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『オールド・テロリスト』by 村上龍

ある方のレビューを見て、読んでみることにした。
村上龍は、まぁまぁ読んでいる。『愛と幻想のファシズム』とか『半島を出よ』など、近未来社会派小説?というジャンルがあるのかどうかわからないけれど、これらはそんなテーマの小説だった。こういう描き方をさせると村上龍は天才的に上手いと思う。

かつて、金曜日の夜にRyu's Barという番組があり、毎週楽しみに観ていたことがある。色んなゲストがバーに来店して、繰り広げる話は刺激的で面白かった。今はもう、おそらくあんな番組はない。

ところで『オールド・テロリスト』。
図書館で借りて読み始めると、なんか読んだことがあるような気がしてきた。ただ、ストーリーはまったく思い出せない。なんとなく人物構成とかこういう小説を読んだな・・・と思いつつ、最後までネタバレせずに読み終えた。2015年発表の小説だけど、そのまえに3年にわたって連載していたものだそう。福島の原発事故の話が出てくるから、東日本大震災以降に書かれたのだろう。

あらすじは、セキグチという中年ジャーナリストのところに、元上司から取材の依頼が入ったところから始まる。セキグチはかつてはその週刊誌のフリーの記者だった。ただ、ネット全盛で売り上げが上がらず、解雇される。鬱々とした日々を過ごすセキグチに見切りをつけ、外資系証券会社に勤める妻は子供を連れてアメリカへ転勤してしまう。
そんな状況下にきた仕事の依頼。食べるにも事欠くような生活のセキグチが聞かされたのは、NHKの西口玄関でテロがあるというタレコミと、彼を指名で取材依頼が入ったという奇妙な話だった。

イタズラかも知れないが・・・と元上司に言われつつ、知り合いのつてを辿って半信半疑で現場へ向かうと、果たして可燃物を撒くテロに遭遇してしまう。犯行声明を出したのは20代の若者で、いずれも自殺してしまった。
その事件を追ううちに、謎の美女カツラギと出会い、行動を共にするうちに更にテロが起こり、どんどん現状がエスカレートしていく。
若者を動かしている黒幕は誰か?と辿り着いたのは、なんと70代以上の老人達だった。彼らの共通項は、親がみな満州からの引揚者であり、それなりの社会的地位にある、いわゆるエスタブリッシュメントだということ。
目的はいわゆる「世直し」だが、次の狙いは原発であり、使用する武器は第二次世界大戦中のドイツの88ミリ対空砲。彼らの父親達は戦後の引揚時にそれらを日本に持ち帰り、その他の武器と共に保管してきちんと手入れをし、なんと今も使える状態に保っていた。

彼らは犯行内容を包み隠さずセキグチに明らかにし、世に発表するように求める。それに対してセキグチが取った行動は・・・。

ネタバレになるので、これ以上のストーリー紹介はやめておくが、なぜ彼らがセキグチを選んだのか。ジャーナリズムとは何か。情報管理のやり方は。今の日本はどうか・・・。
7~8年前に連載された作品であることを考えると、かなり近未来的であり、ドローンも出てくるし、今となってはある意味ではその通りになりつつあるのかも知れないとゾッとする展開でもある。

極端なことをやって世に知らしめないと、一般人は気づかない。
その手口がテロであることは断じて許されない。このテロリストグループに対して肯定的な気持ちなど持ちえようもないが、最後の最後でそれをひっくり返す村上龍のストーリーテラーとしての手法は見事であるとしか言いようがない。

最後のVサインの意味。あと2基ある。本当だったら怖い。
ただ、この事件のように恐らく一般には知らされず、情報が抹殺されてしまうことがあるのだとしたら、そちらの方が怖い。


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