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植物に癒されてきた(4)謎多き「えんぴつの木」


突然ですが、「えんぴつの木」をご存知でしょうか……

見たこと、ありますか?
育てたこと、ありますか?

私の周りでイエスと答える人はいませんでした。
そんな貴重な木と私は出逢ってしまいました。

場所は、後にも先にも一度しか訪れていない東京、赤羽のスーパーです。

30センチには届かない小さな鉢。
「えんぴつの木」と書かれた札があり、298円か398円という値段でした。

名前が、印象的で可愛い。
パキラに似た葉っぱも涼しげです。
何より安価だったので、迷うことなくレジへ向かいました。

私はそのあと一度も「えんぴつの木」が売られているところに遭遇したことがありません。
かなり不思議なことだと思います。

「えんぴつの木」は、滅多にお目にかかれない木だったのです。

大概のことは、検索すればわかるはず。
早速、調べてみました。
画面にはシダーという大きな木の写真が写っていましたが、私の「えんぴつの木」とは全く異なります。

この木を「えんぴつの木」と呼んでも良いのでしょうか…

首を傾げつつも、何気なく過ごしていましたが、同居生活が長くなるにつれ、ますますこの木のことを知りたいと思うようになりました。
それには理由があります。

生長が著しく早いのです。
私が室内で育てた植物の中でダントツでした。
か細い幹は、ひたすら上へ上へと目指し、若緑の枝を次から次へと増やしていきます。
朝には存在しなかったはずの葉が、夕方には初々しい小さな手を広げていることもあり、これじゃあ豆苗だよ、と思わず声を上げてしまいました。

3年ほどで私の背の高さになり、更にその1年後には2メートル50センチの天井の高さに達しました。

それからはずっと、伸びた葉や枝を切り続けなくてはならなくなり、「えんぴつの木」にとっては、ひどい仕打ちだったかもしれません。

ある時いつものように脚立に乗って、枝を剪定していたところ、バランスを崩してしまい、鉢の中へ倒れ落ちました。胸を強打して、ひと月くらい肋骨の痛みに悩まされました。
「えんぴつの木」が怒りの念を私に向けたのでは?と少し思ったりもします。

しかし、相手にどう思われようが、「えんぴつの木」は私の自慢でした。

部屋に入るや否や、親戚や友人、ガスの点検の人、引っ越しの業者さんまであらゆる人が、この木の高さに驚いてくれました。

そんな時、私は決まって、30センチほどの長さを両手で示して、

これくらいの大きさだったんですよー
298円だったんですよー

と誇らしげに語るのです。
(値段を安めに言うのは関西人の安かった自慢のせいもあります)

現在、「えんぴつの木」は私のそばにはいません。
関東から関西への転居が決まった際、この木も他の植物と同様に、義理の姉夫婦が引き取ってくれました。 
今は、与えられた場所の天井の高さにも慣れ、前向きに暮らしてくれているはずです。

もし天井を気にしなくて良い環境であれば、どのくらいまで伸び続けたのでしょうか……
見てみたかったです。

もう一つ思っていることがあります。
赤羽のスーパーで購入した際、まだ幾つか売られていたように記憶しているのです。

愛犬や愛猫がいると、「あーこのコの兄弟、姉妹は元気なのかなあ、飼い主さんはどんな方なんだろう?」と親近感を持ちながら想像したりするのですが、それと全く同じ気持ちを抱いています。

あの時の「えんぴつの木」たちは、どんな生活をしているのでしょうか……
その木を仰ぎ見て、どうしてこんなに大きくなるんだとため息をついている人はどんな方なんでしょうか……

可能ならば、いつかその方と語りたいです。

この木は手がかかるよねーって散々ボヤいたあと、自慢話に花を咲かせたいのです。  

……実際には、残念ながらこの木は花はつけてくれなかったからね。



写真は、2メートル50センチの天井に届いた時の「えんぴつの木」
鉢が小さく見えますが、結構大きいんですよ。


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