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【セカンドブライド】第27話 マリッジブルーな心との攻防戦

カエルさんプロポーズから、両家への挨拶、両家の顔合わせは呆気ないほどに順調だった。両家ともに「大人同士の決めたことだから、当人同士がそれで良いよ」温かく迎え入れてくれた。ほっとした一方で、私自身の中の戸惑いは、誰に吐きだすことも出来ずに大きくなっていった。

ある休日、母と私で、子供達を山の斜面にたくさんアスレチックがある公園に連れて行った。小学生でも挑戦し甲斐のあるアスレチックに、子供達は夢中になって遊び、「お腹減ったね。」とその公園の近くでランチを食べた。そして、そのままみんなで実家に帰って来て、大人はくつろぎ、子供達は各々に好きなゲームをしたり、実家にあるスケッチブックにお絵描きをしたりしていた。その日はカエルさんは飲み会だったので家には来ない。母が「久しぶりに子供達と一緒に夕ご飯食べて行きなよ。」と言い、その言葉に甘えることにした。

夕飯の準備のために台所に立った母を手伝いながら、勇気を振り絞って母に問いかけた。

「ねえ、お母さん、私やっぱり結婚するの止めちゃおうかな。」

母は息子の好きな大根と手羽元の煮物を作るために、大根を切っていた。私の言葉にほんの少しだけ逡巡した様に見えたが、包丁を持つ手を止めずに言った。

「したくないなら良いんじゃない?止めちゃえば。」
「そか。ありがとう。悩むんだよなー。こういう気持ちをマリッジブルーって言うのかな?もし、私が「やーめた。」って言ったら心配?」
「心配かぁ。そうだね。これからミナミとタカヤが大きくなって、反抗期とかになった時に、はるちゃんが一人で子育てに迷ったら、可哀想かなとは思うよ。」

そして、少しだけ間を開けて続けた。
「今はギリギリでも30代で若いけど、はるちゃんだっていつまでも若くはないから、結婚もいつまでも出来るものでもないしね。」

母の顔にふと不安がよぎった様に見えた。

母は20歳の時に、32歳の父と社内恋愛の末結婚した。厳しい父に叱責され、洗面所でメソメソと泣くことはあっても、父に対して自分の意見を押し通す様な姿はほとんど見たことが無かった。それは、歳の差があるせいかも知れなかったし、元々の性格のせいかも知れなかった。家族のために生きることを良しとし、おっちょこちょいなところはあるが、いわゆる良妻賢母で「昭和の母」だった。

母なりの価値観で私の幸せを祈ってくれているのを感じた。心配をかけるのは嫌だった。そして、母は、私がこの結婚で幸せになれると信じ、結婚した方が良いと思っているのだな、と思った。

だから、この話を続けると母が不安に思うかも知れないと思った。私の一時的な気の迷いで、母の心配を喚起してしまうのは嫌だった。

「うん。そうだね。」と答え、目の前のレタスを手に取って聞いた。
「レタス、洗えばいい?」
「うん。お願い。マリネにするから一玉使っちゃおう。」と母が答えた。

今までたくさん迷惑をかけて来た。このまま結婚することが、両親にとっても安心に繋がるのかも知れないと思った。

お見合いでも何でもなく自由恋愛の末の結婚なのだ。
それなのに、「止めたい」と思うのは、私の心がわがままなのかもしれないと思ったら苦しかった。




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