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取材先にはなるべく30分前に着くようにしているという話

 JCEJ代表運営委員の藤代裕之法政大学社会学部メディア社会学科教授のご厚意で、『ローカルジャーナリストガイド』を一部分けて頂いた。心構えとして「ビジョンを語る、フェアであれ、誠実であれ」の3ヵ条を挙げているのは全てのメディアに関わる人間にとって必要なことだと思うし、リアル/ネットの双方で情報収集するといった手法が入っていること、取材時の質問に「守り」「攻め」があるといったことは業界に長い人でも意外と踏まえていないかもしれない。「事実」「解釈」の違いについても同様だ。

 また、執筆にあたって「方言と地名」という項目があるあたり、「ローカル」としては重要だとも感じた。取材の際の身だしなみで無難さを求めているあたりは、ワンピ+レギンスでどこにでも行って誰とでも会う自分としては首肯しかねたけれど、これはあくまで自分が「Stranger」としての立ち位置に身を置いているからだとも言えるだろう。

 一点。取材現場に「10分前に着く」というところがあった。自分の場合は可能なら1時間前、少なくとも30分前に到着するようにしている。このガイドでも「早めについたら現場の下見を」とあったが、主にトラブルの主眼に置いた視点になっている。それは当然として、私的には「歩いて空気を掴む」ということが非常に重要だと思っている。

 取材では馴染みのない駅で降りて、土地勘のない場所に行くこともしばしばだ。例えば生活圏のどこにどんなお店があるのか、といったことを事前に足で知るのと知らないのとでは、聞く内容に差が出てくるものだし、商店街なら老舗っぽい喫茶店に入って道行く人を観察して、気付きを得られるケースもある。今ならスマホで周囲の店舗のオープンした年や営業時間をざざっと見ておくといったこともその場でできるし、そういった情報を地に足をつけたものにするためにも、できれば取材先の周囲500m四方は歩いておきたい。「あ、ここに桜があるな」とか「ここの公園は子どもが多いな」といった観察眼を養う訓練にもなる。

 仮に慣れた土地だったとしても、前回来た時との比較をするためには歩いて回る余裕があった方が良いだろう。同じ物件でも入っているショップが変わっていることもあるし、道路の工事をしていたり、祭りなどのイベントがあったり、昨日と同じ風景ということはまずないはず。それを体感する時間を大事にしたい。

 「取材とは直接関係がないのでは?」と思われるかもしれないけれど、特に初対面の人の場合(そういうケースの方が圧倒的に多い)、まずは相手の懐に飛び込むことが重要だ。その際の取っ掛かりに、「ここに来るまでに見事な一本杉ありましたね」とか「○○のお店にポップ置いてありましたね」とか話題にできるとつよい。また、そこから事前には想定していなかった、思いも寄らなかった情報が引き出せるものだ。

 もうひとつ。取材前には緊張したり、無意識のうちに近視眼になりがちなったりもするので、一度頭をリセットして「ほかの事を考える」というのをクセにした方が良いと思う。自分も最初は緊張して仕方がなかったのだけど、ある地方での取材で90分以上前に到着して、周囲の道をあてどなく歩いてみた時、とてもリラックスしてお話を伺うことができ、なおかつ足で土地を掴んだことで相手の言葉への理解が掴めるような気がした。それ以来、自分の取材姿勢が定まったように感じるし、何より歩くことは運動不足解消になる。

 特に車で10分に到着……という場合だと、平坦に見えた土地が実は緩い坂だと気づけないこともある。地に足をつけるということは、取材をする上では重要だし、何より入ってくる情報量が違う。予定にゆとりをもたせて、気持ちにも余裕をもたせるためにも、30分前には目的地に着いておくということをオススメしたいな、と改めて思った。


 

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