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列島ジオ巡礼(5)川の流れの変遷を伝える「親子の」還流丘陵の話。

PastoralJapan(里山交響詩)は里山や田園の神羅万象に着目し、ローカルな自然の恵みを可視化する作業を目指しています。地球の悠久の営み、とくに変動の多いこの列島の風土のうつりゆきを考え、表現することを通じて、自然の恵みを活かした持続可能な暮らしを考えるためのきっかけづくりにできればと考えています。(論文ではなく、地図や地形をめぐる随想ですので、典拠とするには適していないことをあらかじめご了解ください。)

この記事では京都府綾部市故屋岡(こやおか)町古和木(こわぎ)の小字「岩村」付近で、古和木川が形成した還流丘陵に注目し、複数世代の流路変遷が読み取れることを示します。

この記事は前半の検討部分が無料、後半の現地報告を有料とさせていただきます。

(1)古和木川の還流丘陵

まず現在の古和木川の清流の写真です。

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次に、Googleの衛星写真を示します。

(なお上に示した古和木川の写真は、この衛星写真において「古和木川」と表記された付近の写真です。)

中央に、亀の甲のような楕円形の還流丘陵と旧河道(緑色の植生とその周囲の遊休農地)が存在することが分かります。

(2)もうひとつ存在した小さな還流丘陵

次に、同じ地点を傾斜量図で見てみます。

名称未設定-1

地理院地図(電子国土WEB)による

上で見た大きい方の還流丘陵の南側に、小さな丘陵が判読できました。

この小さな丘陵は地形図の10m等高線には現れていませんが、細かいメッシュのデータをもとにした傾斜量図では、判読できました。

別記事でも触れましたが、地形図の等高線に必ずしも現れない地形があり、空中写真の立体視や衛星写真、傾斜量図などいろいろな手段で検討することで見えてくる場合があります。

(3)複数の世代の流路が読み取れる

この地形から推測される流路変遷の概要を図示します。

古和木01

この古和木川は頭巾山(871m)を筆頭とする山地の水を集めて谷間を流下し、この古和木の集落で、やや開けた空間に出てくるのですが、その「出てくる」ところに位置します。

丘陵(A)と旧河道があり、その南側に低崖(C)があって、いちだん低いところに丘陵(B)が位置します。低崖(C)は丘陵(B)の周囲を川が流れていた頃の攻撃斜面に相当します。

大まかな前後関係としては丘陵(A)の形成後、一段ひくいところに丘陵(B)が形成され、丘陵(A)の時代の旧河道は段丘化し、最後に流路は現河道の位置に移ったと考えられます。図にエッジ(D)と記したところは、現河道と旧河道に挟まれて、薄い壁のようになっています。

ここに記した前後関係は大まかなものであり、丘陵(A)の形成前後の古和木川はエッジ(D)のあたりで南行から北行へと向きを変えていたものと考えますが、さらに詳しい検討は必要かもしれません。

もちろん、河岸段丘などは複数の段階があるのがむしろ当然であり、還流丘陵においても複数の段階があることは不思議でありません。

静岡県の大井川上流、榛原郡川根本町奥泉付近では、現河道から約50m高いところに楕円形の旧河道がありますが、その北側には現河道から約200m高いところに、さらに古い世代の旧河道があり、それぞれに滑らかな形の丘陵が伴っています。

当然、北側の高いところにある旧河道のほうが、古い時代のものと考えられます。

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地理院地図(電子国土WEB)による

少し余談ですが、高いところにある旧河道といえば、奈良県十津川村の有名な果無(はてなし)集落のさらにその上に、S字形の溝のような地形があり、どのような経緯で形成されたのか要検討ですが、もしこれが旧河道なのであれば、本当に高いところにあるなあ、と思います。

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地理院地図(電子国土WEB)による

さて話を元に戻すと、ここで議論している京都府綾部市故屋岡町古和木の還流丘陵は、段丘化した複数の世代の旧河道が読み取れることはもちろんですが、大きな馬蹄形の次に小さな馬蹄形が縮小再生産されるという、いわば相似形の力がはたらくひとつの場のなかで(つまり北寄りに蛇行していた流路がだんだん、南へ遷移し、最終的には蛇行がなくなるまでのプロセスの一環として)、複数世代の旧河道が見いだせることが特徴的と考えます。

(4)現地を訪問してみた

現地を訪問すると、大きいほうの還流丘陵(A)の下に、小さな還流丘陵(B)が民家や田畑のあいだに挟まれて、可愛い感じで鎮座していました。

その写真をふくめ、現地レポート写真とコメントを以下、有料部分とさせていただきます。今後の取材・研究に活用させていただきます。

丘陵(A)とその周囲の旧河道、丘陵(B)、段丘崖(C)、曲流していた当時のエッジ部分(D)などの写真とコメント、合計10枚です。

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