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スマートシティSidewalk Labsの失敗から学ぶ、プライバシーのある自由な社会

データを活用した街づくりは世界各地で進んでいます。

街づくりを進めていく上でプライバシーが大きな問題になったケースをトロントで開発を進めていたSidewalk Labsの話から伺っていきます。

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スマートシティプロジェクト Sidewalk Labs のアドバイザーを辞任した経緯

Kohei: 昨年トロントで撤退が発表された Sidewalk Labs(サイドウォークラボ)のプロジェクトに、先生はプライバシーアドバイザーとして参加していました。様々な角度からトロントで起きたことを調査し、各国のスマートシティを考える上で学ぶ要素が数多くあると感じています。

日本でも、テクノロジーを活用した人間中心のまちづくり構想は徐々に進んでいます。

2018年に先生がアドバイザーを辞任したことを受け、先生の当時のインタビューで起きたことを自分なりに調べました。インタビューでも辞任の理由は一部紹介していましたが、実際に Sidewalk Labs ではどのようなことが起きたのでしょうか?

Cavoukian: 私がSidewalk Labsに参加したのは数年前です。スマートシティ構想が立ち上がった頃合いに、私が住むトロント地域を開発したいという依頼を受けました。

自分の住む地域を便利で住みやすい場所に変えていく話だったので、喜んで依頼を承諾しました。”Privacy by Design” のフレームワークをスマートシティのシステムデザインで導入したいという話もあり、今後の都市作りのモデルになるとも思いました。

ただ、実際にプロジェクトが始まり構想が進むにつれて、”スマートシティ”という名前を利用して人々の行動を監視するような話が出てきたことが辞任の理由です。

図 監視社会とスマートシティ

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私の役割は、プライバシー専門家の立場からスマートシティ構想を研究し、プロジェクトメンバーに助言することでした。スマートシティ構想では、一日24時間ずっとテクノロジーが人々の行動情報を集めることが前提にあったので、個人情報は匿名化して集めるべきだと伝えていました。

たとえば、街中を走行する車のナンバープレート情報から個人を特定できる可能性があります。ナンバープレートの番号を匿名化するよう働きかけました。

車のナンバープレートの他にも膨大なデータを取り扱う計画だったので、個人データとの紐付けを控えるように主張していました。プロジェクトメンバーも「そうですね。個人と紐づけることはやめましょう!」と話していました。プライバシー専門家の視点でスマートシティに必要なアドバイスをすることが私の仕事でした。

ある時、転機が訪れます。

ジム・バルシリー氏(カナダの実業家、ブラックベリー元CEO)が Sidewalk Labs の問題点を指摘(彼はプライバシー擁護派)するまで、私はアドバイザーの仕事をしていました。

彼の指摘を受けた後に、Sidewalk Labsでは指摘に反してプライバシー保護よりもテクノロジーを活用したスマートな街づくりを進めるべきという意見がプロジェクト内で上がり始めました。私は当初から、Sidewalk Labs は責任を持って利用者データを取り扱う唯一の事業者になる必要性を伝えていました。しかしその意見に反して、プロジェクト運営者は Urban Data Trust(データを安全に集める仕組み)という複数の事業者でデータを共有、管理する仕組みを始めると発表したのです。

Urban Data Trustには政府や様々なテクノロジー企業が参加し、住民データを用いてサービス提供する構想が含まれました。 Urban Data Trust 構想を進めるために、構想に参加する事業者に対してデータを匿名化して利用することを推奨する旨をプロジェクト運営者は発表しました。

私はこの話を聞いてプロジェクトから離れると決めました。私の役割はプライバシー専門家としてプロジェクトに関わり、構想のデザインにプライバシー視点を加えることでした。プロジェクト参加者で(利用者の)データが共有され、匿名化は推奨という位置付けは私の構想とは異なると理解したからです。

プロジェクトメンバーと話して、次の朝には辞任を伝えました。辞任の表明は突然だったらしく Sidewalk Labs のニューヨーク本部から怒りの電話がきました。その際、なぜ自分が辞任する判断をしたかを説明しました。その後も(トロントの)ウォーターフロントにいるプロジェクト管理チームから電話がきて「元データを匿名化して保存する」と伝えられました。

(動画:I resigned in protest from Sidewalk Labs' 'smart city' project over privacy concerns)

最終的に、私は Sidewalk Labs から離れました。それ以来、データの価値を十分に検討しないプロジェクトには関わっていません

Kohei: そうした背景があったのですね。先生のお話のようなケースは他の都市でも起こりうる可能性を感じます。

プライバシーを気にせず使えるサービスは組織全体でつくる

Kohei: 今回の Google の失敗事例から私たちは何を学び、プライバシーを気にせず生活できるスマートなまちづくりに取り組む必要があるでしょうか?

Cavoukian: Koheiさん、私はスマートシティの国際評議委員も務めています。

(カナダから見て)東側のドバイや上海の街づくりの現状も理解しています。ドバイや上海の地域は住民の活動を監視することを前提にしているため、住民にとって自由で開かれた社会とは到底思えないですね。そうした懸念があります。

Kohei: ありがとうございます。まちづくりのロードマップを検討する段階でプライバシーの視点を持つことは大切です。

最後に、ビジネスを推進する上で ”Privacy by Design” のフレームワークをどの段階に導入するといいかお伺いできればと思います。企業で ”Privacy by Design” を実践する際、組織内の誰が率先して取り組み、組織やチームを動かすべきだと思いますか?

Cavoukian: 組織全体で考える必要があります。”Privacy by Design” に取り組む必要性を伝えるとき、私はCEOや役員に対して、プライバシーがビジネスを推進する上で重要である理由を説明します。

”Privacy by Design” をビジネスの現場に導入することで企業にどんな恩恵があるかを強く伝えます。

(少し画面が切れたみたいですね。)

(Kohei: そうですね。大丈夫です。そのまま続けてください。)

(Cavoukian: わかりました。ちょっと何が起きたかわかりませんが。)

Cavoukian: 先ほど話していたのは、CEOや役員にプライバシーに取り組む重要性を伝えることが必要だという話ですね。

CEOや役員クラスがビジネスにプライバシーが大切であると理解した時点で、企業内のCPO(プライバシー責任者)を通じて開発責任者と他部門の責任者を招集します。そして ”Privacy by Design” のフレームワークを組織内でどう実装するかを話し合います。

図 重要性を伝えるステップ(CEO,役員クラス⇨CPO⇨責任者という流れ)

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話し合いののちに実装を進めます。実装によって ”Privacy by Design” の考え方がビジネスの現場運用に導入されます。CPO(プライバシー責任者)が組織に一人しかいない場合は、別のメンバーをチームに割り当てて進めます。

Kohei: ありがとうございます。具体的でわかりやすいですね。

企業の意思決定者の方と話すと、”Privacy by Design” のコンセプトと考え方を組織内部でどう実践すると良いかと質問されることが多いです。

(インタビュー前半に)ご紹介いただいたアナロジー的な考え方(プライバシーを考えることは、社会における組織の存在価値を考えることと同じ)は改めて大切だと思いました。

プライバシーのある暮らしのためにPrivacy by Designの実践を進める

Kohei: 最後に、Privacy Talkを聴いている皆さんにメッセージをいただけますか?先生がお話ししたJIPDECさんを始め、プライバシーに関心を持って取り組む人たちが日本でも少しずつ出てきています。プライバシー分野で活躍しようとする未来の専門家にも向けたメッセージをもたえたらと思います。

Cavoukian: ありがとうございます。貴重な機会をいただき嬉しいです。

プライバシーは、私たちが自由に日々暮らすために重要な考え方です。データを活用する組織は、プライバシーの配慮を前提とした適切なデータ活用を考える必要があります。

プライバシーを中心としたデータ活用の考え方を学び、実践することで良いデータ活用が進みます。ただそれには時間がかかるので、実践の場で活かせる仕組みづくりは必要です。

2014年、私がコミッショナーとして活動している間に、プライバシーと組織にまつわる100以上の事例をもとにレポートを執筆しました。

マイクロソフトやインテル、HP、IBM、オラクルを初めとしたテクノロジー企業の取り組みを22ページのレポートに最終的にまとめ、他企業でも応用できるような参考資料として発表しました。そこでも ”Privacy by Design” の考え方を説明しています。

参考資料を見た多くの企業から、ポジティブなフィードバックとメッセージをもらいました。多くの企業で ”Privacy by Design” が実践されて企業活動に貢献するように、今後も取り組んでいきたいです。

Kohei: 素晴らしいメッセージをありがとうございます。

プライバシーを取り巻く環境は現在も刻一刻と変化しているので、各国のプライバシー専門家は協力する必要があると思います。先生のメッセージはこれからプライバシー分野で活躍する人たちの励みになると思いました。

Cavoukian: プライバシーを前提とした社会を作っていきたいですね。

Kohei: カブキアン先生、ありがとうございます。今日のインタービューはとても参考になりました。引き続き連携できれば嬉しいです。

Cavoukian: そうですね。

プライバシーに取り組みたい方はぜひ連絡してください。事業者を取り巻くデータ活用のビジネス環境が変化することで、社会も良い方向に変わっていくと思います。ありがとうございました。

Kohei: ありがとうございます。

昨年立ち上げた Privacy by Design Lab は先生の ”Privacy by Design” の考え方に由来して名付けられました。”Privacy by Design” を一人でも多くの方に届けていきたいと思います。ありがとうございました。

Cavoukian: 素晴らしいですね。ありがとうございます。それでは。

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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author 山下夏姫

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Privacy by Designとは、技術的・組織的な側面から議論される、人間中心のデータ循環をデザインするための概念です。Privacy by Design Labは様々な専門家がプライバシーに取り組むための社会的機能をリリースしていきます。