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【セカンドブライド】第29話 カエルさんとの入籍

呆然としばらく床に座り込んでいた。でも、しばらくすると、玄関のドアが閉まる音を聞こえてこないことが気になった。カエルさんが出て行ったなら鍵をかけないといけないし、出て行ってないならそこに放置しておくのも心が引ける。

そっとリビングのドアを開けると、暗い玄関に座り込んでいるカエルさんの背中が見えた。

出て行って無かったんだ、と思った。

後ろから彼に近寄り、電気をつけて、彼の後ろで膝立ちになった。

カエルさんが振り返って私の腕に手をかけ、そして吐きだす様な涙声で言った。
「ぱるちゃん、オレ一人になっちゃう、一人になっちゃうよ。」

下を向いていて、カエルさんの表情は見えなかった。でも、私の腕を掴む、その手が震えていた。

心がキュっとなった。この人なりに一生懸命に私たちのことを考えて、ここまで寄り添って来てくれたのだろう。少しのほんの少しのすれ違いで大事になってしまったと感じているのかも知れない。

今、「帰って」と言うことも出来る。
そうしたら、全部を白紙に戻せると思った。

でも、怯えているこの人を見捨てることは、餓死しそうな人を見捨て、その人が亡くなってしまうのと同じくらい自責の念を感じそうだった。

私は迷っていた。
しばらく無言のままでいた。カエルさんも無言だった。

沈黙の間もずっと考え続けていた。
両親のこと、子供達のこと、最近のマリッジブルーのこと、今日のこと。
どうして良いか分からなかったが、心が痛いのは確かだった。

そして、言った。
「分かったよ。一人にしないよ。大丈夫。」

カエルさんが顔を上げ、小さな目を見開いて言った。
「本当?結婚してくれるの?」

私は、自分から離れる人に泣きすがることは出来ない質だし、泣きすがられたことも無かった。だから、この状況に戸惑ったまま答えた。

「うん。でも、この街に住む。S町には行かない。」

カエルさんの表情が目に見えて、生き生きとしたものに変わった。
「うん!いいよ。この街に家を買おう!」

カエルさんの切り替えの早さは見習いたいほどに早かった。それはそれで平和で良いのかも知れないが、このままではこの人に私の迷う気持ちは届いていないと思った。

だから、本音をぶつけてみた。

「正直言って、今、私は一生あなたを好きでいられる自信は無い。それでもいいの?」
「大丈夫!オレの魅力でぱるちゃんがずっと好きでいてくれる様に頑張る!」

「それに、もし明日、結婚したら、二度と離婚はしない。私はバツ2の人生は嫌なの。どんなに私に非がある状況でも、離婚はしない。その選択肢は無し。離婚以外の解決方法を二人で見つけられる?」
「離婚しないなんて…本望だよ!」

「分かった。じゃあいいよ。」
「ありがとう!ぱるちゃん、オレ、一生幸せにするね!本当にありがとう。」

そして次の日に、婚姻届を提出した。薄いピンクに可愛いハートと花柄が描かれた婚姻届だった。

こうして、私たちは夫婦になった。

役場の方が「おめでとうございます。」と言うのを聴き、
もう、後ろは振り返らない。前進あるのみだと決めた。

カエルさんが「お祝いだ!」と言い、2人でカエルさんが好きなうな重を食べに行った。そしてその足で、カエルさんが好きなシルバー細工の工房で結婚指輪を、私の好きなジュエリーブランドで婚約指輪を注文した。


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