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ジャーナリストのプライバシーを守るために必要なこと

※このインタビューは2022年12月20日に収録されました

各国の法規制に限らず、国際機関でもAIについての新しい動きが始まっています。

今回はフランスパリにあるユネスコでデジタルトランスフォーメーションのディレクターを務めるマリエルザさんに、国際機関における新興技術への取り組みについてお伺いしました。

ジャーナリストのプライバシーを守るために必要なこと

Marielza: とても重要なテーマについて聞いていただきありがとうございます。私たちがオンラインで活動するために信頼できる情報にアクセスすることはとても大切ですね。

多くの人たちが誤情報や偽情報ではなく、フェイクニュースという誤った呼び方をしてしまっています。サイバー空間でのヘイトスピーチや極端な情報についてもですね。

サイバー空間上のスキャム情報はセキュリティの観点からも私たち自身が身を守るために気をつけなければいけません。私たちは多くの国々で教育省向けに学習カリキュラムを提供しています。

このカリキュラムはメディアや情報リテラシーを学生たちに提供するもので、学生に限らず先生方も自らを保護するためのスキルを習得できるものになっています。

ただこれだけでは不十分ですね。様々な支援が今後情報提供者から行われることが必要で、信頼できる情報発信がメディアにとって重要な役割になっていくと思います。

ただ、メディアは同時に違った視点で危険を伴う仕事でもあります。

第一に私たちはジャーナリストの安全性について調査を行っています。調査結果によると73%の女性ジャーナリストはオンライン上でのハラスメント被害に悩まされていることがわかりました。そのうち20%は実社会で物理的な被害を受けたとも報告されています。

(画像:ハラスメント被害に悩んでいる女性ジャーナリストの割合)

これは7人の1人のジャーナリストの女性が被害に遭っている計算で、ジャーナリストという仕事柄被害に遭ってしまっているということです。さらに、状況によっては黒人やラテン系の女性、その他マイノリティ系の方々にとっても大きな問題で、これは女性に限らず男性も同様に抱えている問題です。

ジャーナリストの安全性についてはUNESCOにとっても重要なテーマの一つであり、メディアに対して支援策の開発と啓蒙に取り組んでいる領域です。より多元的で包括的、信頼できる情報をメディア自身が発信できることがとても大切であると考えています。

情報通信部門では表現の自由やジャーナリストの安全性について取り組んでいるチームがあります。このチームでは政策の軸となるフレームワークの開発やジャーナリストの安全性を推進するための取り組みを実施しています。

国連の計画に含まれているジャーナリストの安全性を推進する活動を始めて10年が経ちました。毎年 “世界報道自由デー(5月3日)”を記念して祝ってい
ます。

(動画:World Press Freedom Day 2022 - Message from Tawfik Jelassi, UNESCO)

私たちはジャーナリストの活動を支援するために、コンフリクト設定に関する機能やニュースを現場で配信する際の防弾チョッキ等でジャーナリストが自ら身を守ることができるような対策も実施しています。

私たちは世界中のジャーナリストのデータベースを準備し、亡くなった方についての情報を把握するようにも努めています。データベースの統計結果から、5日間に1人のジャーナリストが世界中で亡くなっていることがわかってきました。

亡くなる対象が男性、女性問わずこれは非難すべきことです。私たちがデータベースを通して伝えたいのは、ジャーナリストが老衰や事故で亡くなったのではなく、専門家としてジャーナリズムを追求する過程で殺されてしまっているということです。

ジャーナリストの方々にはご冥福をお祈りし、殺人に対しては非難するべきです。私たちはジャーナリズムに対する犯罪に対して起訴し続ける必要があります。

私たちは“ジャーナリズムに対する犯罪を終焉させるための国際の日”を定め、ジャーナリストに対して行われている犯罪活動を啓蒙する活動も実施しています。

とても悲しい事実ですが、私たちが取り組んでいる活動の一つです。私たちはいつの日かこういった活動をする必要がなくなることを心から祈り、ジャーナリストの方へのプライバシー問題や監視についても取り組んでいくことが必要だと感じています。

ジャーナリストへの監視行為はスパイウェアを通信デバイスに組み込み、ジャーナリストの活動を外から追跡・管理するケースが代表的です。このようなスパイウェアを利用して、最終的にはジャーナリストを追放したり、時には刑務所に送られ、殺人に至る場合もあります。

このようなジャーナリストのプライバシーに関する問題は、彼らの表現の自由に直結し、女性のジャーナリストへはハラスメント行為に及ぶケースもあります。

こういった行為によって声を上げることが難しくなっているのです。私たちの民主主義を守るためにはメディアを支援し、表現の自由を守ることが必要です。メディアが伝える信頼できる情報を元に社会全体で物事を決めていくためには、声を上げることができる環境を整備することが必要です。

Kohei: とても貴重なお話を共有いただきありがとうございます。民主的な意思決定を行うことは、私も大切であると考えています。ジャーナリストの表現の自由を制限することはとても大切で、信頼できる情報によって私たちは適切な判断ができ、民主的な活動につなげていくことができると考えています。

情報化社会が浸透していく中で、どんな解決策があるのか議論を進めていくことが必要であると考えています。UNESCOでは、こういった課題に対していくつかの活動を進めていると思います。2023年には、大きなイベントを開催するとも伺っています。

ユネスコが2023年に進めていく新たな計画

UNESCOがサイト上で公開している規制のフレームワークについてお伺いしたいと思います。このフレームワークが意味するものについてお伺いしてもよろしいでしょうか?2023年がUNESCOにとってどのような年になるのかも教えて頂けると嬉しいです。

Marielza: ありがとうございます。先程2023年2月21日から23日にかけて開催するイベントについて触れていただきました。このイベントはUNESCOの本部があるパリで実施されるグローバルカンファレンスで “Internet for trust” をテーマに実施致します。

(動画:#InternetForTrust - Opening)

このテーマはとても大切なテーマで、私たちがデジタル空間でコミュニケーションを行う際に、デジタルプラットフォームが生活の中で当たり前になりつつあるからです。

同時にプラットフォームを通じて私たちは偽情報や誤情報、ヘイトスピーチや陰謀論など人権を傷つけるような内容を発信することもできてしまいます。人権だけでなく、人々の尊厳や民主主義、社会の一体制を誤った情報によって崩してしまうこともできるのです。

これまでにワクチン反対の動きや地球温暖化懐疑論等の偽情報によって、制度設計を大きく転換することも求められ、それによって多くの方々が亡くなるケースもありました。私たちはインターネット上で行われている被害に対して、信頼できる人々が信頼できる情報に触れることができるような環境を作っていく必要があります。

現在の法制度の仕組みでは、ここまで紹介してきた課題に対して適切に対処できるような枠組みになっていません。私たちはこういった問題に取り組むために、UNESCOでは表現の自由を守りつつ、デジタル化を軸とした情報を知る権利についての保護も進めています。

私たちはグローバルカンファレンスを通じて、大臣や政府関係者、法曹界、民間企業や各国連団体等、アカデミア、大手テクノロジー企業とも連携しながら現在の問題に対してどのような解決策に導いていくことができるのか議論を進めています。

デジタルプラットフォームについても、共同規制や自主規制等の異なる対策を検討し表現の自由を保護するような動きを支援しています。同時に、偽情報や誤情報、ヘイトスピーチ等を減らしていくような活動も推進しています。

もちろん各国で制度を整備し、法的にこの問題について取り組んでいくことが大切であると考えています。制度設計にはいくつかの方法が考えられますが、必ずしも設計した制度が表現の自由を抑圧したり、効果的なコンテンツ対策につながっていない等国際的な人権保護に繋がっていないケースもあります。

いくつかの国では素晴らしい制度設計が進んでいますが、実態は非常に限られているのが現状です。各国の規制動向についても、モニタリングを実施し執行できる体制を作っていくことが必要であると考えています。

私たちは複数のステークホルダーコミュニティと協力して、コンテンツによる被害を制限するためのガイダンスの整備等についても取り組んでいます。表現の自由と信頼できるデジタルエコシステムの中で情報を知るための権利が大切です。

私たちがユネスコと一緒に取り組めること

Kohei: 異なる背景を持った人たちが、異なる分野で集まり、そしてより国際的な定義を整備していくことが重要ですね。マリエルザさんのチームが取り組んでいることは、とても大切なアプローチであると思います。

最後に、視聴者の皆様へメッセージをお願いしてもよろしいでしょうか。人々の権利やその権利を保護するための活動について、大切なメッセージをお伺いできれば嬉しいです。

Marielza: ありがとうございます。オンライン上での人権や尊厳を考えるように啓蒙していくことが大切だと思います。私たちがオフラインの社会で当たり前のように取り組んでいるような環境づくりが必要ですね。デジタル空間の人権が当てはまらない場所はありません。私たちのどのような活動についても、デジタル空間、現実空間分け隔てなく権利が守られる必要があるのです。

私たちは掛け替えのない権利を持っているので、努力して権利を守ることが必要です。

UNESCOの活動はウェブサイト上で公開されているので、ぜひチェック頂き一緒に平和な未来に向けて取り組んでいけたら嬉しいです。イメージだけでなく、自由な新しいアイデアも募集しています。

デジタル空間、現実空間どちらでも日本からもアイデアがあると嬉しいですね。日本の皆さんと一緒に活動できることはとても素晴らしいことだと思います。

重要なデジタルアーカイブを残しておくことはとても大切で、デジタルアーカイブについては日本からもステークホルダーの皆様に参加いただきサポートしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。

Kohei: 素晴らしいメッセージをありがとうございました。クリスマスの季節にお時間をいただきありがとうございました。次回はパリでお会いできることを楽しみにしています。

Marielza: 素晴らしい休日をお過ごしください。また来年お会いしましょう。ありがとうございます。

Kohei: ありがとうございました。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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