ちかごろ、気にしている一作
部屋から発掘して出てきた。
大学生になって上京した根岸くんはポップミュージシャンになって、デビューしようと希望を抱くも、
デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」のギターボーカル「ヨハネ=クラウザー二世」となって、エログロバイオレンスあふれる歌詞を叫び、カリスマとなってメジャーになっていく。
カヒミ・カリィに憧れながらも、路上ライブでは東京タワーを○イプし、ギャラリーをわかせたクラウザーさん。後に東京タワーは先代のクラウザーさんからも同じ目に会うという不憫な建築物。
ジャンプラ連載中の青春ロックバンドストーリー。
部活動レクレーションでたった1人のロック研究会が見せたのは音量がでかくて、歌詞も聞き取れないようなパフォーマンスだった。
生徒大勢があっけにとられたが、たった1人だけ心に突き刺さった。
真神たかしは高校デビューで髪を染めて、モテたいと願っていた。部活動紹介で見せた壇上の上級生はそれとは正反対に根暗で普段は声も小さく、背中を丸めて歩いていた男なのに、曲が始まると我が身をさらけ出す勢いで弾けんばかりに歌った。
ロック研究会の部室を訪ねた真神に風体の上がらない上級生は「ナンバガすきなの?」と聞いてくるが、真神はロックバンドをまるで知らないでいると「義務教育だ」と言い放つ。語りだすと止まらない上級生に思わずキモいですねと言ってしまった真神。
「ロックなんかやってるやつ、キモいに決まっているだろ!!」
入部届を手にして悩む真神に、級友たちはロック研究会のパフォーマンスを見て、キモいと軽薄に喋っていた。真神の中にイラつきが生まれた。
ロック研究会の部室でたった1人の上級生が静かにギターを担ぐとドアから真神が飛び込んできた。
「ナンバガ かっこいいですね!!」
自分がいいと思うことを続けていくには勇気が必要になる。世間の嘲笑を恥ずかしいと思って、身を引けば楽になる。
周りと歩調を合わせていれば、傷つかずに済むけれど、心の中でくすぶるものがあるものだ。
自分の中にある自分だけの文化というものがあって、それが未熟であったり、世間との価値観が沿わないとそれはくだらないものだと烙印を押されてしまう気分になる。
でも、誰も烙印を押してもいないし、そういう気持ちになったのは本人だけなのだ。
ロックの本質を調べると反逆、反骨、セックス等々、概ね世間体や常識に向かって反発する姿勢にあるようだ。
思春期を過ぎる辺りから、親にも学校にも逆らおうとする気持ちが芽生えてくる。
そして、身近な級友にも価値観にずれを感じてくると何かがわだかまってくるのだ。
学生時代に級友に竹内まりやを聞いていたら、「似合わねえ」と言われたことがある。そのことで、聞くのをやめたわけではなかったけれど、こういう流れで聞くのをやめてしまった人もいるんだろう。
自分もオタクだと言われて、散々からかわれていた過去がある。それでも、周りを気にして、手放さないでいられたのは良かったと思う。
好きなことを好きでいつづけることも、それを表現していくことも、痛い目にあうことがあるだろうけれど、それでなきゃ満たされないものがある。
そして、それを本当に理解してくれる仲間がいたらもっといい。
自分もいい歳で学生時代の感覚は殆ど忘れてしまったのだけれど、この作品は学生時代だった頃のナニカに響いてくる。
歩けば傷つくような尖りものばかりの道を進むのだろうけれど、気持ちの羅針盤を見逃さずに走り抜いてほしいと願うばかり。
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