星野博区議の発言について⑤:回答の問題点

直前の投稿では、
星野博区議と江東区議会自民党からの回答を全文掲載しました。
残念ながら両者について一言で言えば、
同区議の回答は、誤解及び曲解に満ちており、
それゆえに印象操作的な効果をもたらすものです。
また、同会派の回答は、実質的な回答と見なすことができません

この投稿では、両回答の問題点を指摘することで、
なぜ上記のように評さざるをえないのかをご説明します。
(長くなっちゃった😭ので、目次を使ったり
太字にした部分を拾ったりしながら読んでもらえると嬉しいです!
また、星野区議の回答にはまたしても差別的なところがあって、
私たちもそれを指摘するのにちょっと強い表現を使ってるかもなので、
気分の良いときに少しずつ読んでもらえたらいいかなと思います)

星野区議の回答について

1・パートナーシップ制度を少子化助長の因とした根拠

同性パートナー関係には生物学的な妊娠・出産がありませんので、 出生率にとってマイナス要因である事は否定できません、従って少子化の懸念があると考えます。

同性パートナーであっても、子どもを産み育てている人がたくさんいる
ということは、質問状で示したとおりです。
したがって、同区議の見立てははなから成立していません

ただ、かりに同区議の主張を認めてみたところで、
その論理構成には大きな瑕疵があります。
まず、同区議の主張は、
パートナーシップ制度と同性パートナー関係混同しています。
パートナーシップ制度によって同性パートナー自体が増えるとは
必ずしも言えない以上、
パートナーシップ制度が出生率に影響すると言うことはできません。

また、上記の主張は同区議の元々の発言自体とも矛盾しています。
というのも、同区議は2017年度の東京都港区の調査をもとに、
パートナーシップ制度が制定されてもそれを利用したいと思わない方が多いということを指摘していました。
ただ、そもそもの常識というか定義として、
性的マイノリティの数はマジョリティより少ないです。
(実際、性的マイノリティの人口について、比較的信頼度の高い「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」を見れば、「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・アセクシュアル(LGBTA)のいずれかに該当」したのはおよそ3%です。)
だとすれば、同区議は
全人口の数パーセントの人々のうちの、さらに少ない人々のせいで
人口全体の少子化が進むと主張
していることになります。
言うまでもなく少子化は社会全体の問題であるにもかかわらず、
マイノリティにその責任を負わせているのです。
それゆえ、同区議の主張は自己矛盾であるか、さもなくば極端な差別扇動です。

2・恣意的な解釈について

港区の1017年度【原文ママ】調査結果を示し行政側が、それをどのようにとらえるのか、また、江東区の調査で感じた事を行政側に質問しました。そのことに問題がありますか?

「感じた事を行政側に質問」するだけなら、誰も問題視などしません。
先に示したとおり、問題があるのは、星野区議が
「[行政による調査という]本来価値中立的なデータを利用しつつも、
社会制度の必要性に関する認識の不足や議論の前提の曲解により、
過剰に法的対応を厭う結論を導こうとして
」いることです。

この回答は、私たちの示した懸念にまったく触れることなく、
区議が発言すること自体を私たちがあたかも問題視しているかのように見なすという点で、極めて印象操作的です。

3・制度の悪用について

新たな制度ができれば、一般的に制度の悪用の可能性があります、パートナーシップ制度悪用の可能性も同様であります。それにどのように行政は対応するのかの質問ですが、それのどこが差別でしょうか?

制度の一般的な悪用可能性を私たちはそもそも否定していません
それどころか、異性間の結婚のような既存の制度も含めて、
便益のあるすべての制度は悪用されるおそれがあります。

私たちが差別的と見なすのは、質問状にあるとおり、
マイノリティの権利保障を目的とした政策のみを標的として
殊更に悪用の可能性を指摘すること
」です。
異性間の結婚の悪用可能性(というか現実に悪用されていますが)を無視して、同性間の類似した制度についてのみ悪用可能性を指摘することは、
不当な取り扱いであり、その限りで差別です」。

星野区議はまたしても、私たちの質問内容を誤解・曲解することにより
自説を正当化しようとしています。

4・夫婦別姓について

個々の考え方はあるのでしょうが、法的規定は守らなければなりません。私は立憲主義ですので、反対するしかありません。


私たちが質問したのは、星野区議が夫婦同姓を規定する現行制度について
「別にこれは強制でも何でもない」と述べたことについてです。
区議の回答はこの点について明確にしていませんが、
「法的規定は守らなければなりません」と述べていらっしゃるとおり、
やはり夫婦同姓は「規定」であり、それゆえ「強制」である
ということになると思います。
結果として、
星野区議が内心では現行制度を強制だと認めつつ
それを「強制でも何でもない」とうそぶいていること、
その不誠実さが図らずも明らかになりました。

ちなみに「立憲主義」なので夫婦別姓に反対というのは、
はっきり言って理屈が通じません
というか、もし星野区議の言うように、
「法的規定」を変えないことそれ自体が「立憲主義」なのだとしたら、
憲法改正を党是としている国政与党の自由民主党は、
立憲主義を毀損している
ことになってしまいそうです!
自民党の人こそ、星野区議の発言に怒るべきかもしれませんね。

5・第七次江東区男女共同参画行動計画での数値について

「共産党の国家北朝鮮」とは、そもそもなにかの質問です。趣旨がよくわかりませんが、共産党独裁国家北朝鮮のことです。男女平等は我が国では憲法に規定されています、多くの有能な女性が活躍し国家を支えている日本国です。江東区議会でも多くの有能な女性議員が大活躍しておりますがご存知でしょうか?どのような設定のアンケートか分かりませんが、「男女が平等だと思う区民の割合」14.4%は私には信じられない数字であります

私たちの質問は
「『共産党の国家北朝鮮』とは、そもそもなにかの質問」ではありません
念のため再掲しますと、
「『男女が平等だと思う区民の割合』が14.4%と
記されていることについて」、
星野区議が「『共産党の国家の北朝鮮なんかよりももっと、
この数値を見るとひでえなあ』と述べ」ているのを受け、
「『共産党の国家の北朝鮮』とはそもそも何であるのか不明ですが、
それと比べて何がどのような意味で『ひでえ』のか明確にお答えください
と質問しています。
結局、「何がどのような意味で『ひでえ』」と思われたのかは
明らかにされていません

また、私たちは「いやしくも江東区役所の一部門が調査主体となって行ったアンケートのデータについて、数字自体の正当性、ひいては江東区民の見解自体を疑う明確な根拠はありますか」ともお聞きしましたが、
星野区議は「私には信じられない」と繰り返すだけです。
それどころか、
「どのような設定のアンケートか分かりませんが」と
ご自身で明言されているように、
どういった設定のアンケートであるかすら知らずに、
軽はずみな発言を区議会でなさっていた
ことが判明しました。

結局、何をおっしゃりたいのかわかりませんでしたが、
男女平等が達成されていないと思う江東区民の存在(85.6%!)を
星野区議が根拠なく否定
していること
だけが明らかになってしまいました。
お節介ではありますが、本当にこれでよろしいのでしょうか。

「余談」??

余談ですが私は女性崇拝者であります、常図【原文ママ】「男性よりも女性のほうが偉いと考えております。なぜ?皆母親から生まれ、そだてられました。共産党国家の独裁者でも自分が母親より偉いと主張すれば馬鹿者です。その意味では皆様方からみれば問題者【原文ママ】かもしれません

「余談」とされているこの箇所は、
正直いまいち意味がわかりませんでした。
もちろん、いわゆる”I have black friends”論法(黒人差別を糾弾された人が、自分には黒人の友人がいると言うことで、自己正当化を試みること)の亜種
だと思いますが、それだけではないように見えたからです。
というのも、星野議員が夫婦同姓について
「別にこれは強制でも何でもない」と意見を述べたのは、
実は、女性議員がこの制度の下で通称を使いながら生活することの
困難について述べた直後
のことでした。
また、星野議員が男女不平等を憂う江東区民の存在を
無根拠に否定
しているのはすでに見た通りです。
だとすれば、星野議員は
男女不平等の社会で実際に苦しむ女性については無視した上で、
出産と育児をする都合の良い存在としてのみ
女性をもてはやしている
ようです。
これが「女性崇拝者」の内実でしょうか。
だとしたら、お言葉ですが、「女性崇拝者」がいなくなれば
性差別のない社会に少しは近づくのかもしれません。

ちなみに私たちは星野区議が「問題者」(?)かどうかは
問うていませんでした。
私たちが気にしているのは、特定の議員の属性ではないからです。
私たちが懸念しているのは、
いやしくも権威ある議員ともあろうものが
無根拠に差別的な発言をすること
と、その社会的効果
すなわちその発言によって区内の性的マイノリティや女性の命と暮らしが
脅かされること
です。
今回の質問状は、
無根拠な差別発言を撤回し、
公正な議論の場を築く場を与えるという点では、
星野区議にとってのチャンスでもありましたが、
どうやら同区議はそのチャンスをみすみす手放すことにしたようです。

江東区議会自民党への応答

不可解な点の多い星野区議の回答に比べると、
もしかすると江東区議会自民党からの回答は
まともに見えてしまうかもしれません。
しかしながら、同会派の回答はほとんど回答として成立していません

そもそも質問に答えているか、そして趣旨採択とは…?

まず、同会派の回答はそもそも私たちの疑問にほとんど答えていません
繰り返しになりますが、私たちは
・発言内容を事前に把握していたか
・党として発言をどう評価しているか
・趣旨採択という党の立場との整合性及び今後の姿勢
・これまで党として性的マイノリティに関する研修等を受けてきたか
・同会派の見解と旧統一教会の見解及び同会派と当該団体との関係について
の五点について質問いたしました。
これらの点は一言で言えば、
過去にパートナーシップ制度の創設を求める陳情を趣旨採択とした
江東区議会自民党会派の見解と真摯さを、
同会派所属議員
(=星野氏)の発言との整合性という観点から
尋ねるもの
でした。
けれど、これらほぼすべての点について回答はありませんでした。
代わりに書かれていたのは、
国政与党自民党の性的マイノリティ施策についてであり、
これでは回答と呼ぶことはできません。
(というか、実は回答のタイトルも
「パートナーシップについての江東区議会自民党の考え」ですので、
自説を開陳したかっただけなのかもしれません…
正直、質問への回答を期待していた側からすると、
「自民党の宣伝をしてもらうために聞いたんじゃないんだよな」
と思ってしまいます。)
なお、パートナーシップ制度創設を求める陳情をめぐる
区議会の過去の動きについては、
私たちが作成したタイムライン↓(少し古いですが)をご参照ください)

「個人的な見解」?

江東区議会自民党が唯一辛うじて質問に答えていると思われるのは、
星野区議の少子化発言についてのくだりです。
同会派は
同性カップルが少子化の進行につながる、
というのは非常に個人的な見解

と述べています。
同性パートナーシップの導入も、同性カップルの存在自体も、
少子化に必ずしもつながるわけではないと認める点で、
私たちはこの記述をある程度評価します。

しかしながら、この記述すら問題含みです。

まず、確かに議会での一般質問は、
議員個人が個人の経験や見識に基づいて行うものである一方で、
議会の場は公的な言論空間であり、
そこでの質問は公的な性格を帯びるのですから、
「非常に個人的な見解」が披瀝されてよいものではありません

また、問題となっていた星野区議の発言には、
パートナーシップ制度により保険金殺人のような犯罪が増加する
という主旨のものもありましたが、
これについては全く触れられていません。
犯罪増加説は、自民党にとって「非常に個人的」ではない、
許容されるべき言説なのでしょうか。

加えて私たちは、星野区議の発言が
「差別にあたるとお考えになるか否か明言した上で、
理由もあわせてご教示ください」
と問うたのですが、これについても明言はいただけませんでした。
結局、同会派は、
差別的かつ「非常に個人的」である星野議員の発言について
立場を明らかにしていません
「性的指向・性自認に関する不当な差別や偏見はあってはならない」
という、それ自体はごもっともな発言も回答にはありましたが、
同会派議員による「差別や偏見」を正すことなしにそう述べられるなら、
単なるアリバイ工作になってしまいます。
ここでも、実は私たちは、
同会派が星野区議発言と距離を取るためのチャンスを与えていたのですが、
江東区議会自民党はそのチャンスを棒に振っています。

なお、これは回答の本筋に関わることではありませんが、
自民党会派からの回答は、日付や作成者が示されておらず、
受け取る側としては怪訝に思いました。
一体、この回答はいつ作られたのか。
また、この回答は一人が作ったのか、それとも会派の総意なのか、
会派の総意だとすれば、星野区議はどのように関わったのか。
こういった点が全く明らかでない文書は、
本来「回答」として扱う必要がありませんが、
私たちは区議会議員に対する最低限の敬意を有しているので、
そのまま転載いたしました。
ただ、私たちが持つのと同じ程度の敬意を
江東区議会自民党には示していただきたかったのですが、
同会派の回答内容とその形式から判断するに、
それすらも惜しんでおられるようで、大変遺憾に思います。
同会派が性的マイノリティの存在を軽視していることの表れ
かもしれませんね。

最後に:むしろここだけでも読んで!


現在この件に関し、これ以上の追及は予定しておりません。
差別的発言を撤回させるというのは重要なことですが、
はっきり言ってマイナスをゼロに戻す作業です
(しかも覆水盆に返らずなので、戻り切りません)。
私たちはむしろ、
性的マイノリティへの差別をどうやって解消し、
マイノリティを含むすべての人の人権と生活がどのように保障されるか、
江東区と関わりのあるみなさん
(区民以外ももちろん歓迎!ってことです)
と一緒に考えていきたいです。

そのような学び合いの機会の一つが、先日宣伝した上映会です。

改めて紹介すると、上映予定の『最も危険な年』は、
合衆国の一つの町でトランスジェンダーの権利を制限する法制化が進んでいく中で、トランスジェンダーの子を持つ家族グループが声をあげ、具体的な対抗運動を展開していく様子を描くドキュメンタリーです。

私たちは以前からこの映画が重要だと思っていましたが、
今回の星野区議による問題発言を受け、その重要性を再認識しました。
まず、同区議が敵視するパートナーシップ制度というのは、
レズビアンやゲイ、バイセクシュアルが使うのはもちろんのこと、
トランスジェンダーも使うことのできる制度です。
それゆえ、
パートナーシップ制度の自治体レベルでのスムーズな導入を求めることは、
その自治体でのトランスジェンダーの権利保障にとっても重要です。

また、映画は
トランスをターゲットとした差別的条例への反対をめぐるものですが、
このような標的化はいつも、
トランスの人々を悪魔化する
ことで進められます。
悪魔化の一例には、
〈トランスジェンダーの権利を保障する法律や条例、施策により、
女装した男性がトイレで盗撮をする事件が増える〉といった、
一見すると単に制度の悪用を懸念しているだけなのだけれども、
トランスを潜在的な犯罪者グループと同一視する
デマがあります。

制度の悪用で犯罪が増える!?
どこかで見た光景ですね(←白々しい)
パートナーシップ制度の悪用を殊更に騒ぎ立てる人々が
トランスジェンダーをはじめとした
様々なマイノリティも悪魔化していくことは、
容易に想像できることです。
私たちは差別のレトリックの実際の用いられ方を考えるためにも、
みなさんと一緒に『最も危険な年』を観たいと思っています。

最後に、この映画が地元ベースの活動を描いていることもやはり重要です。
差別は国の中央政府が温存するものでもありますが、
地方の動きによって政府による差別が深刻化することもあります。
でも、逆に地元での反差別の動きをつなげることで、
少しずつ事態が好転することもあるでしょう。
私たちはその稀な望みを諦めませんし、
それどころか、
遠い地域の出来事と自分たちの置かれた状況とを比較することで、
地方レベルでの反差別運動と生活保障を求める運動について
学びを深めるつもりです。
また、そのような学びの中で、
実際に少しでも、私たちの生きる街をより良い方向に
動かしていきたいです。

星野区議の発言について、ちょっとでも違和感を覚えた人は、
ぜひ上映会に足を運んでみてください。
江東区在住の方はもちろん、すべての方に開かれたイベントです。
ぜひそれぞれの場所で、それぞれの課題を見据えながら
それでも一緒にトランスジェンダーを始めとした性的マイノリティの
生活保障と人権擁護を考えましょう
ていうか、普通にみんなで映画観てわちゃわちゃしたいです(笑)

*このシリーズの他の投稿は以下の通りです。


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