スマートシティでオープンデータを導入する際の課題
※このインタビューは2023年3月31日に収録されました
スマートシティプロジェクトを推進するためには、住民の方の理解と参加の仕組みを設計することがとても大切です。。
今回はオープンデータコーディネーターとしてオレゴン州ポートランド市で活動されているヘクターさんに、住民対話とプライバシー政策についてお伺いしました。
Kohei: 皆さん。こんにちは。今回もプライバシートークにお越しいただきありがとうございます。今回のインタビューは街のオープンデータ等の公共分野で活躍されているヘクターさんにアメリカのポートランドからお越しいただきました。ヘクターさんのお仕事はとても魅力的なので、ぜひインタビューを通してご紹介したいと思います。ヘクターさん。本日はお越し頂きありがとうございます。
Hector: ご招待いただきありがとうございます。
Kohei: ありがとうございます。早速ヘクターさんのプロフィールをご紹介したいと思います。ヘクターさんは起業家や研究者、非営利組織を始めとした分野でのご経験をお持ちで、これまでにIoTや応用分析、ロボティックス、自動化、人工知能等の技術分野を専門とされています。
ヘクターさんはこれまでにセンサーネットワークを開発し、農業や食の生産、森林の観察、オイル産業での活用に従事されてきました。大学では機械工学の博士を取得し、太陽光を活用した開発や持続可能な開発計画を専攻されています。
本日はヘクターさんに様々なお話をお伺いしていこうと思います。
Hector: そうですね。お話しできることを楽しみにしています。
ポートランドで働き始めるまでの経緯
Kohei: 早速本日のインタビューに移っていきましょう。ヘクターさんはエンジニアでありつつ、ポートランド市でのお仕事にも関わられています。とても興味深いキャリアなのですが、ヘクターさんのこれまでの活動の経緯についてお伺いしても良いでしょうか?ポートランド市でのお仕事を選ばれた理由も教えてもらえると嬉しいです。
Hector: ありがとうございます。とても長いお話になります。私は移民として米国に移住してきて、今は米国で生活しています。私の故郷はメキシコなので、母国語は英語ではなくスペイン語です。米国に移り住む移民として、他の移民の方々とも同様に、本来米国の人たちが参加できる民主的な活動に参加することができなかったという背景もあります。
移民として移り住んだので、ポートランドでのテクノロジー導入の考え方やコミュニティ内での関係性作りなど現地の方とは違う外部の人の視点で気づくことも多く有りました。
私はプロフィールでご紹介いただいたように、元々はエンジニアとして活動していました。エンジニアの中でも、これまでに学術的な分野とスタートアップ的なコミュニティの両方を経験してきました。
私はエンジニアなので、何かを作ることにとても関心があります。実は日本にもメキシコからの交換プログラムで1999年に少しの間住んだことがあります。当時は筑波に行って、ロボット工学や自動化について学びました。
これまでに父親の影響で普段私が生活しているコミュニティとは別のコミュニティに触れる機会があり、文化の違いを学びどのように交流していくと良いのかを考えるようになりました。私が生まれ育った母国はメキシコのベラクルス州に位置するハラパという都市でメキシコ湾の近くにあります。
私の家族は人里離れた田舎の地域で農業を営んでいて、サトウキビやコーヒーを生産しています。80年代には私の家族は都市の中心部に住んでいましたが、当時から定期的に農村に訪れてサトウキビやコーヒーを育てるような活動を続けていました。農村では機械を利用しながらも、人と自然が共生するパーマカルチャーやオーガニック農業を実施していました。
若い頃の様々な経験を通して、私は自然の大切さを学ぶことができました。自然と共に働いた経験があったので、農業とテクノロジーを組み合わせた新しい活動に取り組むきっかけになったり、テクノロジーによって生産性を高めたり、漁業へ貢献するようになったことに関心を持つようになりました。
時が経ち、興味関心を形にしたいと思ったので母国メキシコでセンサー等を生かして情報ネットワークを構築し、農家を支援する活動を始めました。
そこから現在拠点としているポートランドと関係することになるのですが、当時私がメキシコで行っていた活動は、ポートランドでは実施されていませんでした。
そこでSmart vineyardsという名前の会社を共同創業し、農家を支援するためにセンサーネットワークを提供し、ブドウの生産性を高めるために灌漑農業の管理を効率化する仕組みを提供し始めました。
そこからプロジェクトを4、5年継続して実施してきました。ただ、継続してプロジェクトを実施してきたものの、私たちはスタートアップ企業だったので継続して収益を上げていく必要がありましたが、収益モデルを確立することはとても難しいことに気づきました。
そこで、私が元々関心を持っていたポートランドのスマートシティプログラムへ参加することにしました。プログラムへの参加をきっかけにスタートアップ環境から離れ、公共分野で働くことになりました。
ポートランド市ではオープンデータコーディネーターとして活動することになりました。オープンデータとは、政府が積極的にデータや情報を公開し、開かれた形で政府が意思決定を行います。そして情報は広く公開されることになるのです。
当初私たちがオープンデータに取り組む際に疑問に思ったのは、どういった情報を公開し、一方でどういった情報をプライバシーとして取り扱うかということです。
プライバシーは住民の方々の基本的な権利に相当するため、私がプログラムを進めていく際にはポートランド市のエクイティと人権に取り組む部門とも協力して取り組むことになりました。この協力関係は2018年からスタートしていて、様々な面で連携を進めています。
Kohei: とても興味深い経歴ですね。ポートランドは日本でも有名な都市で、街のデザインや環境作りを進めていく際に参考にしている地域もたくさんあります。
Smart City PDXがポートランド市で取り組んでいる活動
ヘクターさんはポートランド市でSmart City PDXというプロジェクトに参画され、ポートランド市内でスマートシティに関連した取り組みを推進されていると思います。ヘクターさんが関わっている取り組みはポートランドの住民の方にとって非常に有益な活動だと思います。ヘクターさんの活動とポートランドでのオープンデータエコシステムについてお伺いしても宜しいでしょうか?ぜひ詳細をお伺いできると嬉しいです。
Hector: Smart City PDXとポートランドのスマートシティプログラムは米国政府が2016年に発表したスマートシティチャレンジをきっかけに始まっています。スマートシティチャレンジは大きな取り組みの一つで、素晴らしいプロジェクトには4000万ドルを提供します。ポートランドでは交通局やサステナビリティ計画局と協力してコミュニティ連携活動を推進してきました。
(動画:Smart City Challenge Finalist | Portland, Oregon)
協力プロジェクトとして幅広く参加できる交通サービスを提供することを目指して取り組みを始めました。このプロジェクトには誰でも参加することができます。2016年のスマートシティチャレンジのファイナリストとしてプロジェクトが選ばれました。
最終的に表彰まで行くことはできず、オハイオ州のコロンバスが受賞することになりました。負けてしまいましたが、私たちのチームは協力してプロジェクトに取り組むことができました。この件を受けてポートランド市内でスマートシティプログラムに向けて、新しいテクノロジーの発展と合わせて取り組むような機運が高まることになりました。
2023年からは少し時間が経ってしまいましたが、2017年にスマートシティプログラムが立ち上がりました。スマートシティプログラムでポートランドのオープンデータについての取り組みが始まることになりますが、オープンデータに関する動きは米国のある都市で2009年に始まっています。
ポートランドではオープンソースソフトウェアに関する異なったエコシステムを採用しています。異なる企業がそれぞれオープンソースを採用していて、企業に勤める多くの人たちがオープンソースを利用しています。オープンソースの活用を通して、幅広く協力関係が広がってきているのです。
スマートシティでオープンデータを導入する際の課題
オープンデータ活動の原点は2009年まで遡りますが、当時からオープンデータとオープンソースはとても相性が良い組み合わせです。ただ、2009年の当時はテクノロジーが追いついていなかったことが問題になりました。
エンジニアの方はサーバーにデータを保存する作業をイメージして欲しいのですが、ネットワーク回線が遅くなるとオープンソースを維持するためのコストが増加してしまいます。
開発者も当時は非常に少なかったので、オープンデータに関するプロジェクトも途中からトーンダウンしてしまうことになりました。この傾向が数年間続き、2012年までは下火の状態でした。
そこからスマートシティに徐々に注目が集まるようになると、再度オープンデータを生活環境に活用しようという話が出てくるようになります。オープンデータを採用するスマートシティも増加し、そういった経緯から2018年に私はポートランドに採用されることになりました。
ここからオープンデータについての取り組みが再開されることになります。私がオープンデータに関わり始めたタイミングで、プライバシーについても取り組み始めることになりました。
こういった背景を経て、スマートシティプロジェクト全体の軸を整理するためにプライバシー原則を定めることになりました。スマートシティ内で交通ネットワークの管理やセンサー技術を利用することが決まっていて、北ポートランドの地震感知で利用する話もあったので、事前に原則を定めておくことが必要になりました。
10年近く前にテクノロジーが未成熟だった時期に倣い、新たに取り組みを推進する方法を検討していました。ただ実証実験プロジェクトでは想定よりも思うように進まず、2018年、2019年に試験導入した人工知能を採用した取り組みはあまり良い結果を導き出せずにいました。
そこで、人工知能自体の実証から取り組むのではなく、街を形作る基本的な要素の整備から始めることに取り組み、都市政策の整備に着手することにしました。
この時からテクノロジーを採用する際の課題について内部で議論を重ね、現在の取り組みに至ります。5年間継続して活動してきて、テクノロジーを活用することを前提にしたいくつかの政策についても、テクノロジー活用に対する責任を定めるために整備することができました。
政策を整備していく過程で異なるバックグラウンドを持っている人たちに参加いただきました。データについて取り組んでいる人や、テクノロジー開発を行っている人など、街で求められるサービスを提供するために多様な視点で取り組むように心がけています。
Kohei: 公共性を大切にした素晴らしい活動だと思います。ポートランドでは満場一致で監視テクノロジーに対する政策が可決し、ウェブサイト上でも詳細が公表されていることを拝見したのですが、プライバシーの観点からは非常に興味深い活動であると思い拝見しておりました。
消費者や生活者の権利を保護していくためには監視を行うことに対しての懸念があるかと思いますが、政策として受け入れられる環境を整備している点に注目しました。
ポートランドでは監視技術に対する政策をどのように通過させ、2019年や20年に起きた顔認識技術を採用する際の懸念に対してどのように向き合ってきたのか教えてもらえますか?
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編1は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?