見出し画像

凡庸”映画”雑記「フォール」

NetflixやAmazonプライムビデオで、日々、映画やドラマ、アニメが配信されている。次々、現れては消え、全く追いつけない。それでも、性懲りも無く、追い求める。

興味を持った作品や、名の知れた作品は、とりあえずダウンロードして、まずは、頭の数分を観て、気にいれば、そのまま観続ける。

だいたい、iPadの気楽さにかまけ、時間がある時に、ちょこちょこと、ぶつ切りでの鑑賞が基本である。

その中、冒頭の数分で魅了され、最後まで、一気に観てしまう作品に出会うことがある。

前、サイゼリアで夕食を取る時の、慰めものとして、少し気になっていた、香川照之主演の「宮松と山下」を見始めた。結果、サイゼリアのハンバーグセットを口に運びながら、ガッツリ、目線はiPadの彼の演技に、凡庸な表現だが、”釘付け”になってしまった。

結局、食べ終わった皿やナイフ、フォークを横に片づけ、エンドロールまで、観てしまった。

ディナー時間の混雑した店内。側から見ていたら、完全に”変なおじさん”と奇異な視線で見られていたに違いない。だけど、彼の常軌を逸した吸引力を持つ演技に、抵抗することなんて、無理だった。

色々、さまざま、意見や考えがあって、良し悪しは簡単には言えないのだけど、彼を、未だ目にすることは叶わない。一見、美しくも、魅惑的でもない風体の凡庸な中年男なのに、圧倒的な存在感と、足腰がしっかりとした演技を、二度と観れないかもしれないのは、なんだか侘しい。

そんなこんなで、星の数ほどある作品の中で、時々、物語を止めることができない魅惑的な作品がある。数が多すぎて、うんざりして、もう、動画配信なんて、人生の浪費しかならないから、すっぱり止めてやろうと、卒業、引退宣言を心にするのだけど、時々、こんな夢中にさせてくれる作品と出会ってしまうと、配信の迷宮はやめられない「ダンジョン飯」のようにと、思う。

前置きはさておき、この間観た、Netflixで配信されている「フォール」が思いのほか、面白かった。

話は、シンプル。壊れかけのテレビ塔の上に取り残されて、さて、どうするか?と、どこかで見聞きしたことのある話。あまり有名な役者も出ていないし、場所も古い塔の上。つまらなければ、とっとと切ってしまうつもりで見始めた。

期待しなくて見たおかげか、気の抜けた気持ちの中に、ぐいぐい中身がねじ込んできた。ここぞというショットが、絶妙なタイミングで、印象的に入り込む。

この作品、映像の緩急と、テンポがとても小気味よい。この監督の、リズム感の良さに嬉しくなる。ただもんじゃないと見た。(偉そうに)

物語が、シンプルなのも、良いところ。捻りのない真っ直ぐ、だからこそ、足腰の強い脚本が軸となり、全体を安定させ、映画のブレを少なくしている。

ここまで書いて、もっと、何気なく、言葉少なに、気持ちを伝えたいのだけど、どうもうまくいかん。頭の悪さが露見していると、ヘキヘキ。

で、続き。話は映画から少し離れた思いつきを。

少し昔、熱心にビジネス書。自己啓発類をよく読んでいたのだけど、引っ込み思案の日本人には、少しばかり強引で、刺激的で、座り心地悪い。そんな感じがしていた。これを観て、やっぱりそうかと、膝を打った。

重要な一人。主人公の友人。彼女が、無鉄砲に無謀に、トラウマを抱えて、アル中になっていた主人公を、強引に塔の上に登らせた。

それが、ここまでやるんかいと、ドン引きするぐらいの、プラス思考。プラスで考えれば、何でもできる!アントニオ猪木じゃないが、もう、論拠も論理も、ありゃしない。そういえば、何とかコンサルタントが、二言目には、根拠のない自信を持て!と言っていたのを思い出す。

普通考えれば、いつ倒れるかわからない、オンボロ塔なんて、登ってはいけないし、人生がそのまま倒壊するかもしれない状態に追い込んで、困難を克服って、そりゃないだろう。

それをだ、この恐怖を乗り越えてこそ、真の克服があるんだ。そんなことを、満面の笑顔で語り、息も絶え絶えの主人公を勇気付け、突き上げるのだから、この、お節介を超えた、強引な慈善行為は、欧米人の強欲さ、彼らの奥に根を張る、圧倒的正義への自信なのだろう。

自己啓発というものの根底には、これがあるのか。だから、凡庸で後ろ向きの人生には、そぐわないのか。そう、思う。

まあ、この無謀で無知なポジティブ友人の存在が、この物語の原因で、原動力となったのだから、あくまでも、重要な演出の一端だから、事実とは違うのかもしれないが、きっと。

さて、締めくくるとして、とても楽しめた。

ハラハラドキドキ、でも、きっと丸く収まるのだと、安心して楽しめた、面白い作品だった。無数に生まれる作品を、あれこれと試食して、いい加減うんざりとしているのだけど、時々、時間を忘れて、夢中にさせるこんな作品があるので、やめられない動画廃人を。困ったことに。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?