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「小さい物語」を紡ぐということ

 ここのところ天候が不順だったせいか、体調が不安定で難儀していた。そういう時ほど自信を失いがちになるのだけど、焦ったところでいいことなど何もないから、努めてゆるゆるといこうと思っている。

 さて。メディアで働いている立場に身を置いていると、「社会課題」とか「◯◯の未来」とか、テーマを大きく設定して、血眼になってアラ探しに夢中になってしまう時がどうしてもあったりする。メディアのコンセプトや企画としてそういったキーワードを置くというのはアリなのだけど、いち書き手あるいは編集として、そこばかり追っていると足元を見失って現実からどんどん離れてしまうことがあるんですよね。

 例えば「Web3」という「テーマ」は、現状だと「大きな物語」が先行しているのが、パッとしない理由として挙げられるように感じられる。ジャック・ドーシーの最初のツイートのNFTが約3億円で落札されて、それがオークションにかけられたという話などその典型だろう。

 「電子情報」に、何らかの「価値」を見出してそれが「市場」で取引されるには、少なくともあと70年くらいは必要だと思われる(著作権の保護期間が過ぎた後にこそ、意味が生まれるかもしれない)から、ハカン・エビタス氏がハナから売る気があったのか非常に疑問だというのが個人的な見立てなのだけど。
 ただ、この話を聞いた時に感じたのは、「Second Lifeで中国人女性がバーチャル不動産取引で1億稼いだ話の方が夢があるな」ということだった。まぁ、このあたりの「物語」はデジタルハリウッドの杉山知之学長と事業構想大学院大学の渡邊信彦教授の対談を読むと当時の空気感が伝わってきて「Web3」に関心がある人にとっては必読だとは思う。

 ここでお二方が語っているのは、「Second Lifeがどのように使われていて、どのような人々が集まっていたか」という、「コミュニティ」の話がメインになっている。「小さな物語」の積み重ねと言い換えても良いかもしれない。   
 何らかの新たな技術が生み出されて、社会に影響を与えるところまで行くには、そういった「小さな物語」があるものだ。世界初の商用タイプライターを販売したラスムス・マリング=ハンセンは、デンマークの王立聴覚障害者協会の牧師で、字が書けない人の教育のために開発されたものだった。タイプライターの存在があってはじめてコミュニケーションが取れるようになった人は確かにいただろうし、そこからそれぞれの「物語」が動き出したこともあったはずだ。そのような源流を辿る旅路は、人の琴線に確実に触れる。単純にワクワクしませんか、そういう話。ワクワクしてほしいなぁ……。

 そういった視点で「Web3」あるいは「メタバース」「NFT」を見ていくと、まだまだユーザーの「顔」が見えるような話題はそれほど生まれていないような印象を受ける。
 ちょっと前に、ライトオンがオリジナルアバター作成サービス『AVATARIUM』とコラボした「メタバース体験イベント」の取材して記事化したのは、「小さな物語」の取っ掛かりにはなるかもしれないという想像が掻き立てられたからだった。もっとも、実際のイベントの雰囲気を見て「簡単ではない」という感想を持ったのだけれど……。

https://getnews.jp/archives/3301389

 現状、「Web3」は「このように儲ける!」とか「某書籍の内容がお粗末でした」みたいな話題が先行していて、場末の話が足りない。それを拾っていくのもメディアや書き手が不在だという見方も出来るだろう。逆に言えば、そういった話を追う力量がある人がいれば、視界が開ける可能性がないこともないように感じる。

 ……あれ? 自分が語りたいのってこんな話だったっけ??

 えーと。つまり。「大きな物語」は語りやすいし読まれるし、ついついそれに目が奪われてしまうのは仕方がないことなのだけど、たまには足元に落ちている何かを見つけ出して「小さな物語」を紡ぐ力を養っていくことを、これからメディアでお仕事したいと考えている人には気に留めて欲しいなぁ、ということを最後に強調しておきます。

 頭痛で唸っているうちにタスクが溜まりまくっているので、今回はこの辺で!


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