【商標登録の闇】 同人誌のタイトルを商標登録させる意味はあるのか?
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【商標登録の闇】 同人誌のタイトルを商標登録させる意味はあるのか?

フィラー特許事務所|弁理士・中川真人

 大阪・梅田でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。皆さんはご自身で書かれた本のタイトルを商標登録しておこうと思われたことはありますか?

漫画のタイトルは商標登録できるのか?

 同人誌に限らず、漫画のタイトルは出版社によって商標登録されている場合が多いので、(大企業の真似をして)同人作家にもご自身で書かれた本のタイトルを商標登録しておきましょうと言う記事や発信を目にすることがあります。

 しかし、大企業が登録している漫画のタイトルも含め、漫画のタイトルを商標登録することはできません。正確には、登録はできますが目的の効果は得られません。なぜなら、漫画のタイトルは出所表示ではないからです。

 商標登録は、指定商品と呼ばれる商品ジャンル名を選択し、出所表示として使用する標識(マーク)を商標として出願します。そして、審査の結果登録が認められると、その指定商品にその商標を使って事業ができるのは、商標登録を受けた人だけと言うことになります。

 仮に商標登録を受けた人(商標権者と言いますが)に無断で、その商標をその指定商品に使用して事業をすると、差止請求や損害賠償請求の対象になります。

 ですから、仮の仮に「鬼退治の剣」という漫画のタイトルを商標として指定商品を書籍として出版社Xが商標登録すれば、「鬼退治の剣」というタイトルの漫画を出版社X以外の人が書籍にして出版すると、一見商標権侵害になるような気がすると言うのもわからないではありません。

登録はできるけど効力はない?

 ところが、この場合出版社Xは「鬼退治の剣」というタイトルの漫画を他の会社が出版しても、指定商品「書籍」について登録されている「鬼退治の剣」という商標権でその出版行為を差し止めることはできません。なぜでしょうか。

 商標登録というのは、同じ製品ジャンルに属する商品を提供する事業者が複数いて、それを購入する人が事業者の違いを識別するために使用するものです。
 例えば、指定商品「ボールペン」に対して、A事業者は「パテボール」、B事業者は「アバレンボール」という商標を使用することで、消費者はA事業者のボールベンとB事業者のボールベンを間違えることなく購入することができるようになります。
 その信頼性を担保するために商標登録という制度があり「ボールペン」を提供する事業者間の競業秩序を守っているのです。

 これを商標の出所表示機能と言いますが、商標登録の本質的な意味はA事業者とB事業者の製品を識別することです。では「鬼退治の剣」という漫画のタイトルはどうでしょうか。
 商標法では、書籍の題号を出所表示とは考えていません。書籍の題号はあくまで書籍の内容を指し示すもので、書籍の出所表示は「集英社」「講談社」「有斐閣」といった、出版事業を行なっている事業者の営業表示部分となります。

 では、出版社Xが「鬼退治の剣」という商標権に基づいて、同じく「鬼退治の剣」というタイトルの漫画を出版した出版社Yを商標権侵害で訴えたらどうなるのでしょうか。私が出版社Yの立場であれば

鬼退治の剣は書籍の題号であり書籍の出所を表示したものではない。書籍の出所は出版事業を行うものが通常用いられる方法で書籍下部並びに背表紙下部に出版社Yという表示を付している。本書を出版社Xの書籍として購入する需要者がいるとは考えられない。

と反論し、おそらくこの主張は認められるでしょう。

著作権では守れるか?

 すぐには受け入れ難いことかもしれませんが、商標法の法目的は出所の混同を防ぐことであり、内容物の混同を防ぐことではないのです。「ふんわりクリームパン」という登録商標があったとして、「ふんわりクリームパン」という商標を付してアンパンを販売しても商標権者が販売する分には商標法違反にはなりません。

 では、漫画のタイトルを法律で保護できる方法はあるのでしょうか。答えを先に言うと、有効な方法はありません。これは著作権法でも同じです。著作権法でも、漫画のタイトルは著作物として認めないと言う考えが主流です。

大企業が漫画のタイトルを商標登録する目的

 大企業が漫画のタイトルを商標登録する理由の多くは、関連グッズを無断で販売されないようにするのが実質的な目的で、念の為「書籍」も書いておくと言うだけのことです。いわば、お金に余裕があるから行なっているだけで、法律上の利益があるのかと言われれば、特にないでしょう。

 最後に、なぜ出版社Xは「鬼退治の剣」を指定商品「書籍」で商標登録を受けられたのでしょうか。答えは、日本の商標法が登録主義だからです。登録主義というのは、願書の書面に書かれた出願内容に法律上の不備がなければ「現実がどうであろうと」登録は認めるというやり方です。

日本は登録主義なので効力のない商標登録出願でも書類の書き方さえ間違っていなければ普通に登録されます

 もしかしたら出版社Xが「鬼退治の剣」という商標で出版事業を始めようとしているのかもしれません。下にイメージ図を貼っておきますが、商標登録があるからといって、本当に使えるという保証はありませんし、そこは審査対象でもありません。
 特に初めて商標登録を受けようと思われている場合は、指定商品と商標と名前だけをフォーム入力すれば自動的に出願書類を作成して特許庁長官に提出してくれるだけのサービスは使用されないことをお勧めします。あれはちゃんとした知財部があり、大量の出願案件を処理しないといけない大企業向けのサービスです。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp

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フィラー特許事務所|弁理士・中川真人
2021年に誕生した大阪梅田の新しい特許事務所「フィラー特許事務所」を経営している弁理士です。 弁理士は、知的財産権に関する業務を行うための国家資格者で、一般には特許、実用新案、意匠、商標に関する特許庁との手続きの代理を行う専門家です。