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人権とデータガバナンスの議論に加え、データの所有者が誰かに目を向ける

国境を越えた個人データ流通が進んでいます。

安全なデータガバナンスを考えるために必要なことをジョージワシントン大学のSusan先生にお伺いしました。

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Kohei: Privacy Talkへようこそ。今回はスーザン先生をワシントンDCからお招きしてお伝えします。

2021年は各国が協調し、国別にデータガバナンスの仕組みを整える一年になりそうです。今日はデータガバナンスと国際連携に関して、スーザン先生にお話をお伺いします。スーザン先生、よろしくお願いします。

Susan: ありがとうございます。

Susan氏のこれまでの経歴

Kohei: まずは先生を紹介します。

Susan Ariel Aaronson先生はジョージワシントン大学の国際情勢の研究教授、そして Digital Trade & Data Governance Hub(以下、データガバナンスハブ)のディレクターとして活躍しています。 データガバナンスハブでは政策立案者やメディア担当者向けに教育をしています。教育内容は国家間のデータガバナンスに求められるデジタル取引の問題です。未来のデータガバナンスに求められる要素を学ぶ場としてデータガバナンスハブを運営しています。

スーザン先生はジョージワシントン大学国際経済政策研究所、科学技術政策研究所(STPI)、シガーセンターアジア研究所のフェローとして国際取引とデータ政策の問題を研究しています。

その他に、カナダのシンクタンク Center for International Governance Innovation (CIGI)でシニアフェローを務めます。CIGIでは、データガバナンスマッピング、データの比較優位性、偽情報対策、データ防衛とセキュリティ、米国のAI推進に関するプロジェクトを率いています。

これまでにヒューレット、マッカーサー、コッホ、フォード、ロックフェラー財団から研究資金を集めました。オランダ、米国、カナダの政府機関、国連、国際労働機関、世界銀行を初めとする国際機関からも支援を受けています。民間企業のフォードモーター、リーバイスも支援しています。

投資情報誌バロンズといった専門誌への寄稿を初め、これまでに数々の講演をしてきました。経済のラジオ番組 Marketplace、All Things Considered、Morning Editionを初め、NBC、CNN、BBC、PBSでも講演実績があります。

1995年から99年までブルッキングス研究所で経済客員研究員として活動し、2008年から12年にかけて世界貿易研究所のリサーチフェローとして活動。ガバメントアカウンタビリティプロジェクトのカルバリョフェローとして、また米国国防大学のミネルバプロジェクトのチェアとして活動しました。

スーザン先生、本日はお越し頂きありがとうございます。早速、今日のアジェンダに移っていきましょう。

国家間のデータガバナンスを議論するDataGobHub

Kohei: 先生が配信しているYoutubeチャンネル DataGovHub を定期的に拝見しています。登場するスピーカーも内容も面白く、一人のファンとして大好きなチャンネルです。

DataGovHub チャンネルのようにインタビューを通じて政策立案の関係者たちが学ぶ機会を持てることは大切だと思います。私も過去に政策立案に携わった経験があります。世界中の専門家からオンラインで知識が共有される場は役立つだろうと思います。

DataGovHub の活動についてお伺いします。

DataGovHub の活動は何をきっかけに始まりましたか。また、今年はどんな取り組みを計画していますか。コロナの影響でオフラインイベントの開催は難しいと思います。今年の計画も併せて伺えると嬉しいです。

Susan: そうですね。デジタル化により、データ取引(移転、第三者提供)は国を越えて進んでいます。私たちはデータ取引の合意形成に役立つ内容を伝えたいと思っています。

私たちが暮らす社会では、データの活用を主軸とした分野が次々と誕生しています。新しい分野では、データガバナンスの仕組みが明確でないことが多いです。そのため、新分野に合わせたガバナンスが必要です。

データガバナンスの整備が必要な分野として、国を越えるデータ取引は分わかりやすいですね。現在、偽情報対策と取引合意に関するレポートを執筆していて、データ取引の問題への対策を紹介しています。

図 偽情報によって個人の行動が変化

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インターネットの偽情報の問題は当たり前になってきました。安心できるデータ取引を実現するには対策が欠かせません。

偽情報は、自動ボットシステムで生成されたスパムボット(ボットアカウント)により世界中に拡散します。偽情報は一つの国だけではなく、複数の国の問題です。現在のデータ取引が十分な対策の上に成立していないことは事実です。

(DataGovHubで)今年配信する内容に、偽情報の対策案の議論を考えています。 経済連携を目的に合意されたCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携協定)、DEPA(デジタル・エコノミー・パートナーシップ協定)を取り上げます。

「なぜ偽情報対策が必要かわかりますか」「対策を講じるべきだと思いますか」という問いで参加者の方々と議論したいと思います。

インターネット社会は人権との結びつきを強めている

Susan: 他に予定している配信テーマは、国家間のデータガバナンスが私たちの人権にどのように影響を及ぼすかについてです。

このテーマではプライバシーに言及する予定です。プライバシー権を侵害された個人は意見を表明するのか、それとも侵害先に情報開示を求めるのでしょうか。どちらの機運が社会的に高まるかを考えたいと思います。

図 ガバナンスの考え方の違いで人権に与える影響も異なる

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インターネット社会は私たちの人権との結びつきを強めています。インターネットにアクセスできない環境で生活するがゆえに、(コロナ禍で)ワクチンを摂取できない場合も起こるでしょう。

編集部:インターネットにおける活動記録を用いて本人確認を行う国も現れます。インターネットだけを通じて情
報収集する人々もいます。そこで、いくつかの国ではインターネットへのアクセスを人々の権利としています。

データ取引の議論がプライバシーに言及される一方で、表現の自由や情報にアクセスする権利にはまだ言及されていません。データ取引には人権を盛り込む必要があると思います。

最後に、データ取引の議論では互換性(interoperability)というキーワードが登場します。

編集部:ここで言う互換性とは、企業間でのデータ連携のしやすさ。フリーミアムのプラットフォームは互換性を
担保していますが、偽情報が拡散しやすい温床にもなっています。国を越えるデータを国別の法律で規制する
のは限界が見えています。

偽情報やプライバシーの規制は、国別に法律が適用されていますよね。データ取引の議論でプライバシーが言及される背景に、フリーミアムのビジネスモデルがあります。プライバシー問題を考えるときはビジネスモデルに言及すべきです。

私たちは企業に無料でデータを渡します。企業は集めたデータを匿名化して分析し、私たちの購買に関する思考と行動を予測します。知らないところで自分が分析されることに、多くの人が恐れを感じ始めています。Facebook や TikTok のような企業が利用している私たちのデータを、私たち自身で管理できないのは驚くべきことです。

デジタルIDと仮想空間に付随するデータガバナンスの問題

Susan: データの互換性の他にも取り上げたいテーマがあります。

世界銀行、米国の国際開発庁と国土安全保障省が用いるデジタルIDについてです。デジタルIDのシステムの議論では、移民問題と倫理問題に言及されます。政策作りにはシステムを取り巻く問題の議論が付随するのです。

編集部:議論の例を挙げます。移民問題では、移民は今後どのようなデジタルIDを持つとよいかという議論が
あります。倫理問題では、インターネットで生活する上で、営利企業の提供するサービスのIDを用いるのは社
会倫理の観点でよいかという議論があります。

途上国の中にも、政府主導でID活用が進む国があります。デジタル化する社会の中で、デジタルIDの利用によってもたらされる長期的な便益を考えていきたいですね。

ここからは(DataGovHubで取り上げることを)検討しているテーマを話します。

仮想現実と拡張現実についてです。政府は、仮想現実と拡張現実の技術導入に意欲的です。しかし、これまで仮想現実のデータガバナンスはあまり議論されていません。

編集部:たとえば、医療行為や軍事訓練。現実とは異なる仮想トレーニング環境があったとき、ハッキングによ
り望まない情報を学習する、もしくは望まない行動を実際にとってしまうことが考えられます。そのとき誰が責任
をとるのでしょうか。

仮想現実のデータガバナンスは、知的財産権が大きな議論テーマです。

ポケモンGOを体験した人は多いですよね。そうしたコンテンツをテーマにカンファレンスを開催し、仮想現実と拡張現実によって私たちの幸福度が向上することを政策立案者に体験してもらうことを検討しています。

仮想現実の世界を議論するために、人工知能技術の発展にも触れたいです。(計画としては)現状まだ何も決まっていませんが。

Kohei: ありがとうございます。

DataGovHubで取り上げたいと考えているテーマ
・データ取引
・人権
・互換性
・仮想現実、拡張現実

データの所有者を誰にするかの議論は人権問題と分けて考えよう

Kohei: 先生が口にしているデータガバナンスという言葉は、見方によって解釈が変わると思います。

国際会議でデータガバナンスが話題になるとき、それぞれの国の置かれている環境によって意味が異なることがよくあります。国別に解釈が異なる状況は、協調するなかで今後問題になるでしょう。私と先生が考える"データガバナンス"も意味が異なりそうです。

データガバナンスに対する考えを理解して協調するために、どのようなことが必要になるでしょう?

Susan: これまで長い間、データガバナンスの認識の違いと正しい解釈の議論がされています。国際的なデータ取引の現場では、データガバナンスという言葉の定義が一人歩きしている状態です。

・データガバナンスとは何か
・国を越えてデータ移転する際の課題は何か
・データの検閲を行う上の課題は何か
・データ保護を強化すべきか
・国防のために民間企業のアプリを停止してよいのか

こうした問いは、世界貿易機関(WTO)や他の国連機関で議論が進んでいます。しかし、国連機関の越境データの議論では、人権としての個人データばかりが取り上げられます。データの所有権(所有者と所有者にもたらされる便益)に関する議論が行われていません。

誰がデータを管理するべきでしょう?誰もこうした議論をしていないのが現在です。個人データ保護は法規制として定められています。けれども、私たちは細かい内容を理解していませんよね?多くの国で、データガバナンスは個人データ保護の視点だけで解釈されています。

企業秘密を取り扱うのと同様に、政策立案者は公共に開かれたオープンデータと個人が所有して権利を持つデータで解釈を分けて検討すべきだと思います。

人工知能やデータ分析のテクノロジーでデータ活用を進めるには、個人のデータ管理と所有権を考えることが必要です。実際に、データを活用する人々とデータを提供する人々は不公平な関係にあります。

個人が(企業の)データ利用を全て制限できるようにすべきだと思いますか?

私はそう思っていません。けれども、企業がデータを様々に混ぜ合わせて利用することに私たちは注意を払うべきだと思います。

公共と民間のデータを混ぜて生まれる価値に目を向ける

Susan: 様々なデータを組み合わせることに私は注意を払いたいと思っています。私が運営している DataGovHub はマスターカードやタフツ大学から様々なタイプのデータガバナンス調査の依頼を受けています。

私たちはデータ単体(個人データ、所有データ、公共のオープンデータ)のガバナンスと混合データに関する調査をしています。気候変動や疫病の感染拡大を分析するために、公共データと民間データを双方に共有することは重要です。そのようなデータ分析の取り組みはまだしっかりと始まってはいませんね。

Kohei: なるほど。

Susan: 以前Zoomで話したように、プライバシーやデータ保護の議論はプライバシーを問題にしていません。プラットフォーム企業のビジネスモデルを問題視しています。

プライバシーと人権を引き合いに出す場面もありますが、人権問題はプライバシーだけではありません。

(人権問題は)企業が何かしらの影響を個人に及ぼして初めて問題になります。もちろん、無料サービスの側面として(知らず知らずのうちに)言論の自由に抵触する問題があることも理解しています。プライバシー問題と同様に、コンテンツの検閲も考える必要があります。

Kohei: プライバシーを極端に保護すべきと主張する人もいますが、情報の開示とプライバシーの保護の両立を考えるべきです。

これからのデータ社会のために、安心してデータを利用できる環境作りが優先されてほしいと思っています。国防のための監視とプライバシー問題の両者を考える必要性を感じています。ユーザーの権利を守ることを前提に、利便性とのバランスを考えることが大切です。極端にプライバシーを主張することとは異なります。

利便性とプライバシーを両立させるには、企業とユーザーが対話を通じて互いを理解する必要があると思います。

Susan: 極端にプライバシーを主張するとはどういうことですか?

Kohei: 感情的にプライバシー問題を捉えて(個人が)データ提供を全て毛嫌いするのはどうかと思うんですね。よりよい社会のためにデータ活用を考えるならば、データの活用と保護のバランスを踏まえ、異なる価値観を持つ人々と経験や考えを共有していく必要性を感じています。

ここからは次のテーマに移りたいと思います。

インタビューは後編に続きます。

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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author  山下夏姫

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Privacy by Designとは、技術的・組織的な側面から議論される、人間中心のデータ循環をデザインするための概念です。Privacy by Design Labは様々な専門家がプライバシーに取り組むための社会的機能をリリースしていきます。