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【ウクライナ特別編】キエフ市が構想するデジタルを活用した未来への挑戦と各国パートナーとの連携

Privacy Talkでは多様な当事者が集まるグローバルなコミュニティとして数多くの皆様と対話を進めています。このインタビューは6月9日にKohei Kuriharaとキエフ市のチーフインフォメーションオフィサーOleg Polovynko氏が戦時におけるCIOの取り組みと挑戦について話をした内容になります。

戦争によってキエフ市のデジタル戦略は大きな転換期を迎えました。本インタビューではキエフ市のセキュリティシステムで行われたことと, #キエフデジタルアプリを通して、市民の安全を最大化した取り組みについて深ぼって伺っていきます。

前回の記事から

戦争が始まってから、どのようにしてインターネットインフラ環境の維持を行ってきたのでしょうか?

キエフ市内の関係者が一丸となって守る社会インフラ


Oleg:
キエフ市では3つの通信会社がモバイルネットワークを提供しています。通信会社が提供する4Gネットワークの通信範囲は戦争禍でも非常に安定して維持できています。

当初私たちが懸念していたことは、電力が止まってしまった場合に安定してネットワークを提供するためにどういった対策を取るべきかという事です。緊急の場合には、爆弾を回避するシェルター内では通信環境が不安定であるという問題が難解でした。

そこで、インターネットプロバイダー企業と連携し、1000のシェルターにWifi回線を提供してもらい、シェルター内で人々が働ける環境を維持するように取り組みました。

シェルター内でもインターネット回線に接続できることで、避難した人々がシェルター内で継続してビジネス活動を行ったり、オンラインセッションに参加したり、ネットニュースを受信したり家族と継続して連絡を取ることもできるようになりました。

シェルター内でのネットアクセスについての問題は解決したのですが、2022年2月にGoogleがマップの仕様を変更しサービスを停止したことによって新たな問題が発生しました。

そこで私たちは市民の方に向けて独自にマップを制作することにしました。マップの情報を充実させるにあたり、食品店、薬局、自動車販売店等の5000近くの小規模企業がお店の開店時間等についての情報を提供して下さりました。

Kohei: 戦禍の状況で、キエフ市のデジタルチームの活動は非常に素晴らしいと思います。次に安全なネットワークに関する質問をお伺いしたいと思います。緊急時にはデジタルインフラの重要性がより一層高まるだろうと考えられます。これからキエフ市で安全なデジタル環境を整えていくために、どういったことに注力していく予定でしょうか?

キエフ市民へ安定したデジタルサービスを提供するために考えるべきこと

Oleg: 現在私たちはメインのデータセンターが崩壊し、新たな難解に直面しています。ウクライナ市民にとって重要な施設を標的にしてミサイル攻撃を実施したことがきっかけになっています。

私たちが市民の方へサービスを提供するためにデータセンターはとても重要な役割を担っているので、現在はデータの回復とバックアップに注力しています。私たちが必要としている監視カメラネットワークに対して攻撃を仕掛けてきているのです。

今私たちは様々な課題解決に直面しています。サーバーセキュリティについては、継続して行われている攻撃に対して、対抗していかなければいけません。現在はデータ保護サービス、ビジネス継続環境に加えて、サーバーセキュリティの3つに注力し、日々運用を行っています。

Kohei: キエフ市では非常に複雑な問題に対処していることがよくわかりました。サイバーセキュリティインフラについては、非常に重要であることがよくわかりました。

オレグさんのインタビューをいくつか拝見させて頂いたのですが、Kyiv digitaで実装された機能について、いくつか興味があるのでお伺いできればと思います。

先程オレグさんからご紹介いただいたアプリの機能の中で、キエフ市民が民主的な意思決定に関わることができるようなサービスを実装したとお話しされていたかと思います。この機能は、市民の方々が公共の活動に関心を持つためにも重要な役割を担っていると思います。

ただ、オープンに投票機会を与える場合にはプライバシーと情報公開の権利の課題が出てくるかと思います。この課題は開発者側だけでなく、投票に参加する市民の方々にとっても重要な課題として捉える必要があるのではないかと思います。キエフ市のデジタルチームでは、こういった投票におけるプライバシー課題についてどのように取り組まれているのでしょうか?

機能を実装する際に戦略的に取り組まれたことや、実装までに他のステークホルダーの方々と議論した内容等あれば教えていただけると嬉しいです。

キエフ市で実現したデジタルで実現する開かれた民主主義と個人認証の仕組み

Oleg: 民主的なデジタル投票のサービスについては、私たちは3つの機能を実装しています。1つ目は市の予算配分に関する投票への参加ができる機能です。この投票へ参加する場合は銀行IDを本人認証で活用しています。2つ目が簡易投票機能です。投票に参加する場合には、特別な認証は必要ないため希望のプロジェクトに参加できます。

この投票については全投票結果について細かく計測することは行っていません。3つ目がコミュニティが主導する投票へ参加できる機能です。この投票では行政に対して市民からアイデアを投票することができます。

先程も紹介しましたが、投票参加者を認証する際には市と国で採用した外部の認証サービスを利用して投票を実施することができるようになっています。この認証システムについては、国のシステムによって高度にセキュリティを担保できる状態で設計されています。

投票の機能を実装してから、市民の方々が市の投票過程に積極的に関わり始める傾向も見られるようになってきているので、国レベルで投票機能を導入したことは今の所うまく行っていると思います。

現在、私たちは電子ドキュメントに関するウォレットサービスDiiaの導入を進めています。Diiaでは全ての電子IDサービスを保存することができます。

         (動画:Digital passport in Diia)

Diiaにはパスポートや運転免許証、自動車登録番号、出生証明書、婚姻証明書を始めとして様々なドキュメントを保存できるようになります。

    (動画:昨年ウクライナで開催されたDiia Summitの様子)

Kohei:
オレグさんのチームで取り組んでいる市民向けのサービス運用は非常に素晴らしいと思います。ここからは次の質問へ移りたいと思います。キエフ市では各国のサービスプロバイダーと連携して新しい機会の提供を積極的に実施していくとお話しされていました。

そこで、キエフ市が見据えるスマートシティ計画の今後とどういった方々との連携を模索しているか教えていただけますか?

キエフ市が構想するデジタルを活用した未来への挑戦と各国パートナーとの連携

Oleg: キエフ市では様々な分野でスマートシティ化を進めていきたいと思っています。市民サービスを統合して、市民と自発的にコミュニケーションを取ることができるような環境に変えていきたいと思います。

市民サービスについては、デジタルツインモデルを目指して計画を設計しています。前段で話したように、キエフ市では毎日100万台以上の自動車が走行しています。キエフ市では市民が100%管理できる仕組みをアプリケーションで導入し、いつでも市民サービスにアクセスできる環境を整備したいと考えています。

交通網を整えていくことは重要な社会課題になっています。社会全体の環境を考えると、カーボンニュートラルに取り組んでいくことも検討していくことが必要になります。

社会課題の解決策についてもデジタル化が進んでいくと考えています。ドローン等は良い例で、空便を上手く活用すれば市民の課題にも貢献することができると思います。こういった未来の構想を見据えながら公共空間の安全性に関する規制に向けた動きも進めています。

公共空間について考えることは戦禍での対策だけでなく、自然災害や洪水(キエフ市は大きな川に面しているため洪水リスクが高い)、ウクライナを取り巻く自然環境が破壊されるような山火事も私たちが懸念している対象です。

こういった自然災害の問題は未来永劫向き合っていくべき課題として残っていくと考えているため、私たちは有事に備えた対策を検討していくことが最重要任務であります。私たちが取り組む未来のデジタル環境には、公共の安全性やデータ保護、個人データに関する問題や基本的な権利も含まれています。

AI技術を居住者への配送サービスで実装することにより、より自動化された社会を見据えた構想も進んでいます。私たちが掲げる未来を実現するためには、様々なデジタルソリューションが必要です。未来のキエフ市を実現するためにも、世界中様々なエリアの方々と協力し、パートナーとして推進していきたいと考えています。

Kohei: ありがとうございます。キエフ市では強いミッションを掲げて、より強靭な社会を作っていくための動きを進めていることがわかりました。改めてオレグさんを始めとしたデジタルチームの活動には敬意をお伝えしたいと思います。最後に視聴者の皆様へメッセージをお願いできればと思います。オレグさんの考えや取り組みは皆様にとって非常に参考になるかと思います。

Oleg: 私たちは"デジタルを通した強靭化" をモットーとして掲げています。私たちが直面している課題を解決していくために、デジタル技術を活用した動きを推進しています。

私もデジタル社会の一員として、デジタル技術の可能性に期待していますし、デジタル技術を通した平和な社会を皆さんと一緒に作っていきたいと思っています。

キエフ市が直面した経験から、私たちは数多くのことを学び皆様へ伝えていくことが必要だと考えています。最近ではドニプロ川の水力発電所が破壊され、人工的な洪水が発生し40の街に影響があり、多くの人の生活が脅かされています。

今回の崩落は私たちが直面しているケースだけでなく、全世界でも同様に起きうることではないかと思います。ウクライナ市民やキエフ市は日々困難に立ち向かう準備はできています。オランダの子供が水面上昇によって幼くして泳ぐことを学んだように、ウクライナが直面している課題から学ぶこともたくさんあると思います。

最後に、私たちはオープンに支援やサポートを世界中から募っています。ぜひ未来に向けて一緒に対話を行い、新しい方向へ進んでいきたいと思います。

Kohei: 素晴らしいメッセージを共有いただきありがとうございます。本日お話しする機会を頂き、とても感謝しています。平和な社会に向けて、お互いに継続して手を取り合いデジタル化に向けて連携していきたいと思います。改めまして、キエフ市よりご参加いただきありがとうございます。一緒に未来に向けて進んでいきましょう。

Oleg: 宏平さん。本日は貴重な機会と素晴らしい時間をいただきありがとうございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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