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光害関連ニュースまとめ 2024年6月

2024年6月の光害関連ニュースです。私はGoogle Alertに「光害」「衛星コンステレーション」といった単語を登録してニュースを拾っているのですが、今月は「光害」でヒットする記事がひとつしかありませんでした。正確に言うと「光害カットフィルター」のようなカメラ用品のニュースはあったのですが、ここでは関係ないので除いています。一方、衛星コンステレーションのほうは今月もいくつもありました。


地上の光害に関するニュース

明かり消し星空眺めて パネル展や観望会も

2024年6月30日に日刊県民福井webに掲載された記事。星空保護区に認定された南六呂師地区を擁する福井県大野市で、ライトダウンキャンペーンが行われるそうです。統一実施日は7月1日、7日、31日の3日間。大野市のウェブサイトにはより詳細な情報が掲載されています。協力事業者の一覧も載っていて、記事には72の団体・企業が協力とあります。夜に照明をつけることは日常の一部であるので、これを機に夜の明かりについて意識を持ってもらって、無駄な光を減らしていくステップになるといいですね。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

スターリンク衛星、次世代機の軌道は高度350 kmに。

https://www.pcmag.com/news/elon-musk-next-gen-starlink-satellites-will-orbit-closer-to-earth

2024年6月11日に掲載された記事。イーロン・マスク氏率いるSpaceXの衛星コンステレーション「スターリンク」。すでに6000機を超える衛星からなる史上最大の衛星コンステレーションになっています。この衛星たち、多くは高度550 kmの軌道を回っています。ところがこのニュースによると、今後は高度350 kmの軌道にするんだとか。地上から近くなることで通信にかかる時間が短くなりますし、代替わりのための廃棄(大気圏への投棄)もやりやすくなります。アメリカでは人工衛星の打ち上げは連邦通信委員会(FCC)の認可を得る必要がありますが、FCCとしては高度400 km付近の国際宇宙ステーションに影響が出ないか、また天文学への影響が深刻にならないか、という危惧を持っていて、SpaceXに情報提供を求めています。

軌道高度350 kmのスターリンクはどれくらい明るく見えるのか

2024年6月24日にプレプリントサーバarXivに投稿された論考。上記のようにスターリンク衛星の軌道高度が550 kmから350 kmへと下がると、地表に近くなるので当然明るくなります。一方で、軌道が高ければ夜遅くまで衛星に太陽光が当たってしまうので、明るく見える時間を限定するという意味では軌道が低い方に利点があります。
天文薄明の時間帯でのスターリンク衛星の明るさを見積もったところ、7等級より明るく見えるものが平均263機、6等級より明るくなるのが平均168機とのこと。高度550 kmの場合はこれがそれぞれ240機、126機とのことで、やはり高度が下がるほど明るくなるという傾向は出ていそうです。一方で、日没からより時間が経過したタイミング(太陽の地平高度マイナス24度)では、7等級より明るい衛星の数は軌道高度550 kmと350 kmで同数(144機)、6等より明るい衛星は高度550 kmで85機に対して高度350 kmでは39機。天文薄明時とは逆に、夜遅い時間帯では軌道高度を下げるほど明るい衛星の数が減っています。これは重要な結果ですね。

なおこの論考は論文誌の査読は受けていませんが、国際天文学連合で衛星コンステレーションと天文学の関係を検討している組織CPSによる確認を経ているとのことです。

衛星コンステレーションがオゾン層の回復を阻害するかも

2024年6月12日に発表されたアメリカ地球物理学連合のプレスリリース。人工衛星の大気圏再突入で放出される酸化アルミニウムが、触媒となって大気中のオゾンを壊すかもしれないという記事です。天文学に直接関係しないのですが、興味深いのでここでご紹介します。
スターリンクなどの低軌道衛星の寿命は10年に満たないものもあり、大規模衛星コンステレーションは短いサイクルで衛星を入れ替えていくことになります。低軌道衛星は最終的には大気圏に突入して燃え尽きるわけですが、衛星コンステレーションの隆盛はすなわち急激な衛星数の増加、そして大気圏に突入する衛星数も今後急増していくことになります。大気中のアルミニウム粒子が環境に影響を与えるのではないか、という危惧は少し前から耳にしていましたが、南カリフォルニア大学の研究者たちの研究成果が今回発表となりました。京都大学や住友林業が開発を進めている木造衛星など、何らかの対策を真剣に考えなくてはいけないタイミングですね。

インターステラテクノロジズ、フォーメーションフライトによる高速衛星通信に関して総務省の受託研究を推進

2024年6月21日に発表された、インターステラテクノロジズのプレスリリース。インターステラテクノロジズは堀江貴文氏が創設した宇宙ベンチャー企業で、北海道・大樹町からのロケットの打ち上げを目指していますが、今回の発表はピンポン玉サイズの超々小型衛星を数千個打ち上げ、編隊飛行させることで全体をひとつの通信衛星のように使うことを目指すもののようです。ひとつひとつは小さいとはいえ、数が多いと反射光や掩蔽(星の光を隠すこと)が天文観測に影響を与えないか気になるところです。すぐ実用化される技術ではないと思いますが、どこかできちんと検証してみなくてはいけないと考えています。

電波天文学の観測環境に関するニュース

ドコモら、空飛ぶ基地局「HAPS」で直径100キロをエリア化 26年商用化を目指すも、実現には課題も

2024年6月4日にITmediaに掲載された記事。成層圏(高度20km)に航空機を飛ばし、これを無線基地局として使うのがHAPS(High Altitude Platform Station)です。日本ではソフトバンクがHAPSに力を入れていて、HAPSモバイルという子会社も持っていました(今はソフトバンク本体に吸収)。今回のニュースは、NTTドコモ、NTTとスカパーJSATの合弁会社Space Compassが、HAPSの機体開発と運行についてエアバスの子会社と協力するというもの。HAPSを携帯基地局にするという構想もあり、地震などの被災地でも迅速に通信環境を提供できるというメリットがあります。
空から電波が降ってくることになるので、電波天文としてはその動向に注視しています。昨年開催された世界無線通信会議では、HAPSに携帯電話用の周波数の一部を割り当てることが決まりましたが、そこでも電波天文への影響は考慮していただいています。災害にも強い通信環境と電波天文の両立のための議論は、今後も続いていきます。

スマホ、基地局使わず衛星通信 被災地での利用へ法整備

2024年6月24日に日経新聞に掲載された記事。スターリンクなどの衛星コンステレーションは今は専用の受信設備が必要ですが、これを一般的なスマホでも使えるようにしようという取り組みが行われています。スターリンクだけでなく楽天モバイルと提携しているAST SpaceMobileもそれぞれに実験を進めていますし、電波法令の面での整備も進められています。
これまでもイリジウムやインマルサットなど通信衛星を利用した衛星携帯電話サービスはありましたが、これは衛星携帯電話専用の周波数を使っていて、普通のスマホとは周波数が違います。つまりスターリンクとスマホが(制度面で問題なく)通信するためには、スマホが使う周波数を衛星通信でも使えるように制度変更する必要があるわけですね。もちろん、衛星通信と普通の携帯電話通信が混信してはいけないので、技術的な検討をしっかり行って混信しないことを確認する、あるいは混信しないような何らかの規制を作る必要があります。
この件は、総務相の諮問機関である情報通信審議会の衛星通信システム委員会作業班で議論が進められています。名簿も公開されていて、NTTやKDDI、アマゾンカイパーやスターリンクジャパンの方に交じって、私も作業班の構成員になっています。電波天文に割り当てのある周波数帯と重なる周波数帯は今回は議論になっていませんが、議論の様子は注視しているところです。なお、記事ではこの秋にも新しい制度ができるということになっていますが、今年3月に開催された作業班資料では「令和6年7月頃 一部答申」とあるだけで技術的な検討は終わっていないので、確定しているわけではありません。

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