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各国で議論されているワクチン証明書の行方

デジタルワクチン証明書は、国を越えた渡航が再開するための重要な役割を持っています。

今回はCCI(コロナデジタル証明書イニシアティブ)からコミュニティディレクターのLucyとエコシステムディレクターのKaliyaにCCIの取り組みをお伺いしたいと思います。

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Kohei: 皆さん。今回のPrivacy Talkにお越しいただきありがとうございます。私も関わっているワクチン証明書のプロジェクトから二人の同僚メンバーのLucyとKaliyaに来ていただきました。今日はインタビューに参加して下さりありがとうございます。

Kaliya: インタビューの機会をありがとうございます。

Lucy: 招待いただきありがとうございます。

Kohei: ありがとうございます。始めにお二人のプロフィールを紹介したいと思います。先にLucyから紹介します。

Lucyは起業家、ビジネスリーダーとしてベンチャー企業のゼロから10の成長に取り組む活動を行なってきました。現在はトロントを拠点に活動し、それまでは中国の北京で起業家向けのプログラムを運営する会社を起業し、1年間で中国国内の主要4都市への事業展開を行っていました。その後にテクノロジースタートアップへ15人目のメンバーとして参画し、1年以内にクライアントを30から1000まで増やすことに成功しました。

KaliyaはVerifiable Credentials(検証証明書)開発者のコミュニティ運営をしながら、分野を越えた組織のネットワーキングを支援しています。 2005年からInternet Identity Workshopの創設者として活動し、現在も年に2回Workshopを開催しています。デジタルIDに関しての本をこれまでに2冊出版し、“Identity Woman"としても知られています。

今日はお二人に参加いただきありがとうございます。早速本日のアジェンダに入っていきたいと思います。コロナのワクチン証明書は全世界で大きなテーマとして取り上げられ、開発者コミュニティも立ち上がっています。私たちのコミュニティも約1年半活動をボランティアで続けてきています。ここから質問に入りたいのですが、まずはLucyにお伺いしたいと思います。

コロナ証明書のオープンソースコミュニティが目指すもの

1年半以上前にCCI(コロナ証明書コミュニティ)が立ち上がり、現在は各国から有志のメンバーが集っている状況です。現在はLFPH(Linux Foundationパブリックヘルス)とも連携し、幅広い専門性を持った人たちのネットワークに成長してきています。LFPHとCCIの活動内容をLucyから説明お願いできますか?

Lucy: 質問ありがとうございます。皆さん、私はLucy Yangといいます。宏平さんから紹介がありましたが、中国の北京出身で現在はカナダのトロントで活動しています。CCIはCOVID credential initiativeの略称で、私はコミュニティディレクターを務めています。CCIはご存知の方もいらっしゃるかもしれない世界最大規模のオープンソースコミュニティLinux Foundation傘下のプロジェクト、Linux Foundation Public Healthの一部として活動しています。

CCIがどのように始まったのかに答えると、COVID credential initiativesの名前に代表されるようにコロナ対策の取り組みとして2020年3月に立ち上がりました。

コロナが世界中に広がってしまったことはとても残念なのですが、コロナが広がった状況下でデジタル証明書を開発している技術者が一斉に集まりパンデミックで広がった課題をテクノロジーで解決したいと始めたのがきっかけです。

開発者が課題の解決策を持ち寄り議論を進めてきました。例えば、デジタル証明書を活用することで職場に復帰できるような環境を作ることができないかというアイデアや普段の生活に戻るためにデジタル証明書を活用できないかなどです。このような経緯で私たちは取り組みを始めました。

図:デジタル証明書を活用することでできるようになること

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Linux Foundation Public Healthとの連携を2020年の後半に発表したのですが、連携を決めた理由はより多くのステークホルダーと共同で取り組みを進めていく必要性を感じた方です。

ヘルスケア分野でのコラボレーション

CCIは技術者中心のコミュニティなのでヘルスケアに詳しい人や科学者、ビジネスに詳しい人たちと連携する必要がありました。Linux Foundation Public HealthはLinux Foundationの公共ヘルスケア部門としてオープンソース技術を支援する立場で活動していたこともあり、CCIと親和性があると考えたのが大きな理由です。

それ以外にLinux Foundation Public Healthは公共の医療機関等のステークホルダーとの連携支援や現場で課題を抱えている人たちとの接触の機会を提供してくれ、技術を活用することでどのように課題を解決できるのか双方の視点で考える機会を提供してくれています。

こういった経緯があってLinux Foundation Public Healthと連携を行っています。昨年に Linux Foundation Public Healthと連携を発表してから、コミュニティ活動だけでなくデジタル証明書の標準化も進めていて、LFPHは公の医療機関向けに提供するソフトウェアサービスの開発も進めています。

図:コラボレーションによって活動が拡大

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連携によってこれまで進めていたソフトウェア開発速度も上がり、ワクチン証明やテスト証明等の仕組みも準備できつつあります。

この内容でCCIの取り組みが皆さんに伝われば嬉しいです。.

Kohei: 初めはとても小さなコミュニティでしたが徐々に大きくなってきていますね。各国から参加する人たちも増えてきて、私も初期から参加しているのでとても刺激を受けています。参加者は皆さんボランティアで関わっていて、特にコミュニティをまとめているLucyの活躍はとても素晴らしいと思います。

私もLucyのリーダーシップに影響を受けてコミュニティに参加するようになりました。ここからはお二人に質問です。なぜお二人はCCIに関わるようになったのでしょうか?元々お二人はデジタルID技術に関わられていたと思うのですが、どうしてCCIに参加しようと思ったのですか?

二人がコミュニティに参加を決めた理由

Kaliya: そうですね。私もLucyの活動に影響されて関わり始めました。これまで10年以上証明書関連技術のプロジェクトに関わってきているので、そういったコミュニティとの連携をサポートしようと思い参加しました。

私がCCIに関わった当初はコミュニティ連携を行っていました。今はコミュニティ連携活動から、新しい技術開発全体を見るようになりました。私がこれまで継続してきた活動がCCIでの活動にも繋がっていてとても嬉しいです。Lucyにも理由を聞いてみたいです。

Lucy: Kaliyaはミッションをとても大切にして活動しています。彼女はデジタルIDとデジタル証明書に関して10年以上取り組んできているので、私も彼女の活動をとても尊敬しています。

インタビューの始めに私の経歴を紹介してくださったのですが、私はこれまでビジネス活動を中心に行ってきました。私がCCIに関わったきっかけは、Kaliyaのようにこれまで培ったビジネスの経験を活かしてコミュニティを盛り上げていきたいと考えたからです。ただコミュニティを運営するだけでなく、新しいテクノロジーを社会で活かしていくための場づくりは私にとってとても刺激的だと思いました。

私は社会起業家としてこれまで活動してきたこともあって、ビジネスの知見や経験を社会課題の解決や公共の利益に繋げていきたいと思っています。私はKaliyaのようにミッションを持って活動している人たちと仕事をすることはとてもエキサイティングです。

それ以外に、公共医療の分野で今起きていることをテクノロジーコミュティに伝えていくことにとても可能性を感じています。Kaliyaはこれまでに多くのテクノロジー開発者と繋がりがあり、様々なプロジェクトを牽引されてきているので一緒に活動することで新しい価値を生み出してくことができると感じています。

Kohei: 素晴らしいですね。私もこれまでソーシャル分野での活動に関わってきました。新技術をソーシャル活動で取り入れることがこれから求められていくと考えています。

ワクチン証明書は安全に経済活動を活性化させていくためにとても重要な取り組みだと思います。次はお二人にこれまでの1年半のプロジェクトの経過とこれからに関してお話をお聞きしたいと思います。今現在各国ではワクチン証明書に関してどういった動きがあるのでしょうか?

各国で議論されているワクチン証明書の行方

Kaliya: 私たちがCCIを始めた当初はワクチン証明書のデジタル化を中心に議論を進めていました。一方で公共の医療機関ではワクチン証明書に関する議論よりは、いち早くワクチンを受けることができる環境の整備に大きな関心がありました。

ワクチン接種が進んでいくにつれてデジタル証明ではなく、紙の証明書に対応する必要がわかりました。そしてデジタル証明ではワクチンを摂取したかどうかの確認だけでなく、テスト結果が陰性であることも確認する必要があります。

図:紙かデジタルか選択できる必要性

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コミュニティネットワークで活動することで、こういった事実が徐々にわかってくるようになりました。現在は、コミュニティネットワークを通じてどういった要素が必要になるかを事前にヒアリングしながら、海外渡航の再開に向けてプライバシー対策を行った上で必要なデジタル証明のシステム要素を準備していきたいと思います。

私たちの活動にはどんどん賛同者が集まってきているので、これからは見えている課題解決のための取り組みを進めていきたいと考えています。

Lucy: Kaliyaの説明に少し加えると、初期パンデミックが始まった段階でどういったことが各国で起きているのか情報交換を行っていました。科学的にどうすればワクチンの開発を促進できるのかを中心に、年末にはワクチンが広まるためにできることは何かを中心に話をしていました。

始めはワクチン証明接種証明ではなく、テスト結果の証明書を開発する構想の話をしていましたね。ワクチンを接種する人が増えてきてから、海外渡航を検討する人たちも徐々に増えてくるとともにテスト結果の証明書が必要になりました。

昨年末にはここまで紹介した話を中心にメンバーで議論を行っていました。ワクチン接種が広まってから少しづつ風向きが変わり始めましたが、3月、4月まではあまり大きな変化はありませんでした。

今年の始めの段階では、多くの人がワクチンを接種できていなかったので、接種証明の議論もあまり進みませんでした。ただ、今年の中旬くらいからワクチン証明の議論が少しづつ盛んになり始めました。証明書も始めは紙のカードが中心でしたが、徐々に他の手段での議論も行われていくようになりました。

紙のワクチン証明書が持つ盲点

紙の証明書にはいくつか問題があります。一番大きな問題は偽装が簡単にできてしまうことです。偽装できてしまう問題は、これから変異種が数多く広まっていくようになるとより深刻な問題になっていきます。

偽装の問題等が起きると人々が証明書を信じなくなってしまうので、やはり対策が必要になると思います。医療産業も公共医療に関わっている人たちも、これからどういった対策を講じていくのかがより重要になっていくと思います。既存の技術と科学的な知見を活用して証明書を発行する仕組みを準備することが必要だと思っています。

ただ、今現在世の中に広がっている技術だけではコロナの拡大を抑えることができないのでワクチン接種証明書を活用できる仕組みを検討していく必要があると考えています。

イエローカードのように渡航用で発行されるワクチンカードは全く新しいコンセプトではないのですが、現在はイエローカードを利用する方法が現実的ではないかと考えられます。 

 陰性証明書を利用して海外渡航ができるようになることは特に新しいコンセプトではないですが、陰性証明書を利用してレストランへ入店できたり、イベントへ参加できるようになることはこれまでに無い新しいコンセプトですね。

図:渡航に必要なワクチン証明書の設計

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CCIとLFPHは海外渡航用の証明書に現在注力しています。理由としては技術だけで解決することが難しく政治的な駆け引きや関係性が必要になる分野だからです。そこで私たちは各国の医療機関と連携して、バラバラのシステムが互換性を持って連携できるような仕組みを検討しているところです。

CCIのコミュニティメンバーの中には各国で政府システムの開発やワクチン証明書の設計に関わっている人たちもいます。政府によっては感染リスクが高い地域へ入る場合にワクチン証明書を必須とする地域もあり、証明書の発行と仕組みに関する課題の解決先に取り組んでいます。

私たちのコミュニティでは今、これまであまり議論されていなかった数多くの問題に直面しています。そういった前例の無い問題に取り組むためには、ワクチン証明書の議論をもっと開かれた形で進めていきたいと思いますし、公と民間が協力する動きも作っていく必要があります。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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