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ブラジルで検討されているAI利用に関する規制のサンドボックス制度

※このインタビューは2024年7月16日に収録されました

AIとデータ保護に関する制度設計はラテンアメリカの国々でも積極的に議論が進みつつあります。

今回はブラジリア大学 (UnB) ブリュッセル自由大学(VUB)の共同博士課程プログラムに在籍されながら、ブラジルデータ保護監督局でも活動されているチアゴさんに、ラテンアメリカ地域でのデータ保護トレンドとAI関連の政策動向についてお伺いしました。

前回の記事より

この戦略は私がブラジルに帰国した2020年にスタートし、私もドラフト作りには参加させて頂いていました。残念ながら政治的な意図もあり、最終的な開発まで至らず十分な議論を経ていない状態で進んでしまいました。

AI規制についての議論を進めていくために検討が必要な論点

政治的な要因もあって最終的に発行されることにはなりましたが、まだ検討が不十分な点も残っています。より良いものを準備するためには、最終目標やマイルストーンを設定し、ブラジルがどのようにAIと向き合っていくかを整理していくことが必要になります。

私がこの戦略を紹介した理由をお伝えすると、このAI戦略というのは経済に直接貢献するような生産性の議論を含んでいるからです。戦略の中には、教育分野や生産分野、働く環境に関連した内容も含まれます。

同時に、倫理やガバナンス、規制等を横断的に見ていく必要があるのです。横断的に物事を捉えることが重要である理由は、ドキュメント化したものが今後制度設計に大きな影響を与えていくことになるからです。

画像:横断的に複数の要素を捉えることが重要

当初ブラジル議会ではAI規制に注意していくべきだという声が非常に強く上がっていました。このような論争を経て、自主的な規制を前提にした動きが広がってきたのです。

企業が自ら対応するように制度を設計していく考え方です。この自主規制のような考え方を導入していくことで、他の活動にも考え方が広がっていきました。我々とは異なる欧州の考え方もあります。倫理的な手続きやガイドラインを発行し、指針を示していくことも初期段階では大切だろうと思います。

最終的には規制を強めていくというよりは、倫理的なガイドラインをフォローする形で人々の信頼構築に取り組み、実運用を保証していく形で動いています。

この倫理的なガイドラインを設計する上で気をつけないといけないことは、実装を抜きに設計してはいけないということです。

透明性という言葉を一つ取ったとしても、人によって受け取る言葉の意味と印象は異なるため、事前の設計を誤ると混乱を生むものとなってしまいます。人によっては公正という意味を違った形で捉えることもあるでしょう。特に少数派の意見というものにも注力することは大切です。

倫理的な仕組みが機能して、物事を達成するだけでなく実装を見据えた議論が必要になります。現在は、こういった要素をテーマとしてブラジル議会でも議論が行われています。

ブラジルの上院議員の間で一定数の合意が取れ、法の専門家と協力して委員会が立ち上がれば、OECD加盟国の動向も考慮しつつ異なる国の動きと調和しながら議論が進んでいくことになると思います。

ブラジルでのAI規制と今後の議論

そして、最終的には新しく法案の取りまとめが進んでいくことになります。現在も法案については審議が行われているところです。法の専門家で作る委員会については、第一版がドラフト化されたところで、上院議員との議論を経て新たな委員会の設立についても議論が進んでいくだろうと思います。

新設の委員会を通して、様々な分野の方々からの公共ヒアリングも実施する予定です。主には経済分野、民間企業、市民社会やアカデミック等のヒアリングを少しづつ実施していきながら、制度化を進めていくことになると思います。新たに制定されるルールについては、イノベーションにも貢献できるようなものを目指していきます。

その中でサンドボックス制度のようなルールも準備することになると思います。特にスタートアップ企業に対する柔軟な対応が必要になります。規制を強化することによって、柔軟性が失われることは避けたいと考えるからです。

さらに、学生向けのコンピュテーションやデータサイエンスプログラム等の教育システムの開発も進めていくことになります。

ここまでの制度設計を進めていきながら、我々の権利が保護されるようなガバナンスの仕組みを整備する動きにも注力していきます。そして、横断的な技術要素に広く対応するために、一つの組織に監督の在り方が依存しないような仕組みを検討することが求められます。

これは分野ごとのアプローチ方法の検討が必要になるということで、米国が見据えている世界観と欧州の経験等を踏まえていきながら調整を行っていくことになると思います。

欧州では全ての政府機関にAIボードを設置していますが、我々は国レベルで同様の体制を準備したいと考えています。分野ごとに、通信や輸送、エネルギー等のAIを活用する規制当局に対して、中心となる調整役の政府機関を設置し、規制当局ごとの連携を図っていく事になります。

これが現在提案されている内容です。勿論、まだ検討が必要な内容も残っています。ブラジルでは180度議論の方向が変わってしまうこともあるので、今後の動きには注目です。

また、テクノロジー業界を始めとした一部の分野から反対の声も上がっています。全ての声に対応することは難しいのですが、現時点で我々が行っている議論を紹介させて頂きます。

Kohei: AI時代に私たちが向かっていく指針を整理する上で非常に重要な取り組みですね。現在のテクノロジー動向を検討した上でも、非常に重要な視点が含まれていると感じました。テクノロジーの発展によるイノベーションと保護のバランスについては、各所で議論がされ始めてきていると思います。

規制当局を始めとして、様々なステークホルダーの方々と連携していくことは非常に重要だと思います。次の質問に移りたいと思います。先程チアゴさんからサンドボックスについてのお話があったかと思います。

シンガポールのような国では既にサンドボックスを取り入れるような動きも出てきており、プライバシー保護技術開発においてもサンドボックスは重要な役割を占めることになるのではないかと考えています。

ブラジルでも規制のサンドボックス導入についての議論が進んでいるかと思いますが、ブラジルで起きている議論についてお伺いしても宜しいでしょうか?具体的に導入が始まっているユースケース等もあれば教えてもらえると幸いです。

ブラジルで検討されているAI利用に関する規制のサンドボックス制度

Thiago: はい。勿論です。サンドボックス制度については、様々な取り組みが進んでいます。勿論新しい取り組みなので、過剰な期待が集まっているものもあります。

サンドボックスを導入しているという政府機関でも、実際にはサンドボックスとは異なる実証ツールを導入しているケースも見受けられます。こういったツールを導入することは有効的ではありますが、必ずしもサンドボックス制度を実現するために必要なものではありません。

時にはイノベーションハブやテストベットと呼ばれたりするものがあり、こういった新しい動きがサンドボックスの考え方につながるのではないかと議論が始まっています。

そこで、まずはサンドボックスとは一体何かを紹介したいと思います。まだ、コンセプト自体も議論されている途中ではあるため、今後も開発が進んでいくものだと思います。

(動画:Webinar — Regulatory Sandbox on Artificial Intelligence and Data Protection)

まだまだ多くの人たちは規制のサンドボックスとは一体何かについても知らない点が多々あると思います。基本的には、IT分野を中心に規制のサンドボックスについて議論が行われてきました。特にコンピューターシステムを対象として安全に開発ができる環境を目指して設計されたのです。

必要な試験を実施したり、時には進捗や開発具合を見える化してシステムが実装されるまでの過程をわかりやすく表現することに取り組んでいます。これがサンドボックスの考え方です。

それ以外に、子供の遊び場で転んでも怪我をしないような設計になっている場所のことを言ったりもします。快適な空間という意味ですね。このコンセプトを規制の展望に導入したのがサンドボックスと呼ばれるものです。

最近ではどの分野でも規制が多様化しており、企業にとっては非常に複雑な環境へと変わりつつあります。特にスタートアップ企業にとっては、新しい分野で活動していく際に規制によって大きく制限がかかってしまい、金融分野等では新しい活動の障壁になってしまっています。

この現象は世界中で起きていて、ブラジルもその国の一つです。ブラジルで先端を走っているサンドボックスのユースケースを紹介したいと思います。このケースは金融分野で実施されているものですが、金融当局はブラジル国内で3つの異なるケースの運用を始めています。

ブラジルにも中央銀行があり、プライベートセキュリティの仕組みが存在します。また株等の取引に関する規制も整備されています。こういった分野では、サンドボックス制度を応用することで、相互に関連した動きを進めています。

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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