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政治的な思想信条と表現の自由を守るためにできること

※このインタビューは2024年3月11日に収録されました

私たちのプライバシーを社会全体で守る動きと共に、表現の自由についても考える必要性が高まってきています。

今回はポーランドを拠点とする法律事務所GP Partnersでパートナーを務めるマチェさんに、これまでのデータ保護法の歴史と表現の自由を含めた権利についての考え方についてお伺いしました。

前回の記事より

表現の自由は我々の基本的な権利の一つとして、守られるべきであると私も考えています。マチェさんがこれまでに表現の自由について、プラットフォーム企業と争ったケースについて教えて頂いてもよろしいでしょうか?

政治的な思想信条と表現の自由を守るためにできること

Maciej: わかりました。このテーマについては、私が何かに洗脳されたり、陰謀論を展開する可能性があると思われる方もいるかもしれないので、まず、私が表現の自由に対してどういった立場であるかをお伝えしたいと思います。

まず表現の自由が基本的な問題であると考える際に、二つの要素について検討することが必要になります。それは、消極的な表現の自由である知る権利についての話と、積極的な表現の自由である発言する権利(キャンセルされない)の二つです。

私たちは、この二つの要素についてコロナ禍で大きな問題に直面しました。私自身はワクチンを信頼していない一面もあるのですが、表現の自由においての問題としてワクチンに対する一部の声がかき消されてしまった事実があると思います。

この方々の声というのは、ポーランド国内では右翼と呼ばれる政治集団があり、通称コンフェデラツィアと呼ばれている人たちのことを指しています。私は、彼らほど極端に右寄りな考えではないこともお伝えしておこうと思います。

ただ、こういった発言権の問題が深刻になることで、左寄りの考え方をしている人たちとの違いがより広がってきつつあります。

ここからプラットフォーム企業と争ったケースに話を戻したいと思います。ロバート・マローン氏という方を始めとして、 アメリカで多くの方がメタ社が展開するプラットフォームに対して抗議を行っていますが、同様のことがポーランドでも起こっています。発端はメタ社が100万人ほどのフォロワーを有する政治的な政党への影響力を持つコンテンツを削除したことに始まります。

この政党は正式にポーランド議会を代表して活動を行っている政党です。そしてコンテンツの削除については、この政党だけでなく関連する Social Narcotics Initiative (SIN)というNGOに対しても同様のことが行われそうになりましたが、この団体の場合は暫定的なコンテンツの差し止め要求で止まりページやデータの削除は免れました。

ここまで話をしてきたように、発信コンテンツの削除に対しては、暫定的なコンテンツの差し止め要求の適応をプラットフォームに求めています。まず私たちが検討すべきことは、特定の政党に対して政治的に厳しい対応を求めずとも、コンテンツを発信できるように働きかけることが必要だと思います。

この問題は私たちだけでなく、全ての人に関わってくる問題です。もし、私たちの生活が特定の政党が掲げる政策によって全てが決定されてしまうとすれば、私たちの意見が適切に反映され、真実を持った意思決定の実現ができなくなってしまいます。この問題は、現在進行形で起きている問題の一つです。

そういった経緯もあり、私たちはプラットフォームに対して暫定的なコンテンツの差し止め要求を求めています。私たちの要求がどこまで受け入れられるかは非常に曖昧ではありますが、欧州のFacebookだけでなく、全体の意思決定が行われる米国のメンローパークにある本社も含めて、訴えを起こしています。

プラットフォーム提供者が向き合うべき表現とコンテンツ

明らかなこととしては、コンテンツ削除に関する問題があるとわかりつつ、プラットフォーム側での対応手続きが後手後手に回っているということです。

個人的にプラットフォーム企業でカウンセルや代表として活躍している人を存じ上げてはいますが、私たちが暫定的なコンテンツの差し止め要求を実施してからも対応しようという動きはありません。

プラットフォーム企業がしっかりと規制対応しない理由としては、罰則金を含めた金銭的なリスクが非常に限定的であることが考えられます。そこで、私たちは3つの観点から異なる視点を持ってポーランド国内での被害を計測し、直接彼らに対して被害状況を伝えています

特定の政党が抱えるフォロワーや支持者に対する影響だけでなく、ポーランド国内の民主的な考え方や政策決定の仕組みにおいても大きな影響を与えることになるからです。

より多くの方へと届けることを考える際には、数100万、もしくは10億以上のポーランドズウォティやドルが必要になります。このように実際の被害を計算して紹介していくことが必要です。

ポーランドでは事前選挙が昨年10月に実施されました。Meta社もポーランド選挙や民主主義に干渉することは望んでいないので、政治組織が公表した情報コンテンツの回復に向き合うように努めてもらうことになりました。

(画像:【ポーランド】8年ぶりの政権交代へ 内閣信任投票否決 親EUに)

これが公正で妥当な議論の形ではないかと思います。ただ、我々がMeta社に対して求めていたことは、これだけでは収まりません。私たちは政治的な自由に対する質問と、政治活動の自由を支持し、支持者は自らコンテンツをメディアを通して発信できることが健全であると考えているからです。

ポーランド憲法には私たちが自由に活動できることが記されています。メディアには表現の自由が保証されているのです。ポーランド市民の我々は表現の自由において知る権利を保持しています。我々はいかなる差別も受けることはなく、表現の自由が保証されなければなりません。

加えて、私が弁護士として活動する中で誇りを持って指摘したい点があるので紹介したいと思います。それはFacebookのようなプラットフォームによる特定の標準的なものは社会的ではなく、法的に存在しないということです。 社会的な通念としては、特定の標準が存在するかもしれません。

しかし、法的には標準のような曖昧なものについては解釈することが非常に難しいのです。何かの結論を導き出そうと考えると、Facebookが好きか嫌いかで物事を判断するかもしれないからです。少なくともポーランドでは、どちらか一方が正しいことを判断することはあってはなりません。

これまでに、一方的な判断によって正しさを判断したケースを聞いたことはありません。ただ、私はこれまでには無いことにも挑戦していくことが必要であるとも考えています。なぜなら、これ迄になかったことであっても、未来に向けて語り合うことがメリットになることもあるからです。

民主的な解決策が抱える課題とその解決策

ただ、この論争については現在ポーランドの裁判所の判断が遅れています。裁判所による判断の遅れについては、他のデータ保護関連案件でも起きることがあります。

例えば、自動車のナンバープレートが個人データに該当するか否かについて判断する案件があったのですが、ポーランドの行政裁判所ではナンバープレートは個人データではないと判断したため、最後の判決までに決着がもつれることになりました。

このケースでは我々がワルシャワ市を相手にして行政裁判所や市民裁判所、普通裁判所等の様々な裁判所にも同様の案件で持ち込みました。そして、欧州司法裁判所にも訴えかけたのですが、4年経っても裁判所による判断が決着することはありませんでした。

こういった経験から、裁判所では明確な判断を避けることがあると理解しましたし、恐ろしいことですが案件によっては重要事項ではないと判断される場合もありうることがわかりました。裁判所が下す判決には、私たちと異なる論理が働くのかも知れませんね。

これは欧州だけの問題ではなく、米国が現在抱えている裁判システムを考えると、米国でも非常に懸念事項がたくさん残っています。そしてポーランドでも同様の課題が見られます。

ここまで裁判所の判断についての話をしてきましたが、改めて表現の自由の問題について触れたいと思います。Meta社との争いについては、ここまでの内容を踏まえて、最終的に表現の自由に関する問題ではなく政治活動の問題として判断していくことになりました。

画像:表現の自由ではなく、政治的な意味合いを持たせる

表現の自由は現在でも議論を深めていく必要がある重要なテーマです。Twitter(現在のX)ではアカウントが禁止されて、情報が制限されることも起きています。

欧州委員会のベラ・ヨウロバー委員やウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はこのようなプラットフォームの姿勢を見兼ねて、デジタルサービス法を成立させ具体的な行動を示し始めています。

そして、欧州委員会では表現の自由を最も体現しているプラットフォームの一つであるTwitter上での活動を監視するような動きを進めています。私もTwitterを利用していますが、アカウント停止に至ったことがないのはマスク氏にとって大きな意味を持つアカウントではないからかもしれません。

Kohei: 今年は各国で選挙がある一年だと思います。プラットフォームが抱えるリスクに対して、非常に懸念を示すような声も各所で上がっていて、民主的な意思決定をどのように舵取りしていくのかが大きな鍵になっていくと思います。

これまでマチェさんが取り組まれてきた経験というのは、現在表現の自由の問題で被害に遭っている方々にとっても参考になる活動ではないかと思います。教えていただきありがとうございます。

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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