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マーケターが考えるべきお客様との信頼構築とプライバシーの関係

※このインタビューは2023年2月9日に収録されました

デジタルマーケティングや広告業界は、プライバシー規制により新たな転換期を迎えています。

今回はデジタルマーケティング・広告の専門家として活躍し、米国政府連邦取引委員会では技術アドバイザーを務めたラッシーさんに、デジタルマーケティング・広告業界の変化と政府当局による対応についてお伺いしました。

前回の記事より

マーケターがデータを活用する際には、お客様との信頼関係構築を軸に検討することが必要です。お客様との信頼関係構築を行う場合にプライバシーについてはどのように考えれば良いのでしょうか?ラッシーさんの考えをお伺いできると幸いです。

マーケターが考えるべきお客様との信頼構築とプライバシーの関係

Raashee: 私は信頼関係を構築するために、法律以外の方法についても考える必要があると思っています。私たちがプライバシーについて考える場合には、法律のもとでの責任について考えることが多いと思います。自分たちのビジネスが適法かどうかコンプライアンスについて、まずは考えるのではないでしょうか。

規制当局はより積極的に企業のコンプライアンス対応について監督を勧めているので、コンプライアンス対策を行うことは必要です。さらに、お客様は徐々にプライバシーの重要性に気づき始め、アプリのデータ共有するか否かを判断し、必要がない場合にはオプトアウトを行うような変化も生まれています。ウェブサイトからクッキーデータをオプトアウトする場合も増えてきています。

お客様の変化を察知し、ビジネスパーソンはプライバシー上の重要な価値として取り組んでいくことが必要です。

新しい価値を考える際には、これまでに実施してきたコンプライアンス対応の延長線上ではなく、企業戦略としてより上流から価値を考えていくことが必要です。 マーケターや広告担当者はデータに関する知見を活かして、膨大なデータをもとに利用者に適応した個別体験の提供に取り組んでいます。

データを活用する方法を検討する際に、プライバシーについて考えることが必要です。データ戦略はプライバシー規定を前提に運用されることが必要で、データを取得する際には利用者の方からの同意を含め、適切なデータ取得であるか否かを常に考える必要があります。

プライバシーポリシーが明瞭でわかりやすいかどうかやポリシーに記載されている内容に沿って運用されているか否かも重要なポイントです。利用者がサービスを利用する際の体験設計の中でもわかりやすいポリシー表記が求められるのです。

図:わかりやすくプライバシーポリシーを表記する必要性

ダークパターンもプライバシー同様に検討することが必要です。どのウェブサイトでも通知バナーが表示されることが当たり前になっています。ユーザー体験を十分に考慮して、利用者を騙すような設計になっていないか事前に確認しておく必要があります。

      (動画:How Dark Patterns Trick You Online)

プライバシーバイデザインやプライバシーバイデフォルトに配慮して、プロダクト開発やエンジニアリングに取り組むことが重要です。プロダクト開発の中にプライバシーを組み込むことで、利用者体験にもプライバシーが反映されるようになるのです。

最後にビジネスを考える際には、開かれた考え方で継続的に学んでいくことが必要になります。米国では連邦レベルでのプライバシー法がないため、連邦取引委員会が監督省庁として様々な観点から執行に向けた取り組みを進めていくことになります。

ビジネスを考える際には、政府当局がどういった動きを進めているのか定期的に理解し、対策することが必要です。連邦プライバシー法は定められていませんが、ガイドライン等の公表については対策が進みつつあります。

ここまでの話を要約すると、コンプライアンス対策は第一ステップであり、当たり前の取り組みとして推進することが必要です。そして、経営戦略の中にプライバシーについての意思決定を加え、プロダクト開発やエンジニアリング、マーケティング活動においてプライバシー要素を加え、データに紐付けた活動を行うことが必要になります。

Kohei: ありがとうございます。ここからはラッシーさんにマーケティング、広告業界の未来の展望についてお伺いしていきたいと思います。マーケティング業界にとっては標準化を含めて大きな課題が残っていると思います。

IAB(米国インタラクティブ広告業界団体)のフレームワークに関しては、欧州の規制当局よりGDPRの下で適法か否かが問題になりました。

これまでに米国でも同様の議論が行われてきたと思います。ラッシーさんは今後10年間でプライバシーとマーケティングに関する新たな規制についての動きがあると思いますか?もしくは何か懸念材料が考えられるでしょうか?

これからのマーケティング業界が目指していく方向性

Raashee: 私はマーケティング業界について、引き続きプライバシー規制と対峙していくことが求められると考えています。政府当局から規制やコンプライアンスに関して、新しい動きが徐々に進んできています。

業界内での動きについて、政府が把握していないことも多々あるため、引き続き帰省していくかどうか政府当局からの要求は続いていくだろうと思います。

マーケティング業界側からもまだまだできることはあると考えていまして、自主規制は一つ大きな役割を持っていると思います。業界団体はこれまでに素晴らしい活動を推進されているので、新しい法律や規制に対して継続的に対応していくことになると思います。

業界団体の役割は継続的に自主規制についての活動を推進し、フレームワークやガイダンスを発表していくことだと思います。そして、参加企業は内部で技術的な対策についても検討することが必要です。

現在はプライバシー保護技術 (PETs)についての議論が盛り上がってきています。企業がプライバシー保護に取り組む際には、異なるソリューションを審査した上で、プライバシー法規制に沿った形でのガイドラインやプライバシーについての定義を整理していく必要があります。

カリフォルニアの司法長官オフィスより発表された内容には、全世界でのプライバシーコントロールを各産業ごとにモバイルでも適用し、モバイルシグナルとして対応することを求めています

各企業は法律によってより高いレベルでの対策が求められてきており、消費者が自ら選択し権利行使できる環境へと変化が必要になります。

こういった動きは欧州GDPRを参考にして広がり始めています。ただ、欧州と米国では異なる観点で捉えています。米国については、お客様の選択肢の観点からプライバシーについての議論を行うことが多いです。

企業はお客様からデータを集める際に、自分たちが第三者から情報を提供してもらうのか、それともブランドとして一次データを集めるのかを事前に検討しておくことが必要です。

図:どのようにデータを取得するのか

どのマーケターもデータ収集とデータ共有、データ販売を行う場合にはプライバシー規定に沿って実施することが必要です。これはデータ保持やプライバシーポリシー、データの最小化などを事前に検討したものが考えられます。

プライバシー対策を進めていくことが新しいビジネス価値を生み出すきっかけ

Kohei: ありがとうございます。今はマーケティング業界で大きな変化が生まれているタイミングですね。各企業のマネージャーの役割はただマーケティングキャンペーンを実施するためにプッシュ型の取り組みを採用するのではなく、消費者が何を考え求めているのかを理解することが重要になってきています。

とても重要なテーマについてお話しいただきありがとうございます。最後に視聴者の皆様へメッセージを頂いても宜しいでしょうか。ラッシーさんがこれまでに広告やマーケティング業界で経験されてきたことは視聴者の方にとっても大切な内容になると思います。

Raashee: では簡単にメッセージをお伝えしたいと思います。プライバシーは既に重要なテーマになっています。ビジネスを推進する方やマーケター、広告主、プライバシーや法律の専門家はこれまでの活動について振り返りが必要になります。

現在取り組んでいることが、消費者の求めていることと乖離がないかを見直していくことが必要です。プライバシーはまさに消費者が求め始めている大切な要素の一つです。お客様を理解するために、継続して学び続けどういった変化を受けていれていくべきかを考えることが大切になります。

最後に、プライバシーをコンプライアンスや法的な問題に止めて考えるのではなく、ビジネスに新しい価値を提供するための意思決定として考えるようにしてください。この意思決定は企業の戦略にとっても非常に重要な要素になるでしょう。お客様の信頼と評価がブランドにつながっていくので、最適な選択をすることが必要です。

プライバシーに取り組むためには時間がかかります。長い年月をかけて取り組んでいくことが、他のビジネスとの差別化にもつながっていくと思います。

Kohei: 素晴らしいメッセージを頂きありがとうございます。私もこれからのマーケティング業界の変化については、とても期待しています。特にマーケティング業界はプライバシー問題に直面する要素が大きな分野です。定期的に情報交換をしながら進めていきましょう。引き続き、宜しくお願い致します。

Raashee: ありがとうございます。本日はインタビューの機会を頂きありがとうございました。

Kohei: ありがとうございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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