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【ウクライナ特別編】ウクライナ戦争が始まってからキエフ市が行った市民を守るための対策

Privacy Talkでは多様な当事者が集まるグローバルなコミュニティとして数多くの皆様と対話を進めています。このインタビューは6月9日にKohei Kuriharaとキエフ市のチーフインフォメーションオフィサーOleg Polovynko氏が戦時におけるCIOの取り組みと挑戦について話をした内容になります。

戦争によってキエフ市のデジタル戦略は大きな転換期を迎えました。本インタビューではキエフ市のセキュリティシステムで行われたことと, #キエフデジタルアプリを通して、市民の安全を最大化した取り組みについて深ぼって伺っていきます。

Kohei: 皆さん、本日もPrivacy Talkにお越しいただきありがとうございます。本日はキエフ市のシティカウンセルでCIOを務めるオレグ・ポロビンコさんにご参加いただいております。オレグさんはキエフ市で重要な役割を務められています。

早速オレグさんの紹介をしたいと思います。オレグさんはこれまでに15年間システム統合分野に関わり、ゼロからのプロダクト開発に関わってきました。現在の役割ではこれまでに培った知見を通して、国のプロジェクトの開発に関わっています。

現在はキエフ市のプロジェクトに関わっており、市の重要なプロジェクトの中核を務められています。本日はインタビューにお越しいただきありがとうございます。

始めにオレグさんがキエフ市で担っている役割について、お伺いしてもよろしいでしょうか?CIOが担っている重要な役割についてもお伺いできれば幸いです。

キエフ市でチーフインフォメーションオフィサーが取り組む役割

Oleg: まずは私自身の簡単な経歴についてお話しさせていただき、キエフ市で務めているCIOの役割と現在のプロジェクトについてお話しさせていただきたいと思います。

私はITに関する仕事に長い間関わってきました。大学では、データやデータ分析に関する研究を専攻していて、卒業後には大企業向けにITソリューションを提供するために、システム管理から離れて、自分で会社を経営するようになりました。

その後、故郷であるキエフ市で働きたいと思い今の役割を務めることになりました。私が長い間過ごしてきたウクライナをデジタル化によってより良い国へと変えていくことが、私が目指していることです。

私がキエフ市でCIOを務めることになった時に期待されたことは、市のデジタル戦略を計画してスマートシティのコンセプトを描き、導入していくことでした。

コンセプトを実現するために、全てのステークホルダーと連携し活動を進めてきました。皆さんご存知のようにデジタル化を推進していくためには、様々な要素について検討することが必要です。医療や交通、環境問題はわかりやすい例かと思います。様々な分野でのデータ活用について取り組んできました。私たちが掲げているミッションは、デジタルの特性を活かして、新しい変革を成功させることなのです。

Kohei: オレグさんありがとうございます。ここからは、キエフ市で展開しているKyiv Digital appとチーフデジタルトランスフォーメーションオフィサーとしての役割について詳しく教えていただけませんか?

キエフ市のデジタル変革と独自開発のアプリが実現すること

Oleg: キエフ市はウクライナの首都であり、ウクライナでは4000万人以上の人が暮らしています。キエフ市では約350万から360万人の人々が暮らしています。毎日キエフ市内を実数値で100万人近くの人たちが車で往来するため、交通網を整備していくことが私たちの都市政策で優先的な課題でした。

キエフ市はドニプロ川を挟んで二つの地域に別れているのですが、キエフ市内を横断する際には数本の橋を介して移動するため非常に非効率でした。私たちが取り組んだのは、市が抱える物理的な交通問題です。

これまで様々な計画を立て、実行に向けて検討を進めてきましたが戦争が起きてからウクライナ市民の生活は大きく変わってしまいました。ただ、私たちが目指していくことは大きく変わっておらず、キエフ市をより便利で環境に優しい都市へ変革していくミッションをもとに取り組みを推進し続けています。

私たちが取り組むべき優先事項はわかりやすく、親しみやすい形で継続的なコミュニケーションを市民の方と行い、市民の方の声を聞いていくことです。

こういったコンセプトをもとに2021年1月にKyiv Digitalと呼ばれるアプリケーションを開発しました。アプリ内では主に以下の3つの機能を実装しています。

  1. 個人に合わせた位置情報通知サービスを提供し、個人が生活している環境や近隣で起きている関連情報について更新通知を行う

  2. 公共交通機関を利用する際のe-チケットの発行から、市内の駐車場を利用するための機能を提供する

  3. コミュニティを中心とした電子投票機能を提供する(行政への請願等)。利用者はアプリ内で新しいプロジェクトを検索し、予算決定のプロセスに投票者として関わることができる。全ての投票は電子署名の裏付けをもとに、予算が承認された場合は正式に開発及び運営資金に当てられる。

Kohei: ありがとうございます。アプリを開発するにあたり、利用者の利便性と合わせてプライバシーやセキュリティ等に関する問題も出てきたのではないかと思います。キエフ市のデジタルチームでは、こういった市民の方の懸念に対してどのように対応したのでしょうか?

Oleg: おっしゃって頂いた課題は勿論検討されました。アプリ開発で使用するソリューションを検討する際に、データセキュリティやプライバシーに関連したフレームワークを色々と検討いたしました。

それだけでなく、データ処理を実施した後の結果については保持しない設計になっています。例えば、#Kyiv Digitalアプリをダウンロードして、登録いただく場合には電話番号と確認用コードを入力するだけで利用できる設計になっています。

ご自身の名前や関連する個人データを入力する必要はありません。最低限の情報を入力するだけで、必要なサービスにアクセスできる設計になっています。

ただし、予算を決定する投票手続きに関わりたい場合には、参加者のIDを確認し、国全体での認証機関によって手続きを経る必要があります。銀行IDが最も使われているものですが、他にも様々な認証の方法を組み合わせて設計しています。

サイバーセキュリティ対策については、戦時下で特殊な対応が求められるようになってきています。市の中にサイバーセキュリティセンターを抱えているので、センター内のチームが市内のデジタルサービスに関する安全性の確保に取り組んでいます。

残念ながら、機密内容についてはお話しできないのですが、センターチームではこれ以外にも様々な取り組みを行っています。キエフ市ではシスコ社、フォーティネット社、クラウドフレア社を始めとしたグローバルパートナーと連携して、サイバーセキュリティ対策に積極的に取り組んでいます。各国でセキュリティ対策を推進する大規模な民間企業との連携も進めています。

Kohei: ありがとうございます。サイバーセキュリティ対策に積極的に取り組み、市民の安全性を守るために活動されていることがわかりました。次に戦争が起きてからキエフ市で実施した対応についてお伺いできればと思います。戦争が始まって以来、デジタル環境の整備は非常に大変な作業だったと思うのですが、オレグさんのチームではどういった対応を実施したのでしょうか?

ウクライナ戦争が始まってからキエフ市が行った市民を守るための対策

Oleg: 戦争が始まるに伴って、私たちは有事の対策をとる必要に迫られました。私がこの役職についてから様々なケースについて想定を重ねてきましたが、実際に戦争が起きてからビジネスを継続運用できるプランに取り組んでいくことは非常に骨の折れる作業になりました。

一般的に10人のITディレクターにBCP、DRP計画について尋ねた場合には、回答者のうち半数が厳しく試験を実施すると答えるだろうと思います。 定期的な試験を実施せずドキュメントを残していない回答者もいるでしょうし、全てのシナリオを想定したドキュメントをまとめている人はより一層少ないと思います。

キエフ市では、戦争が起こるまでに100万人以上がアプリを利用していました。私たちが始めに直面した課題は、ミサイル砲撃に対する対応です。最初のミサイル砲撃が始まってから、私たちのチームは朝5時に起床し、市民の方々が安心して移動できるようにコミュニケーションインフラを整えることに注力しました。

インフラを整えたことによって、アプリを通して市民の方々が迅速に行動できるような指示を行うことができ、安全な地域への誘導とミサイルによる攻撃があった場合のアラート通知を実施することができました。

それ以降、私たちの役割は徐々に変わってきました。戦争によりキエフ市を離れてしまった人たちやキエフ市に新しく入ってきた人たちもいるので、それぞれに対して正確な情報を迅速に伝えていくことが必要になります。

正確な情報を迅速に伝えていくことは、私が担っている重要な責務です。私たちはキエフ市の中で重要なインフラサービスの提供を担っています。監視カメラ等については、要望があった市民がアクセスできるように継続・維持する必要があります。現在は、私たちのチーム内で緊急マネジメント体制に切り替えて取り組みを進めています。

Kohei: 緊急時の素晴らしい対応ですね。緊急体制への切り替えに加えて、信頼できるインターネット接続環境を整えていくことも市民の方々にとっては非常に重要な役割を持つのではないかと思います。戦争が始まってから、どのようにしてインターネットインフラ環境の維持を行ってきたのでしょうか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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