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人と地域、企業の歴史や想いを、“植物”でつなぐ空間デザイン〜Hondaウエルカムプラザ青山〜

働き方改革や、昨今の外出自粛によるリモートワークの増進により、“オフィスに行かなくても仕事ができる”時代が本格的にやってきました。郊外に“サテライトオフィス”を設置したり、自宅で仕事をしたり。それぞれのスタイルに合わせて自由な場所で仕事ができるようになった今、オフィスに求められているものは何か?そこに行く意味は何か?多くの企業が考えるようになりました。

植物や、水や光などの自然の要素を使って室内をデザインするparkERsにも、オフィスを居心地のよい場所にするためのご依頼が年々増えてきています。社員の満足度や生産性の向上、コミュニケーション活性化のための執務スペースのデザインもあれば、企業イメージを表現するエントランス緑化も。

企業の本社は、企業の顔とも言える場所。ただ植物を植えるデザインをするだけではなく、そこに企業のストーリーや想いを表現したい。その空間に人が安心して過ごすことで、何かに気づいたり、何かがつながったり、ワクワクするような仕掛けをデザインしたい。

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2020年にparkERsがデザインに携わらせていただいたHonda本社1階のショールーム「Hondaウエルカムプラザ青山」。この空間は、Hondaの企業理念や文化・歴史、そして想いを社内や、さらには気軽に入ってきたいろいろな人へと伝える、誰でも立ち寄ることができる憩いの場としてデザインしました。

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エントランスを入ってすぐの正面に位置する「ワイガヤの木」。今回のnoteではこの象徴的な空間の秘密を、ご紹介します。

①ちょっと腰掛けられる、公園のような憩いの場

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「Hondaウエルカムプラザ青山」は、1985年に「製品及び企業姿勢の発信の場」、「誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場」としてオープンしました。そして2020年、このコンセプトをさらに進化してリニューアルオープン。

この「誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場」をparkERsなりに解釈し“公園のような心地よい空間”を作りました。公園といえばいろんな人がそれぞれに過ごしています。この「Hondaウエルカムプラザ青山」でも、例えば木陰で子供たちが宿題をしていたり、蕎麦屋の出前のお兄ちゃんが立ち寄って休んでいたり…。そんな気軽な風景を想像し、「ワイガヤの木」の周りはちょっと腰掛けられるベンチになっています。

②植栽に込められたストーリー

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この植栽、パッとご覧になってどう感じますか?「いろんな種類が植わっている」「モリモリしている」「イキイキしている」など色々な感想があるかもしれません。プランツコーディネーターがここに込めたコンセプトは、“ワイワイガヤガヤとした植栽デザイン”

そもそもHonda には“ワイガヤ文化” というものがあります。これは、「立場や部署を超えたいろいろな人が、同じ時間に膝を突き合わせて話し合うことで本来の良いものが生まれる」という考え方のこと。これを表現するために、Honda の工場がある国を原産とする植物を植え込みました。世界中のHonda の工場と、この本社とのつながりを感じさせるとともに、下草には東京でも身近な植物を植え、地域の人とのつながりを作りました。

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さらにストーリーを語っているのは、植樹用の苗木。「ワイガヤの木」には9 種類48 本の植樹に使う苗木が植え込まれています。これは、社会福祉法人進和学園で障がいのある方たちによって栽培されたものです。

社会福祉法人進和学園は1970年代からHondaの車部品の組立を行なっている福祉法人。この苗木は、parkERs も共に森づくりを行なっている一般社団法人Silvaが関わって、社会福祉法人進和学園で作られました。

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植樹地に苗木が植えられている様子

この苗木が「ワイガヤの木」に植え込まれたことで、Hondaとその部品を組み立てた人々、そして森づくりを通してわたしたちparkERsにまでストーリーがつながっていきます。

③企業づくりと森づくりをつなぐ

森づくり、といえば、実はHondaは「ふるさとの森づくり」を1970 年代から進めています。

いろいろな種類の木を密植することで強い森が生まれるという“ふるさとの森づくり” 理論は、Honda の考える“企業づくり” にもつなっています。

「HondaWoods」 と呼ばれる、施設の周りを取り囲むようにして作られた森は、全国の工場や研究所で社員や従業員が苗木を植えたことから始まり、そして地域社会との融合にもつながってきました。そんな、森づくりの歴史を伝えるためにも、この「ワイガヤの木」には苗木が植え込まれているのです。

④創業者の想いをつなぐ

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「ワイガヤの木」は、正面に滝が流れていたり、天井緑化から雫が落ちて波紋を広げていたりと、水の豊かなデザインになっています。

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これは、創業者である本田宗一郎の想いを伝えるシンボル。実はこの「Hondaウエルカムプラザ青山」があるHonda 本社ビルの地下3 階には、樹齢200 年以上のヒバの大樽があります。ヒバ樽に貯水することで、まろやかで美味しくなった水は、「誰でも気軽に立ち寄れる場所にしたい」という宗一郎の想いから、ウエルカムプラザ青山で無料で提供されています。

⑤命のめぐりを伝える

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もてぎの森の木で作られた木人(こびと)

Hondaが“人に役立つ森” を目指して育てている、栃木県の“ツインリンクもてぎ” にあるHELLO WOODS の森。ここで出会えるこの愛らしい木人に、ウエルカムプラザでも会うことができます。

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木人は、間伐した木や倒木した木を使って作られています。人には使われないもの、都会にあれば意味のないもののように思われるものでも、命をつないで地球の明日につながっているのです。木人はそんなメッセージを伝えてくれます。

青山という都会の中心にそびえる本社も、栃木の森と地続きで繋がっている。つい切り離されているように感じてしまいがちな都市も、自然と繋がっているということに気づかされます。

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仕事をするためにオフィスに行かなくても、買い物をするために店に行かなくてもいい時代。そこに行きたい!と思う価値とは何なのでしょうか?

目的を持って行った場所でなく、偶然の訪れた場所での出会いに心を突き動かされた経験は誰にでもあるでしょう。そしてその感動は、どれだけテクノロジーが進化しても、きっとなくなりません。空間デザインを通して伝えられることは、言葉で説明できるような効果や結果に留まらず、歴史やそこにたどり着くまでの想いから、これから先の未来への希望までたくさんあります。そして、ひとりひとりがリアルに体感することで、心を動かすことができるものだと思います。

わたしたちparkERsは、企業や人々のストーリーを伝える場所としての本社およびショールームも、植物や自然の要素を使用してデザインしています。

ぜひ、お近くまでいらっしゃった際は、「Hondaウエルカムプラザ青山」に立ち寄ってみてください。そして、街を歩いている時でも家にいる時でも、その場所は誰がどんな想いでデザインしたのか?想像してみると、意外な発見に出会えるかもしれません。

※「Hondaウエルカムプラザ青山」は現在開館時間を短縮しております。開館時間 11:00-17:00 ※当面の間 そして8月7日(金)~16日(日)は夏季休館となります。開館状況については公式ホームページをご確認ください。

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この記事を書いた人
parkERs ブランドコミュニケーション担当 矢崎
空間デザインや植栽デザイン。世の中はどんな素敵なデザインがあるのか
もっと勉強したいなと、parkERsにいると思います。
最近は映画に出てくる小道具のデザインの本を買いました。
本番映らないかもしれないカバンの中身までリアルに作り込んでいるという
その情熱(とプロジェクトのスケール)に度肝を抜かれました…。
見えない細部に神は宿る・・・!