見出し画像

光害関連ニュースまとめ 2023年12月

2023年12月の光害関連ニュースです。2023年は福井県大野市南六呂師地区が日本で4番目の星空保護区に認定されたり、衛星コンステレーションからの天文学の保護に関する国際天文学連合のシンポジウムが開催されたり、世界無線通信会議で衛星コンステレーションからの電波天文学の保護が検討課題になったりと、様々な話題がありました。
光害に関する研究もいくつも発表されました。世界の夜空の明るさが年10%ずつ明るくなっているという報告、ハッブル宇宙望遠鏡の撮影画像の数%に人工衛星が写りこんでいるという報告など、そのいくつかは衝撃的なものでした。現状を知り、技術的な対策を考え、必要なら規制を作る。関係者が多いこともあり、こうした取り組みには大変時間がかかりますが、2024年も着実に進んでいきたいですね。そして何より、平穏な1年であることを祈りたいです。


地上の光害に関するニュース

環境省令和5年度 冬の星空観察

環境省は、毎年夏と冬の新月前後2週間に、星空観察への参加を呼び掛けています。令和5年度冬の星空観察が、年明けすぐの1月2日から始まります。デジタル一眼レフでの夜空の明るさ調査は1月15日まで、日没後1時間半~3時間半の2時間に天頂方向にカメラを向けて撮影するという内容です。詳しくは、環境省のページでご確認ください。私も、東京都三鷹市と可能ならもう一か所で調査に参加する予定です。

国内4星空保護区が製作したパンフレット

ダークスカイ・インターナショナルに認定された日本の星空保護区は、沖縄県石垣市/竹富町、岡山県井原市美星町、東京都神津島村、福井県大野市の4か所です。その4地域が共同で作ったパンフレットが公開されています。光害に関する基本的な情報の他、4地域それぞれでの取り組みや星空スポットなどが紹介されています。各地とも観光や地域おこしの手段として星空保護区登録を活用していますので、4か所をめぐってみるのも面白いかもしれませんね。そしてここに観光に来た方々が、自宅に帰った後で再び星空に思いを馳せ、その場所での夜空の明るさに関心を持っていただくことができれば、暗い夜空を取り戻す活動が少しずつ広がっていくことになるでしょう。

東京都神津島村/この星空や自然・文化を「次世代に伝える」ー星空保護区とエコツーリズムー

2023年12月11日、全国町村会のウェブサイトに掲載された記事。神津島での星空保護区認定への歩みが紹介されています。昭和40年代から夏の観光客が多すぎる「オーバーツーリズム」状態だった神津島村が、観光の多様化のために暗い星空に注目したとのこと。2019年には「神津島星空公園条例」「神津島村の美しい星空を守る光害防止条例」を制定し、照明の交換を実施して星空保護区認定にたどり着きました。照明の交換にあたっては住民の懸念もあったとのことですが、説明会を重ねて理解を得たそうです。観光客を呼ぶためであっても、まずは住民の理解と応援が無ければこうした取り組みは進めることができません。星空保護区認定を目指す自治体も参考にできる記事だと思います。
なお光害対策のための条例は、地方自治研究機構のウェブサイトに特集されています。

福井県大野市の「日本一美しい星空」を支えるパナソニックの照明

2023年12月27日にCNET Japanに掲載された記事。ダークスカイ・インターナショナルの認証を受けた屋外照明は、日本ではパナソニック岩崎電気が販売していますが、この記事はパナソニックの取り組みに注目しています。記事サブタイトルの「足元は照らし、夜空は暗くする工夫」が何よりも重要なポイントを表現してくれていますね。必要なところを照らす、不要な方向には光を逃がさない、というのが適切な照明の基本です。こうした記事をきっかけに、安全を確保しながら暗い夜空を取り戻すことができるのだ、という認識が今後も広がっていくことを願っています。

岡山・美星町「星空保護区」認定がもたらした町の活性化。自然な夜空を次世代へ残す取り組み

https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01613/

2023年12月21日にLIFULL HOME'S PRESSに掲載された記事。日本で初めて星空保護区の「コミュニティ部門」に登録された美星町の取り組みを取り上げています。コミュニティ部門は自治体単位が認定対象で、質の良い屋外照明の使用に関する条例の施行など、自治体を挙げて暗い夜空の保全に取り組んでいることが求められます。井原市観光交流課の藤岡健二さんのインタビューという形で、1989年の光害防止条例から2021年の星空保護区認定までの取り組みが紹介されています。クラウドファンディングによる照明器具交換の実施や、地域へのアンケート結果で「星空保護区認定を誇りに思う」「(照明の色が変わったことでで)雰囲気がよくなった」という回答があったことなども記されていて、星空保護区認定の全体像を知るにはよい記事ですね。

美星町での夜空の明るさの長期変動に関する論文

2023年12月20日に論文プレプリントサイトarXivに掲載された論文です。著者は美星天文台の伊藤さんと前野さん。2006年から2023年までの美星天文台101cm望遠鏡の観測データを再解析したところ、この期間では夜空の明るさ自体は特に変動がないものの、分光データを調べるとLED照明に特有の波長450nmの光が徐々に強くなっていることが分かった、というのが主な結果です。照明の種類が急激に移り変わってきたことの証左と言えるでしょう。また今回の研究は、光害のための観測をやったわけではなく、一般的な観測データを再解析してこの傾向を導き出しているというのが重要なポイントでしょう。光害の対策には、そもそもどんな光が夜空に放たれているのかを理解することが第一歩になります。今回は美星町(およびその周辺)の夜空の環境についての研究ですので、日本の他の場所、あるいは世界のいろいろな場所での変化も見てみたいですね。

日本の小さな町はいかにして暗い空を守るか

上記の論文をもとにした英語記事が、Universe Todayに12月31日付で掲載されていました。観測成果だけでなく、光害の一般的な影響(夜空だけでなく生物への影響など)にも触れています。光害のもとになっている光がどこから出ているかをきちんと評価することが重要である、という論文の指摘を記事内でも取り上げています。光害の科学的な研究を今後も進めていく必要があります。

ニュージーランドでの夜空の明るさの変化に関する論文

2023年12月12日にNew Zealand Journal of Ecology誌に掲載された論文。2012年から2021年にかけての夜の人工光の変化を、人工衛星からの観測データを調べることで論じています。ニュージーランドで夜間に光を発している面積は37%増、国土の2%では明るさ増、都心部を中心に国土の0.3%では明るさ減とのこと。環境学の論文ですので、単に明るさだけでなく生き物への影響についても議論しているようです。ただし、この論文にもありますが、衛星からの観測は空で散乱する光を捉えにくかったり、衛星のカメラによっては青い光を検出しにくかったりするので、例えば上で紹介した美星町の観測結果と簡単に比較できるものではありません。このあたり、統一的なデータのキャリブレーション方法が確立できればよいのですが…。

フランスの生物多様性確保のための取り組み

フランス政府は、生物多様性確保のために2030年までにさまざまな取り組みを実施することを発表しました。その中には、光害の低減も含まれます。生物多様性国家戦略2030によれば、「より適切な都市照明の導入、照明付き看板や店舗の窓の点灯時間の管理改善、監視対策の強化を通じて、光害を10年間で半減する」とのこと。文書はフランス語で自動翻訳に頼らないと理解できませんが、「光害を半減」は具体的に何を半減させるのか、明確になっているんでしょうかね。ともあれ、国家戦略として光害の低減をうたうフランスの姿勢は称賛したいところです。フランスは人工光の規制に関する法律(罰則付き)を持っていて、2013年には以下のようなニュースも出ています。光害対応については、先進的な国と言えるでしょう。


衛星コンステレーションと天文学に関するニュース

スペースX、連邦通信委員会から携帯電話直接通信試験のための許可を部分的に取得

2023年12月4日に掲載された記事。スペースXは、衛星コンステレーションStarlinkと普通の携帯電話を直接つなぐサービスの展開を狙っています。この報道によれば、アメリカで通信を司る官庁である連邦通信委員会(FCC)は、スペースXに対して衛星-携帯電話直接通信の試験を実施する許可を与えたとのこと。ただし周波数も試験期間もごく限られており、もちろん他の電波を使った業務に悪影響を与えることは禁じられています。商業ベースでこのサービスが展開されるにはまだ時間がかかりそうですが、スペースX側も一歩一歩進んでいるようですね。電波天文への影響をきちんと把握しておく必要があります。

ロケットの打ち上げで増えた「人工オーロラ」が天文観察に影響

2023年12月17日にギズモードに掲載された記事。人工オーロラは、「ロケットが排出するガスと電離層の相互作用によって、球形の赤い光が、地球上空69kmから402kmのあたりの大気で発生」する現象とのこと。スペースXの主力ロケット・ファルコン9は第一段を再利用するため、第一段が大気圏再突入してくるときに大気圏に直径900kmもの穴をあけ、人工オーロラを作るのだそうです。これはロケット打ち上げ場所に比較的近いところでせいぜい数分の間光っているだけですので、実質的には天文観察への影響は大きくないと思われます。ただ、今後もロケット打ち上げ数は増えていくはずですので、注視しておく必要はありそうです。

世界無線通信会議で、非静止軌道衛星からの電波天文学の保護が次回議題に

2023年12月20日に、Square Kilometer Array Observatoyおよびマックスプランク電波天文学研究所からそれぞれ発表された記事。11月18日から12月15日までドバイで開催されていた国際電気通信連合(ITU)の無線通信会議(WRC)で、様々な電波の使い方が議論されました。さらに、次回のWRC(2027年開催のWRC-27)の議題も設定されました。そのうちの一つに「非静止軌道衛星からの電波天文学の保護」が入りましたので、これをお知らせするのがこの2つの記事です。2019年の最初のスターリンクの打ち上げ以降、衛星コンステレーションの構築は爆発的に進展し、電波天文観測への脅威になる可能性があります。こうした状況を受けて、電波天文学を守るために、WRC-27までに衛星コンステレーションが電波天文学にどのような影響を与えるのかを研究し適切な共存方法を検討すること、必要ならWRC-27において技術的対応や規制を議論すること、が今回のWRCで決議されました。私も今回のWRCにはドバイで参加していましたので、議題化の議論にも参加していました。このためだけに1時間以上の会議セッションを8~9回ほど開催し、日付が変わっても議論が続く日もありました。元は欧州と南アフリカからの提案で、米国による修正案やチリからの提案を盛り込む形で合意に至るプロセスは大変勉強になるものでした。WRCの議題で電波天文学を主題にしたWRCの議題が設定されるのは10年以上前ということですので、電波天文として久々の重い議題(=宿題)です。今後、衛星事業者の皆さんも含めた研究・議論を進めていくことになります。衛星事業も電波天文も大切ですので、両者が折り合える着地点を見出すことは簡単ではないと思いますが、ぜひ日本からもしっかり貢献したいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?