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プライバシーが自分たちの権利であると考え始めた米国市民の変化

インターネットビジネスの発展とともに、個人データを取り巻く環境も大きく変化してきています。

今回は長年プライバシー業界に関わり、現在はプライバシーコンサルタントとしてデータ企業へのコンサルティングを行うDebbieさんにデータビジネスとプライバシーの関わりをお伺いしていきます。

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Kohei: 本日のPrivacy TalkはプライバシーコンサルタントのDebbieさんとアメリカから繋いでいます。Debbieさんはプライバシー業界が注目される前から活躍されているのでインターネット初期からこれまでのプライバシー業界の変化に関してお話しができることを楽しみにしています。

Debbie: ご招待頂きありがとうございます。インタビューで読者の皆さんにお話しできて光栄です。

Kohei: Debbieさんもご自身のPodcastでプライバシー専門家へのインタビューを配信されているので、海外のプライバシー動向が気になる方はこちらのリンクからご視聴下さい。

インタビューに移る前にDebbieさんのプロフィールを紹介したいと思います。DebbieさんはDebbie Reynolds Consulting LLCのファウンダーで、会社ではCEOとCPOを務めています。

Debbieさんは “The Data Diva,”の名前で活動されていて、テクノロジーに精通し多国籍企業のプライバシーアドバイザーとして活動されています。データプライバシーを始めとした新しい領域でのテクノロジーイベントでの登壇やPodcast等メディアでの配信活動も精力的に行い、プライバシー業界のテクノロジービジョナリーリーダーとして活躍されています。本日は改めましてありがとうございます。

Debbie: ご招待ありがとうございます。

欧米のプライバシーコンサルタントの仕事

Kohei: 早速本日のインタビューアジェンダに移っていきたいと思います。Debbieさんの現在のプライバシーコンサルティング活動に関してお伺いしたいと思います。現在はプライバシー専門家としてを企業にコンサルティングサービスを提供し、メディアやPodcastではプライバシーに関する動向を積極的に発信されていると思います。

私もPodcastを聞いたことがありまして、プライバシー業界を知るために参考にさせていただいています。。一つ目の質問は、プライバシーの専門家はクライアントと一緒にどういったお仕事をされているのですか?

Debbie: 質問ありがとうございます。私の場合は他のプライバシーコンサルタントとは少し違う関わり方でクライアントとご一緒しています。何が他のコンサルの方と異なるかというと、私の場合は法律の視点ではなく、テクノロジー視点からプライバシー対策のコンサルティングを行っていることです。(大抵のコンサルティングは法律の話が多い)

図:プライバシーコンサルタントの分類

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私が初めてプライバシーに興味を持ったのは、1997年に出版された「The Right to Privacy」という書籍を読んでからです。私が手に取る前から私の母が本に興味を持っていたので、母の興味につられながら私も本を読んでみてとても興味が湧きました。

1997年に初めて書籍を通じて関心を持って以来、インターネットは一大産業へと大きく成長し、テクノロジーとプライバシーの問題は切り離せなくなっていきました。

私がテクノロジーのキャリアを歩んできていることもあり、多国籍企業にコンサルティングする際に法律やガバナンス以外の視点でご一緒することができています。法律やガバナンスの話だけでなく、テクノロジーの視点を持ちながらビジネスコンサルティングを行うことが、今のデータビジネスのマーケット環境では重要なことだと評価も頂いています。

私の具体的なコンサルティングの仕事に話を戻すと、私が主に仕事でご一緒する先は多国籍にビジネスを展開している企業で、米国企業でも米国国内の各州の州法に対応してビジネスを検討している方に向けてコンサルティングサービスを提供することが多いです。

これまでにご一緒してきた企業は、積極的にプライバシーバイデザインの考え方を取り入れようとしている企業が中心ですね。

テクノロジーのルールが統一されることで生まれるビジネス機会

私はコンサルティングとは別に、複合現実(MR)分野で新しいテクノロジーの標準化に関する動きにも関わっています。国を越えてデータビジネスを展開するケースや、米国国内でも州を跨いでビジネスを行うケースは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)等の新しいテクノロジーを導入する際にデータの取り扱いを標準化していく必要性があります。そういったテクノロジーとデータの環境に対応していくために新しいテクノロジーを導入する企業と一緒にテクノロジーや制度を標準化していく作業に取り組んでいます。

図:テクノロジーと標準化の話

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複合現実の標準化に向けたドラフトをまとめることで、新しいテクノロジー政策を立案しやすくし、テクノロジーを正しく規制する法律の制定に繋げていきたいと考えています。

なぜ私が標準化を進める取り組みに参加しているか説明したいと思います。標準化に必要なフレームワークを規制が発表される前に準備しておくことで、過度なテクノロジー規制に走ってしまうことを避けるのが狙いです。

私はプライバシーの専門家として標準化の取り組みに参加しています。標準化の取り組みを通じて、開発者がプライバシーを尊重したテクノロジー開発を実施することができる環境づくりに貢献したいと思っています。

規制が整って環境づくりができた後に、私が提供するコンサルティング業務で新しい分野のビジネス支援を展開していきたいと考えている企業をサポートしていきたいと考えています。

Kohei: そういった背景が合って取り組んでいるんですね。私も毎日プライバシーに関する各国の動向や事例をチェックしていますが、特に最近米国や欧州のプライバシー法規制に関する動きが積極的に前進していると感じています。

日本の知り合いの企業から「欧米のプライバシー対策はどうすれば良いのか」と良く聞かれるのですが、欧米のプライバシー規制に関する動きの変化についていくために、データを取り扱う企業はどのように準備すれば良いと思いますか?

プライバシーを保護するために企業がまず取り組むべきこと

Debbie: そうですね。私がコンサルティングを行うときにお伝えしていることは、一つ一つ対策を進めていくのではなく、同時に二つの対策を実施してほしいと思っています。企業が初期に取り組むべき二つの対策ですね。二つの対策のうちの一つは目は取得するデータの目的を明確に整理することです。

なぜデータを取得するべきなのかを始めに定めた後に、目的に沿ってどんなデータを取得するのかを考えます。データの利活用をデータの取得目的から考える方法です。

図:二つのプライバシー対策

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もう一つの対策が目的に沿って取得するデータをできる限り少なくすることです。なぜ取得データをできる限り少なくするべきかというと、多くの企業が古いデータを長期間保有してしまっていることが多いからです。

必要以上に長期間保有しているデータは、ユーザーへの価値提供のためにすぐに利用しないことも多いと思うので、社内で必要以上に保有しているデータをこれからも保有し続けるべきかどうかを見直して、残しておくべきはデータを取得する際にポリシーで定めた目的に沿ったデータに限定して保有するようにした方が良いと思います。

定めた目的以外で取得したデータを長期間保有すると、ビジネスリスクを高めることになると思います。データは上手く使えば価値を生み出すことができますが、使い方や管理方法によってはリスクになることもあるからです。データが漏洩してしまう恐れなどを考えると、私が紹介した二つの対策をまず企業は取り組むべきだと思います。

Kohei: なるほど。多くの企業はデータをできる限り多く取得し、「今は意味がないデータでも将来役に立つかもしれないから長く保有することが良い」と思っているとよく聞きます。Debbieさんが教えて下さった対策の話は、データビジネスで当たり前と考えられていた「とにかくデータを沢山集めた方が良い」という考え方の対になる考え方だと感じました。

私もその考え方には賛同していますしデータビジネスを行う企業は、「なぜデータが自社のビジネスに必要なのか」ということをまずは考えるべきではないかと思っています。

Debbie: 欧米では、データは次のオイルであるという考え方を持っている企業が多いですね。次の金(ゴールド)だという人もいます。私はそういった考え方には全く賛同できません。データ自体がオイルではなく、データから導き出される新しいインサイトに価値があるのです。ただ多くのデータを目的なく保有しているのは、あまり意味があることだと思いません。

データを保有することは常にリスクと隣り合わせだということを理解する必要があります。リスクを考慮したとしても達成したい目的がある場合に、データを取得し保有する決定を行うべきだと思います。

データを保有するリスクを常に社内で議論することはとても大切です。データを保有している企業は、これまでに多くの時間をかけてデータを取得してきているのでとてもリスクが高い状態にあると思います。多くのデータを保有し、保有量が多いことが価値だと考えているてからこそ、データを削除する考えに至り辛いと思います。

図:データを保有することが企業リスクへとつながる

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世界中で数多くデータ漏洩するケースが増えてきています。データを漏洩した多くの企業が金銭的な損害を受けており、取得したデータを適切に保護することが求められています。

Kohei: ありがとうございます。Debbieさんが教えて下さったようにデータ産業はこれから大きく変化していく必要があると思っています。データ産業が立ち上がった初期と比べるとテクノロジーの力によってデータを保有するコストが下がり、コストが下がったことで多くのデータをこれまでより安く取得し保有する環境が整ってきたと考えています。

必要以上のデータを取得することが良いと考えている風潮を見直していくべきで、これからのデータビジネスは最小限のデータで価値を出していくことが求められると思います。

ここからはプライバシー業界のこれまでの変化を聞いてみたいと思います。Debbieさんはプライバシー業界で長年活動されていますよね。長年業界で活動されてきて、Debbieさんが初期に業界に飛び込んだ時と比べるとどういったことが、大きな変化として考えられますか?

プライバシーが自分たちの権利であると考え始めた米国市民の変化

Debbie: 良い質問ですね。プライバシー業界がこれまでどのように変化してきたか説明しましょう。私はこれまで10年以上プライバシー業界に関わってきました。当初プライバシー業界で活動を始めた時はほとんどプライバシーを気にする人たちがいなかったので、私のようなコンサルタントは殆どいなかったので、とても寂しかったことを覚えています。当時は法整備もされていなかったので関心を持つ人たちがとても少なかったのですが、法律ができた途端に環境が大きく変化しました。

プライバシーの法規制は特に全く新しい規制が制定されるような動きではありません。これまでの法規制と異なる点は罰則金も大きく、企業がデータを保護する必要性を強く求めていることです。

プライバシーの法規制の動きを捉えながら新しいビジネスを開発することが企業には求められています。規制が厳しくなるにつれて、プライバシー法規制に準拠してビジネスを開発するか、法律に違反した際に高い罰則金を支払うことになるかどちらが良いか企業が真剣に考える時期に来ています。

欧州を始めとしてこれまでに数多くのプライバシー規制が各国で生まれたことによって、国や地域ごとにデータの取り扱いが複雑になりました。データの管理先がクラウドに移行し始めたことで、国や地域を越えたデータ管理や移転が当たり前になりプライバシー問題の議論が盛んに行われるようになってきています。

これまで業界の変化を見てきて思うのは、国や地域を越えたデータの問題は法律論だけでは解決できない点がとても悩ましいです。法律は特定の地域や国に依存するため、国や地域を越えたデータの移動の対策が各国の法律に準拠するだけでは上手く対応できません。私は国や地域を越えたデータの移動に関するプロジェクトにも関わっていますが、まだ新しい領域なので明確に答えがなく、解決策を掲示することが難しいです。

Kohei: なるほど。米国の友人からよく聞く話で、米国では2013年に起きたスノーデン事件以来、人々の生活を監視するような動きが人々の生活を脅かす可能性があると問題視されていると感じます。2016年のケンブリッジアナリティカ事件も同様です。こういった事件が米国の市民活動にどのような変化をもたらしてきたのでしょうか?

Debbie: これまで起きた事件を通じて多くの米国市民は政府や企業によって自分のデータがどのように扱われているのかを知ることになったと思います。別の言葉で表現すると、多くの米国人がこれまでの事件を通じてプライバシーの権利の大切さを感じたと思います.

(動画:What is the Cambridge Analytica scandal?)

表現の自由と同様に自身のプライバシー権は守られるべきだと考える人たちが増えてきたこともあってで、合衆国憲法下のプライバシー権の解釈へ疑問を持つ人たちも出てきています。

プライバシー権を擁護する人たちの主張はアメリカ合衆国憲法修正第4条が定める「人民の権利」で定められていることが、現在のデータ社会で起きている国民のプライバシーやデータ利用を制限するものになっていないと考える人もます。

人々がプライバシーに関心を持ち始める理由は法律によって制裁を受けることだけでなく、現実社会でデータがどのように利用されているかを直視することによって生まれる場合もあります。

私たちの生活の中でインターネットはなくてはならない存在になりつつあります。コロナが蔓延したことで、インターネットにアクセスする時間や機会が増え私たちのデータが企業に渡る機会は増えました。データがどのように企業に渡り利用、保護されているのかは人々の大きな関心ごとになりつつあります。

インタビューは後編に続きます。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫


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