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光害関連ニュースまとめ 2023年3月

2023年3月の光害関連ニュースです。今月もたくさんありましたね。

地上の光害に関するニュース

人工衛星多すぎ「星が見えない!!」

2023年3月2日に毎日小学生新聞に掲載されました。2月7日に毎日新聞に掲載された記事「宇宙のかなたの画像に無数の光跡 天文学者を悩ます「人工星座」」の子ども版です。図版も子ども向けにわかりやすく変更されています。

パナソニック、まぶしさ抑えつつ広範囲照らす屋外照明

2023年3月7日にインプレスの家電Watchに掲載。パナソニックは岡山県井原市美星町に納入された光害軽減防犯灯も作っていますが、今回は敷地内歩道などを照らすポールタイプの照明です。完全に上方への光が出ない設計ではありませんが、「夜間のまぶしさを抑えた落ち着いた空間を求める」施設への納入を想定しているようです。光害光害とうるさく言わずとも、こうした上品な照明が高い価値を持つという認識が広がって、多くのところで使われるようになることを期待しています。

夜空を取り戻せ 「光害」を考える展覧会をスミソニアン博物館が開催

2023年3月18日、Forbes日本版に掲載。スミソニアン博物館といえば世界の博物館ファンのあこがれなんじゃないかと思いますが、そんなところで光害をテーマにした展示「Lights Out: Recovering Our Night Sky」が行われるそうです。ウェブサイトでは、光害低減に向けた取り組み方渡りの最中に光の影響を受けてしまった鳥たちの標本、星空を題材にした先住民のアート作品などがあると紹介されています。Forbesの記事では2025年12月までと書かれてありますが、公式ウェブサイトでは2025年4月までとなっています。いずれにしてもまだ余裕があるので、機会があれば見てみたいものです。
北海道新聞によれば、アイヌの星空についても映像の中で触れられているようです。

光と宇宙空間の汚染によって危機に直面する暗い夜空

2023年3月21日にnatureasia.comに掲載された記事です。科学誌Natureの姉妹紙であるNature Astronomy誌に掲載された光害に関する3つの文章を紹介しています。地上の光による影響増え続ける人工衛星からの影響夜空の明るさのシミュレーション手法などに関する文献があります。それぞれはまた改めてご紹介できればと思います。


UFOを呼ぶサーチライト! 福島・飯野、千貫森展望台に3基

2023年3月23日、福島民友新聞ウェブサイトに掲載の記事。うーん。
「「UFOの里飯野」から年間を通じて夜空に光をともす」のだそうです。「点灯時間は日没後~約1時間30分」という時間制限は設けられていますが、個人的には支持しません。なんというか、かっこ悪い。

なお、環境省の光害対策ガイドラインには、サーチライトについて以下のような文言があります。

サーチライトは特定の対象物を照らす以外の目的で使用すべきでない。特に夜空に向けたサーチライトの使用は夜空の明るさへの影響が大きく、避けるべきである。

環境省光害対策ガイドライン(令和3年3月改訂版)

サーチライトは単に星空を見るのに邪魔というだけではなく、鳥や昆虫などの生き物にも影響があるかもしれません。ガイドラインの中で例示されているように、サーチライトを制限する条例を持っている自治体もあります。福島県環境基本条例福島県生活環境の保全等に関する条例、福島市の条例を見てみても光に関する言及はないようです。

星空保護の意識高める シンポジウム 大野市民ら光害学ぶ

2023年3月27日、中日新聞ウェブサイトに掲載。星空保護区認定を目指す福井県大野市での「星空保護区シンポジウム」の様子を報じています。このシンポジウムはYouTubeの録画もあります(下の埋め込み映像)。動画内26:00ごろから始まる国際ダークスカイ協会東京支部の越智信彰代表による講演は、光害の全体像を掴むのにとても良いコンパクトなまとめになっています。その他、星空公団や福井工業大学による夜空の明るさ測定、地元の皆さんによる様々な活動の紹介もありました。大野市の星空保護区申請は4月中を目指しているとのことです。

星空保護区認定を目指す福井県大野市に光害に配慮した照明約300台を導入

2023年3月31日公開のパナソニックのプレスリリース。大野市の南六呂師区に光害対応の照明を導入し、地元の方向けの点灯式も実施したそうです。星空保護区申請に向けて、着実に準備が進んでいそうですね。

光害と関係した衛星コンステレーションに関するニュース

ハッブル宇宙望遠鏡の写真にも写りこむ人工衛星

2023年3月2日、ニューヨークタイムスに掲載された記事です。同日に天文学専門誌Nature Astronomyに出版された論文"The impact of satellite trails on Hubble Space Telescope observations"を受けた内容で、ハッブル宇宙望遠鏡の撮影した画像にも人工衛星が写りこんでいて、今後さらに影響は拡大する可能性があるとのこと。これについては先日このnoteでも記事を書きましたので、詳しくは以下をご参照ください。

中国、衛星1万3000基打ち上げ計画──スターリンク対抗で宇宙空間の「場所取り合戦」に

2023年3月8日にニューズウィーク日本版に掲載。衛星コンステレーションと言えばスペースXのスターリンクやOneWebなど欧米陣営が先行していますが、中国も大規模な計画を持っています。"GW (GuoWang)"と呼ばれるこの計画では、当面は13000機、最終的には4万機の人工衛星を上げるということで、スターリンクと同規模になります。スターリンクがウクライナでも使われていて、国家安全保障を前面に出した"Starshield"という政府機関向けサービスも展開している状況で、中国としては安全保障の観点もあるのでしょう。天文学の観点から言えば、どれくらいの明るさになるのかが気になります。今後も要注目です。この計画については、科学技術振興機構(JST)のScience Portal Chinaにも2021年の記事があります。


電波天文学の観点から見た衛星コンステレーションに関するニュース

スターリンク衛星による携帯電話との直接通信試験、今年中に

2023年3月13日、CNBCに掲載。スペースXはアメリカの通信企業T-Mobileと提携して、スターリンク衛星と普通の携帯電話が直接通信できるサービスの展開を目指しています。今はスターリンクを使うには専用のアンテナが必要ですが、これが不要になれば爆発的にユーザ数は増えることでしょう。ただし電波の周波数管理的には、一般の携帯電話が衛星と直接通信してよい制度にまだなっていないので、正式にサービスインするにはその制度改正を国際的及び各国で行う必要があります。実験だけなら実験試験局免許を取得すればよいので、現行制度下でも可能です。日本では楽天モバイルがASTスペースモバイル社と共同で、北海道での衛星-携帯電話直接通信の実験を行う予定になっています。ASTスペースモバイルはアメリカでも実験をやっているはずですが、twitterを見ても特にニュースはまだ出てないですね‥。

スターリンクがVLAの視野に入っちゃったよ、という話

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者Yvette Cendesさんのツイート。米国立電波天文台が運用する電波望遠鏡VLAで観測していたところ、スターリンク衛星が出す電波が入ってしまったことを報告しています。左の画像がXバンド(10GHz帯、スターリンクでは衛星からユーザ端末へ送る電波の周波数)の観測画像で、中心に強い電波源(衛星)が入ってしまってデータが乱れています。右はそれより2GHz低くて衛星電波の影響がない周波数の画像で、小さいですが中央に天体が見えていますね。これはブラックホールだそうです。以下の記事で紹介した通り、VLAの周辺はスターリンクのサービスエリア外なので衛星からの電波は止まっていると思っていたのですが、そうではないということなのでしょうか。だとしたらエリア外になっている意味がないのですが…。

混雑する電波周波数と電波天文学

2023年3月9日にAstronomy.comに掲載された記事。オリジナルは、研究者とジャーナリストが共創するウェブサイトThe Conversationsに掲載されたものです。人工衛星や地上での無線通信はますます活発になり、宇宙からの微弱な電波を捉えようとする電波天文学としてはその影響をできるだけ避けたいところですが、ひとつ上で紹介したように実害が出てしまったケースもあります。記事では、旧ソ連版GPSによる電波観測への影響に始まり、様々な取り組みが行われてきたことを紹介しています。米国ウェストバージニア州などに設定されている電波静穏領域National Radio Quiet Zoneもその取り組みのひとつですが、残念ながら人工衛星はその範囲外。国際電気通信連合(ITU)が主導する周波数分配の枠組みの中で電波天文学が保護されている(他の用途での電波発射を制限する)周波数帯があるわけですが、それが守られていないケースもあるようです。ここはダイレクトに私の業務とつながるところで、営利企業の利益追求と科学研究の落としどころを見つけるにはそれなりの苦労があります。

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