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ポートランド市ではなぜ監視技術に関する政策を満場一致で採用することができたのか?

※このインタビューは2023年3月31日に収録されました

スマートシティプロジェクトを推進するためには、住民の方の理解と参加の仕組みを設計することがとても大切です。。

今回はオープンデータコーディネーターとしてオレゴン州ポートランド市で活動されているヘクターさんに、住民対話とプライバシー政策についてお伺いしました。

前回の記事から

ポートランドでは監視技術に対する政策をどのように通過させ、2019年や20年に起きた顔認識技術を採用する際の懸念に対してどのように向き合ってきたのか教えてもらえますか?

ポートランド市ではなぜ監視技術に関する政策を満場一致で採用することができたのか?

Hector: そうですね。これまでに私がお話してきたテクノロジーが受け入れられなかった理由は、生活者の方々が期待するようなサービスやプロダクトになっていなかったことが大きな原因です。私たちはテクノロジー開発ベンダーの主張だけを聞き入れるのではなく、実際にニーズがあるかどうかを確かめていく必要があると思います。

これはコミュニティの観点で考えることが必要です。米国内でもコミュニティによって異なる歴史や文脈があります。黒人の人やその土地にずっと住んでいた人、移民の人では考え方が違いますし、移民については世界中から色々な人が集まってくるので全く考え方が異なりますよね?

どの地域から移民が来るか否かは大きな問題ではありません。アメリカには中東、欧州からも多くの人たちが移り住んでいます。 移民であることによって、その土地に住んでいた人とは情報の管理方法や本人確認が異なるため個人データの取り扱いに問題が発生する場合があります。

時には同意なくデータが利用されるケースもありますし、どのようにデータが利用されているのかわからない場合もあります。

こういった問題が起きることによって、テクノロジーに対する不信感も生まれてくるのです。そしてテクノロジーへの不信感が募ることで、本来テクノロジーで実現を目指していたことも達成できなくなるので、個人のデータを収集し、監視等を行うための技術についてはどのような目的で利用されるのかを事前に知っておく必要があります

私たちは公共空間での関係性作りと参加しやすい環境を準備することが重要であると考えていて、参加者から意見を聞いたりするだけでなく、環境をデザインしたり、街で何が起きているのか知ってもらうことにも取り組んでいます。

この取り組みは2019年から継続して続けてきているのですが、開始当初からプライバシーや情報保護についての規定、一般向けのガイドラインを定めて活動しています。

私たちは2019年に顔認識技術のポリシーを定めました。ポリシーを定めたタイミングで、プライバシーや情報保護についての規定も定めることができました。

当時はサンフランシスコのような他の都市で、肌の色や年齢、性別によるバイアスがかかってしまうということで、顔認識技術の利用を停止するような地域も出てきていた時期でした。

      (動画:San Francisco bans facial recognition)

私たちは他の都市で起きていることを事前に調査し、調査結果をもとに私たちの街では技術の導入を禁止すべきか、それとも他の方法を検討すべきかを確認して回っていました。

こういった活動を経て、自分たちのポリシーを制定することができたのです。ポリシーを制定するにあたっては、1年間住民の方々と情報交換を行うためにイベントを実施したり、行政内部のリーダへの働きかけを実施したり、職員や管理者、中間管理職やディレクター、実務者の選任についても進めてきました。実際に技術を導入することを決めた場合には、技術を運用する人を選任する必要もあったので事前に準備することがたくさんありました。

ポリシーを制定するためには、同時に並行して進めていくことがたくさんありました。これまでの積み重ねの結果、満場一致でポリシーに賛成いただくことができたのです。事前に関係者へ広く周知活動を実施していたことと、活動を進めていく過程に関わってもらいながら、それぞれの期待値を調整していきました。

実際には全ての人が納得する結果にすることは難しかったのですが、最終的には合意を取れるように進めてきました。私も活動に賛同していたので、ポリシーの作成過程に関わらせてもらいました。

多くの人に参加してもらうことがより良い環境につながっていくので、今後も継続して取り組んでいきたいと思います。こういった取り組みを積み重ねていくことで、監視技術についての政策も成立させることができたのです。

ここまで紹介したように監視技術についての政策を成立させようと考えると複雑な手続きを乗り越えていく必要があります。監視技術を導入する際には人の権利を中心に考え、早急なテクノロジーの発展と活用を推進していくべきだと思います。政策を検討する際には、一貫性を持って取り組むことが必要になります。

私たちの場合は、政策を設計する際になぜ政策を実現したいのかという出発地点に立ち返って、誰もが出発点を理解できるように注力しました。参加者の人たちが同じレベルで理解できた後に、私たちが実現していきたいことを伝えるようにしたのです。

監視技術を評価するためのプライバシー影響評価とは何か?

私たちが政策を検討する際に透明性のある手順を踏みながら、より多くの情報を伝えていくように心がけていました。こういった経緯を経て、現在では政策を成立させ、町中で監視技術を導入できるように次の動きを進めています。

私たちはただ政策を立案するだけでなく、新しく監視技術を導入する際にはリスクを明確にするためにプライバシー影響評価を実施するようにしています。プライバシー影響評価については、技術導入の計画、そして調達するタイミングで実施しています。監視技術と言っても、事前にプライバシーに問題がないかどうか影響評価を実施するのです。

監視技術の導入をこれから進めていくことになるので、ゼロから仕組みを作っていかなければいけません。ここまで紹介してきた取り組み以外に、他の都市での取り組みを調査し、実際に運用している担当者との情報交換も重要な活動の一つです。

既に他の都市で実証されているものがあれば、新しく開発する必要はありません。他の都市で実施されている取り組みから学べることはたくさんあります。民間での知的財産利用を幅広く認めているような地域もあるので、こう言った違いを知ることが重要です。

私たちも多くの都市と情報交換をしていて、西海岸の地域とは定期的に打ち合わせを行っています。シアトル市は私たちがスマートシティに取り組み始めた時期から、色々とアドバイスを頂いています。

シアトル以外には、サンフランシスコやオークランド、サンディエゴやサンノゼ、サンタクララ等の地域とも情報交換を行ってきています。

(画像:各州で情報共有を積極的に実施する)

私たちの連携先は米国国内に限らず、全世界の各都市と一緒になって街中でのデジタル権利について考えを深めています。欧州では、バルセロナやアムステルダム、ロンドンやダブリン、ベルリンやレイキャヴィーク、ヘルシンキ等の都市とはこれまでにも連携してきています。米国ではニューヨーク市とは連携を行っています。

国を越えた都市の連携については、私たちにとっても良い効果があります。お互いに文化や背景は違えど、共通した部分もあるため必要な情報は共有し実施する際の参考にさせて頂くように心がけています。他の都市で実施していることを参考に展開できれば、ゼロから取り組むよりも効率的に物事を進めていくことができます。

Kohei: 素晴らしい活動ですね。街に住んでいる住民の方や様々なステークホルダーの人たちに情報を伝えていくことは、それぞれ監視技術に対して考えが異なる人たちに理解してもらう上で大切なことだと思います。地域に住んでいる方によっては、データが適切に利用されているのか、果たして同意が十分に実施されているのか気にされる方もいると思います。

あるステークホルダーの人たちはデータについて懸念を持っていたとしても、別のステークホルダーは同意に対して懸念していることはよくあると思います。

加えてお聞きしたいのですが、異なるステークホルダーの人たちに向けてどのように情報を伝えていたのでしょうか?一律に同じ情報を伝えていたのか、それともステークホルダーによって情報を変えて発信していたのでしょうか?

異なるステークホルダーの理解を得るために、どのようにメッセージを伝えたのか?

Hector: どちらもですね。ソーシャルメディア上ではブログの更新内容等を一律に配信したり、メーリングリストからメール連絡をお送りしたりしていました。メーリングリストには、民間企業や中小企業、業界団体、学術機関や調査機関、ポートランドやオレゴン州の同僚の連絡先、地域の市民団体や個人、非営利団体等の連絡先が登録されていて、多様な方々に情報を伝えられるようになっています。

勿論、ご紹介したメーリングリストは小さなグループが集まった大規模に情報を伝えるためのリストの一つで、リストに含まれるステークホルダーの中でも積極的に活動している人たちとは積極的に集まって情報交換を行ったりしています。

グループによっては一対一で話をすることもありますし、警察や法的な執行の問題について考える市民団体や移民問題について考える団体の方々とも、監視技術に人工知能が導入されることによってどういった影響があると考えられるのか話をしたりしています。

こういった団体と連携する際には、団体の活動に合わせたメッセージを検討しますし、デジタルリテラシー教育のためだけに情報を提供することにならないようにしています。

私はスペイン語がネイティブで話すことができるので、お互いにスペイン語で話をすることもあります。将来的には、他の言語で意思疎通できるようにもしていきたいと思っています。この地域にはソマリ語を話す人たちも数多く住んでいます。

    (動画:A Somalian Immigrant's Portland Story)

以前ソマリ語で苦情相談受けた際に、十分に理解することができなかったこともあります。今では、ポートランドに世界中から多様な人たちが集まってきています。スペイン語やベトナム語、中国広東語やウクライナ語、ロシア語も話されています。

ソマリ語については、ペルシャ系のイランの家族のケースが例として考えられます。幅広く多様な人たちが住んでいるので、私たちが運営するプログラムの中で限られるリソースを活用していくことが必要です。

コミュニティを上手く活用していくことが必要です。私たちの活動は民間企業とも連携することもあります。民間企業と話をする際には、事業によって関わってくる法律の違いについても言及することもあります。特に中小企業の方と話をすることが多いのですが、フードカーを営んでいる方も扱う商材によって千差万別ですし、フットケア系のサービスを展開されている方もそうでした。

それ以外にも街で小さなお店を経営している方や、Google、Amazon、Appleのポートランドオフィスや最近ポートランドから拠点を移したウォールマートを始め、業界企業や団体とも幅広く話し合いを行ってきました。

私たちはステークホルダーが必要とする情報を提供するように心がけています。こういった活動を続けることで、飛行機場からも直接連絡を頂くようなケースもありました。

飛行機場に限らず、他の管轄施設も重要なステークホルダーで、街を運営していくためには公園や道路、学校は管理外でしたが、そういった施設管理についても対応が必要になります。

実際には空港や自然保護地域等については管轄ではないため、都市のステークホルダーと言っても非常に複雑な関係にあります。

ここまでの取り組みについては、非常に重点的な対応が必要になります。ここまでの政策を推進することによって、様々なステークホルダーの方々と情報を共有することができたことは素晴らしいことだと思います。

Kohei: 先程ポートランドで定めたプライバシーの規定についてお話をして下さったかと思います。この規定はとても素晴らしいものだと思います。スマートシティ開発を進めていく前段階で規定を定めていたとおっしゃっていましたが、規定の内容と規定がスマートシティ開発にとってどのように重要であるかを教えていただいてもよろしいでしょうか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編2は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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