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ECやネットスーパーの方がコストが安いってホント?

■はじめに

こんにちは、Pathee副社長の冨田です。
私はこれまで、JINSでは実店舗を中心に運営する小売業、KDDIグループではECモール・ECモール内店舗の運営に携わってきました。
そういった経験の中で、定説のように言われている「ECは実店舗よりモノが安い」という話に対して、いやいやコトはそんなに簡単じゃないんだよ、ということをお伝えしたいと思います。

■EC・店舗における、モノの流れから見る物流コスト

まずはモノの流れの話からしていきたいと思います。

1.ECにおけるモノの流れ

ECのモノの流れから見ていきましょう。図1になります。

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図1.ECにおけるモノの流れ

1) メーカーから出荷された商品を受け入れます。メーカーに注文した内容かどうか、商品とその数量をチェックします。
2) 受け入れた商品を棚に入れていきます。ECの場合は、注文は1つ単位で入るので、必ず注文と同じ1つ単位で棚におさめていくことになります。
3) 消費者からの注文に応じてピッキングリストが作成され、ピッキングしていきます。
4) ピッキングしたものを、配送できるように梱包していきます。配送中に破損することがないように、梱包材なども詰め合わせながらの作業になります。
5) 宅配業者に引き渡して、消費者宅へ1つずつ配送されていきます。

2.実店舗販売でのモノの流れ
次は実店舗でのモノの流れです。図2になります。

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図2.実店舗におけるモノの流れ

1) 入荷作業はECと同じく、メーカーに注文した内容かどうかチェックします。
その後の登場人物が違うので、少し先に解説すると、物流センターは大きく分けて、2つのタイプがあります。
1つが通過型物流センター(略称:TC)とよばれるもので、もう1つが在庫型物流センター(略称:DC)とよばれるものです。
どちらも物流センターなのですが、その名の通り機能が異なっており、通過型の物流センターは基本的に在庫を保持することなく、メーカーから納品されたものを店舗別に仕分けてすぐに出荷してしまいます。
それに対して、在庫型の物流センターは、いったん在庫として保持し、店舗からの注文に応じて商品を出荷します。ECの物流センターに近い機能です。
商品特性に応じて、TCとDCは使い分けられています。
前述の通り、通過型物流センターでは
2) 仕分作業のあと、すぐに出荷されます。
これに対して、在庫型物流センターでは、
3) ECの物流センターと同じように、受け入れた商品を棚に入れます。ただしECと違うのは、店舗からの注文単位で棚に置くので、ある程度のパッケージの単位(たとえば1ダース入りとか)で収納することになります。
4) ピッキングは、店舗からの注文に応じて、ピッキングすることになりますが、よくコンビニなどに積まれているオリコンと呼ばれるプラスチックケースなどを活用することにより、ECと違い梱包作業などはなく、そのまま出荷されます。
5) ここからトラックで各店舗に配送していくことになります。
6) 店舗での入荷作業ですが、ある程度精度が保証できている場合、ここでは店舗からの注文内容との突き合わせは行わず、物流センターでの作業を信じて受入を行います。
7) 品出し作業は、店舗の棚に商品を置いていく作業です。これは、店頭でよく見る作業ですね。
8) 実店舗の場合は、商品の場所を探して棚から取り出して買い物カゴに入れるのは、消費者自身の仕事になります。
9) その後、レジでの精算を経て、
10) 消費者自ら、自分で持ってきた袋に商品を詰めて、
11) 自分で家まで持って帰ることになります。

ここまで読んで頂いてお気づきと思いますが、決して、ECの物流の効率が優れているわけではないということがご理解頂けたのではないかと思います。
まず、ECでは必ず物流センターに、すべての商品を在庫することになります。そのため、非常に細かい単位で棚に収納し、棚から取り出すピッキングも同じ単位で発生します。同じだけの商品量を動かすにも、何倍も手数がかかることは、容易に理解できると思います。
その後、梱包作業が発生するわけですが、商品を入れる箱や、配送中に壊れないようにするための梱包材もEC事業者が費用負担することになります。エコバッグが必須になった実店舗とは大きな違いですね。
その後、店舗まで商品を大量配送するのか、消費者の家まで個別に配送するのかで、大きく効率が違うのもご想像頂けると思います。店舗は指定された時刻に必ず店員がいますが、消費者はいるとも限りません。再配達が社会問題化したのは記憶に新しいところです。
非常に安い商品でも、高い商品でも、同じサイズ・重さであれば、同じコストがかかります。ダンボールの中には商品だけではなく、商品以上に体積をとっている梱包資材が入っていることも少なくありません。そういった配送の非効率性のコストは、すべて配送料に反映されています。ECにおける配送費の負担は非常に大きく、楽天の送料無料化が大きく出店者の反発を招いたのも必然と言えます。
実店舗での入荷作業や品出し・レジ業務は実店舗特有のコストになりますが、反面、ECであればEC事業者側が行わないといけないピッキング(カゴ入れ)や梱包(袋詰め)、個別配送(家への持ち帰り)は、消費者自身に行ってもらえるため、ECの方が効率的とは一概に言えないのはご理解頂けると思います。
つまり、実はECの方が物流効率がよい、というのはある種の神話であることが分かって頂けると思います。
逆にこの部分の効率化を追求しないと利益が出ないことが分かっているからこそ、Amazonは物流や配送の自動化に大きな投資を行っているわけです。

■土地代・マーケティングコストから見るECのコストメリットとは

ECは、辺鄙な場所に物流センターを作ればいいから、実店舗と比較して、土地にかかるコストが安くて済むということもよく語られます。
店舗にかかる建設関連(内外装)のコストなども同じ文脈で捉えられるでしょう。
では、実店舗が、高い家賃を払って、キレイなお店を作る理由はなんなのでしょうか?
これは、人がたくさん通る場所は家賃が高く、キレイなお店の方が人が入ってくれる、ということに尽きます。
これは、会計上の費目は違うものの、実店舗型の小売業においては、家賃や内外装にかかるコストを、マーケティングコストとして捉えているということになります。
では、実店舗とECの土地代の差分以下に、ECのマーケティングコストは収まっているのでしょうか?
インターネットの世界は、検索エンジンでいえばGoogle、消費者メディアでいえばYahoo!、ECモールでいえば楽天やAmazonと、強いプレーヤーが決まっています。ECでのマーケティングも、これらのプレーヤーを無視して存在することはできません。
それぞれの場所で、自らのECサイトを目立たせることができなければ、そもそも消費者は認知すらしてくれません。
どんなに大型の商業施設であっても、競合店舗の数は多くて100、通常は一桁から数十です。しかし、インターネット上には競合店舗が無数にあります。その競合と、商品の品質や価格、ブランディングなどで差別化した上で、それを消費者に伝えていく必要があります。競合が無数にあるがゆえに、自らのECサイトを選んでもらうための販売促進費は、青天井になってしまいます。
特に立ち上げフェーズでは、新規顧客の集客に大きく販促費をかけないと集客できず、最初に大きく投資(=赤字)する覚悟が求められます。
既存顧客他のサイトへの目移りも激しいので、既存顧客であっても定期的にクーポンなどを発行し、繋ぎ止めていかないといけません。
つまり、土地代とマーケティングコストを足すと、ECの方がコストが安く済むというのは決して真実とは言えないわけです。

■さいごに

というわけで、ECが決してバラ色の世界ではない、ということは、なんとなくお伝えできたのではないかと思います。
今は、コロナの影響によって、実店舗の集客は苦戦していますが、すでに既存店売上高が前年の100%を超えている小売事業者も多く出てきており、実店舗をとりまく事業環境は復活の兆しはみえてきています。
反面、消費者がECの利便性になれ、結果としてEC志向が加速しているのも確かです。
このような状況において、これまで実店舗中心で戦ってきた小売事業者におってEC化への対応も待ったなしとなっているのも間違いありません
ただ、ゼロからECを立ち上げるよりも、実店舗で既にファンのいる小売事業者がECを立ち上げる方がかなり有利ですし、上述のECにおけるマーケティングコストが相対的に少なく済むため、工夫次第で大きく成長させることも可能と感じています。

弊社は、Googleマイビジネスや、Googleショッピングを活用した、実店舗・EC双方にとって集客効果のある、デジタルマーケティング手法などの開発も行っていますので、ぜひご相談ください。


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