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Web3が生み出す新しい世界と私たちのプライバシーの行方

Web3とプライバシーの問題は、今後大きなテーマへと発展していきます。

今回はテクノロジー起業家として複数のスタートアップに関わり、有名なクッキーバナーを開発したGilbertさんにプライバシーテクノロジーの動向とこれからをお伺いしていきたいと思います。

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相手を知らずに、相手が誰かを判断できる世界

Gilbert: とても難しい質問ですね。宏平さんがおっしゃるようにブロックチェーンとデータ保護の議論は今も続いています。ブロックチェーンはパブリックで閲覧範囲が広く、分散型の要素を含んでいるので、ブロックチェーン上でプライバシー性の高い情報を取引するべきではないと思います。今では新しい動きも始まっていて、例えばゼロ知識証明と呼ばれる要素が今後数年で実装されるのではないかという話も出ています。

ゼロ知識証明と呼ばれる暗号化の技術を活用することによって、データ取引のプライバシーを保護することができるようになります。具体的な利用シーンを紹介すると、サービスログインする際にパスワードを入力しなくてもログインができるようになります。

図:ゼロ知識証明で実現できる世界

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実現すればパスワードを入力した後に漏洩するリスクを減らすことができます。家賃の支払いに応用すれば、仲介業者に借主の資産状況を通知する必要もありません。個人の資産状況は重要なプライバシー情報なので、ゼロ知識証明のような技術を応用することでFacebookのようなWeb2プラットフォーム企業にデータを提供し、誰かに販売されるリスクを負うことも必要なくなります。

ブロックチェーンに書き込んだデータは全てがオープンに共有されます。ゼロ知識証明を承認、確認作業で応用することでオープンなブロックチェーン上でもプライバシーを守ることができると考えています。

ブロックチェーンを採用して仲介業者を挟むことなくユーザーと業者が直接取引できるようになると、データがオープンになるため規制と対峙せざるを得ない課題がありましたが、先ほど紹介した技術等を活用することでデータ保護規則に沿って透明性と安全性を担保して取引が実現できるようになります。先ほどテクノロジーと規制が対立すると話してくださいましたが、特に新しい技術領域は注意が必要ですね。

私はゼロ知識証明がプライバシーを保護する始めの良いケースになると考えています。具体的に一つゼロ知識証明を活用したコインの取り組みを紹介します。Moneroというコインです。

ブロックチェーンが持つ独特の欠陥

Moneroは10年以上前に誕生したオープンソースプロジェクトで、取引先の情報を暈すことで匿名の取引を実現する暗号コインの一つです。創業者はビットコインを始めとした暗号通貨取引の欠陥を見つけ、プライバシーと匿名化を担保できるような電子通貨を生み出しました。

図:暗号通貨取引の課題とプライバシー対策

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今では、彼らが開発したコインが利用される機会が増えてきています。例えばホワイトハッカーの人たちが利用するケースが代表的です。一方で問題も抱えています。プライバシー対策に関連した全てのコインの取引が違法ではないにせよ、法に沿って取引が行われているわけではないものも多く(匿名性を利用してマネーロンダリング等での利用)、地域によっては取引自体を禁止されてるところもあります。

違法行為への加担だけを見てプライバシー技術の良し悪しを判断することはよくないと思います。プライバシー技術がどういった形で利用されていくのかがとても重要になると考えています。

プライバシー技術を採用する動きはデータマーケティング分野へも広がっていくと考えています。AppleのiOS15のアップデートがわかりやすい例です。アップデートの際にセキュリティとプライバシーの機能を更新しています。暗号資産の取引で利用されていたような、メールのプライバシー対策の強化も同時に行っています。

暗号資産業界がこういった技術の開発に乗り出していくことはとても興味深いと考えています。プライバシーを守ることを実装段階から考えることが必要ですね。そういった考え方を通して新しいものが生まれてくるのだと思います。コンプライアンスに準拠するだけでなく、技術的な解決策を探していくことが未来の挑戦に繋がりますね。

図:技術を応用したプライバシー対策

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Kohei: まさにそうですね。新しい仕組みを用いてプライバシーを保護する動きが徐々に進み出している気がします。プライバシーを保護する技術の仕組みは、今後様々な業界で導入が進んでいくと思います。導入が進んでいくにつれて、具体的なユースケースを探していくことも必要です。私は分散ガバナンスモデルを採用しつつ、利用者のプライバシーを保護できる仕組みが理想的だと考えています。

次にGilbertさんが関わっているデータプライバシープロトコル協会(DPPA)に関してお伺いしたいと思います。DPPAではユーザーを中心としたデータ社会を中心に掲げて活動を進めていると思います。

特にこれからのデジタルマーケティングで求められる要素を数多く研究されていると伺っているのですが、DPPAでは今後どういったことを目指して取り組みを広げていくのでしょうか?将来的にどういったステークホルダーと連携して取り組みを進めていこうと考えていますか?

Web3が生み出す新しい世界と私たちのプライバシーの行方

Gilbert: 私が考えているのは暗号資産の取り扱いが広がりと同時に、プライバシー保護が実装されるような環境を実現したいと思っています。逆にプライバシー保護が求められることによって暗号資産の重要性も増していきます。

今話題になっているWeb3技術の中にはメタマスクのように個人を特定できるデータを含んでいるものもあるため、誰でも個人のデータにアクセスできるようになってしまっています。

新しく注目され始めているWeb3の業界とこれまでにプライバシー保護を推進してきた既存の業界の双方に携わっている身からすると、どちらも個人データを保護しようとする思想は近しいのですが、Web3等の暗号資産のビジネスに関わっているのは技術者発想が中心です。なので、技術中心にプライバシー対策を考えます。

私たち(DPPA)は既存の産業がプライバシー対策を推進するためにプライバシー技術を推進し、技術を実装することによってプライバシーバイデザインの実現を目指しているので、技術中心のプライバシーとはアプローチが異なります。

プライバシー保護技術の動きを推進していくために最終的には大手テクノロジー企業業界、ビッグデータ分野、ブロックチェーン等が一緒になって新しい取り組みを推進する必要があります。デジタル広告の業界団体IABのような団体での動きも今後出てくると考えています。私はこれまでに自分の会社を運営することと同時に、既存の業界に向けてプライバシー対策を推進していくためにIAPPのような古くからプライバシー保護に取り組む団体のメンバーとしても活動を行なってきました。

図:Web3の考えるプライバシーと既存業界のプライバシー

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Web3のような新しい領域のプレイヤーと既存のデータ取引を行なっているプレイヤーの境界線が徐々になくなり、既存のデータ取引を行なっている企業が私たちの生活と近くなるにつれて分散型のソリューションを選択する動きは広がっていくと思います。Facebookでさえ社名をMetaに変えて自分たち独自の暗号資産を開発する動きを見せています。

Facebookのような会社でも全ての技術ソリューションを持っているわけではなく、新しい波に乗るための動きに時間がかかっています。私たちもDPPAを立ち上げた当初に大手テクノロジー企業に対して話を持ちかけようとしました。Web3とデータ取引を行なっている企業双方が連携していくことが新しいマーケットの創造につながると考えているからです。

既存のテクノロジー大手企業がプライバシーに乗り出すべき理由

既に私の周りの若い世代の人たちはFacebookを利用しておらず、Facebookへデータを提供することを拒否しているので、若い世代にFacebookのような企業がアクセスすることが難しくなりつつあります。

そういった変化に対して多くのWeb3の企業はこのような若いトレンドを掴んで新しい信頼できるブランドの立ち上げを進めています。DPPAで行なっていることは、こういった動きを将来リードしていくことができる存在として活動していきたいと思っています。

プライバシー領域に新しい標準的なプロトコルを用いることは賛成ですが、テクノロジーもその中に加えていくことが必要だと思っています。

私が少し前にお話ししたデータユニオンは一つの可能性があるキラーアプリだと思っています。データユニオンを利用することで、ユーザーは自分のデータに関する権利を講師することができ、自分のデータを提供することでリターンを得ることができるようになります。

DPPAにもこの取り組みに関わっているPoolというイギリスのメンバーがいるので、私はとても期待しています。

Poolは新しい何百ものユニオンに向けたインキュベーションの仕組みを開発していて、Web3のエコシステムを作るために必要な分散型のマーケットプレイスを採用し、実践的な標準システムを採用しています。DPPAの注力している広告主が利用する広告配信のエコシステムでも応用することができると考えています。

Kohei: とても興味深いですね。Web3を採用した広告の仕組みはあまり聞いたことがないです。IBMのような大手企業が広告企業のコンソーシアムを組成した話は聞いたことがありますが、コンソーシアムは中央集権的で、分散型とは少し異なるためいくつか問題を抱えていると思います。

分散型のコンソーシアムを通じて新たなマーケットを生み出す動きが出てきていることはとても素晴らしいですね。これからの広告業界が中央集権型のエコシステムではなく、新しいシステムへと移行していくことはとても素晴らしいと思います。

最後に視聴者の皆さんへメッセージをお願いしたいと思います。Gilbertさんはこれまでに色々なご経験をされて、新しい技術領域やマーケティングにも明るい方です。ぜひメッセージをお願いいたします。

Gilbert: わかりました。私からのメッセージはプライバシーに関する取り組みをどんどん皆さんで共有することが大切だと思います。例えば、医療機関で取り扱うデータは私たちのプライバシーや権利を理解する上ではわかりやすいと思います。

プライバシーを一つのリスクとして評価する考え方

加えて地味な作業ですが、プライバシー影響度評価がとても重要だと思っています。今私が活動しているSwashというプロジェクトではデータ保護影響度評価を実施していて、利用者がサービスを通じてマネタイズする前に、サービスのビジネス展開と合わせて事前のリスク監査を実施しています。

監査の作業はカナダの大学に持ち込んで、現地の修士の学生が分析を行なってくれました。大学の知見を活かしてサービスの評価を定期的に行い、外部組織や機関と連携しながら公にサービス展開しています。

クッキーデータに関してもデータ保護影響度評価をデータユニオンで実施する方が良いと議論をしています。データを共有する機会が増えるにつれて、複雑なデータのエコシステムを理解する必要があります。これが私から一つ目に伝えたいことです。

二つ目は特定の地域だけに目を向けるのではなく、各国の動向を見ていく必要があるということです。例えば中国でプライバシー法が今年の11月1日から施行されました。Linklaters法律事務所によると世界で最も厳しい法律だということなので、私も次回までに中国のプライバシー動向を見ていきたいと思います。

Kohei: 素晴らしいメッセージをありがとうございます。中国のプライバシー法の動きは私たちにとっても身近な変化なので、中国へ業務のアウトソースを行なっている日本企業にとっても大きなインパクトがあるかと思っています。今後の中国の動向を知ることはとても重要ですね。

今後ガイドラインが定期的に発表されると言われていますが、企業にとっては国の安全保障の考え方も理解する必要があるのでとても難しい問題の一つになりそうです。

Gilbertさん。今回は貴重なインタビューの時間を頂きありがとうございました。今後、デジタルマーケティングやブロックチェーン分野で連携できることを楽しみにしています。

Gilbert: どう致しまして。ありがとうございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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