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書籍「砂の女」

1962年に発行された、安倍公房の「砂の女」を読みました。

日本ではもちろん、海外でもめっちゃ評価高くて、何ヶ国語にも翻訳されてるらしいです。

主人公の男は、海辺の砂丘に昆虫採集にやって来るんですが、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められてしまいます。

その集落はほんまに砂だらけの町で、寝てると体に砂が積もる。

家が砂の重みで壊れるので、雪かきならぬ「砂かき」が毎日毎日必要で、その作業を怠る者には水や食料の配給が来ないという恐ろしいシステム。

男は監禁みたいな形でその作業と暮らしを強制された理不尽に憤って、様々な手段で脱出を試みる物語てす。

主な感想は、
こんなに砂のこと描写できる人おる?
です。

砂が乾いているのか湿っているのか、手触り、温度、硬さと柔らかさ、口に入ってくる不快感。

砂、こわい。

「ザリガニの鳴くところ」を読んだときも思いましたが、
自然の力が圧倒的すぎて、人間はなんとかその中で知恵を絞って生活させてもらってるんですな。

この砂という不思議な鉱物のすがたをとことん描きつつ、この本のテーマは

「生きるって何?」

ということかなと思いました。

産まれたらそのうち死ぬわけで、
死んだら本人は無となるわけで、
そのたかが100年生きたことに何の意味があるのか?

これは誰もが考えたことがあると思うんですが、意味は特にないですよね。

ただここに産まれたので、生きているうちはできるだけ幸せに生きて、死んでいくのがいい。

砂の集落に最初閉じ込められたとき、男はもとの暮らしが特に幸せだったわけではないんですが、元の生活に戻りたいと必死になるわけです。

でも、砂の家の女は、毎日繰り返される砂かきの日常、寝て起きて食べて砂かきするだけの日常に、特に不満はない。

最初は、何で逃げる努力をせーへんねん!
何を無気力に無目的に砂かきしとんねん!

と思って男も読者側の私も腹たつんですが、

そのうち、そもそも死ぬのに、無目的で何が悪いんやろ?

食べて仕事して寝る、それが人生の全てやん?

という気もしてくるんです。

そして最後、単調な砂の集落の生活に慣れてしまった男は、あれだけ渇望した逃げるチャンスを掴んだのに、

今すぐ逃げんでもいいや、と思って、物語は終了。

そこに妙に納得感があって、不気味な気持ちにさせられます。

ぜひご一読あれ。

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