの導入が欠かせません。このソフトウェアが準備できたとしても、直ぐに社会全体で自動運転が浸透していくことにはなりません。ソフトウェアだけでは何が誤った操作であるかを判断する事ができないのです。 

AIを搭載した自動運転ソフトウェアは人間のようにアルコールを摂取して運転することはありませんよね。運転中に居眠りしてしまうこともありません。

このようなヒューマンエラーを防ぐためにも自動運転には期待が集まっていますが、まだ実現できてはいません。先程アップル社の例を紹介いただきましたが、何十億ドルと投資を行っていたとしても、社会実装の段階で受け入れられないことがあるのです。

最近アップル社が10年間で何十億と実施してきた電気自動運転プロジェクトへの投資を停止すると発表しました。アップル社以外にも米国企業の多くが、ロボタクシー苦戦していて、公道を走る他の車体と衝突するようなケースも起きています。

        (動画:What Killed the Apple Car?)

自動運転車自体はまだまだ発展途上ですが、社会実装が進んでいくことによって我々の社会で役立つ緊急サービスにも応用できるため、引き続き開発は進んでいくことになると思います。

今の状態だとまだまだ社会実装できるレベルではありません。これが自動運転の現在地です。これまではレベル5と呼ばれる自動車が自ら運転を行う状態を目指して開発を進めてきましたが、実際にはAI技術を含めた様々な要素について画期的な発明を必要としている段階です。

 (動画:Driverless taxis in San Francisco cause traffic jams, chaos)

自動運転の開発に取り組む企業の中には、完全自動運転の実現を待つことなくサービスを展開すると発表している企業もあります。こういった企業は自動ブレーキ機能を実現する技術や、一定の距離で自動車が走行できるような機能を搭載していると話しています。

既にこのような技術を搭載した車は社会に出回ってきています。技術発展とともに、徐々に自動運転化に向けた動きも進んできています。同時に、技術を社会に実装しつつ、安全性の向上にも務めているというのが現在の状況です。

Kohei: 自動運転は非常にチャレンジングな取り組みですね。自動運転が普及することによってヒューマンエラーが減少し、私たちの安全な社会を実現するためにも大きく貢献することになると思います。

とても重要なお話を頂きありがとうございました。フセイン先生が公表されているハンドブックでは、人工知能を車体に組み込む際に検討すべきことについても触れられています。今後の自動運転実現に向けて人工知能をどのように組み込むかは大きなテーマになると思います。

今回のインタビューでは、セキュリティとプライバシーの関連から倫理的な自動運転車の開発についてお伺いできればと思います。プライバシーとセキュリティの観点から、倫理的な自動運転車を生み出すためにどういったことに配慮する必要があるのでしょうか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後半は、次回お届けします。〉

データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?