『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #25 『奥の横道』 宇野亞喜良
#25
2024年4月18日の1冊
「奥の横道」宇野亞喜良 著
(幻戯書房)
現在、新宿区にあるオペラシティアートギャラリーにて、イラストレーター宇野亞喜良さんの大規模個展が開催されている。宇野亞喜良さんは、私にとって「好きなイラストレーター」を語るには欠かせない存在。開催が発表された昨年末より楽しみにしていたので、電車に飛び乗って走って行ってきた。
私が初めて彼の存在を認識したのは社会人1年目、22歳の頃。SHAKALABBITS というバンドのアコースティック収録ミニアルバムのジャケットのイラストレーションだった。 ポップパンクのアコースティックバージョン。ずしっと心臓に響くギター音とイノセントでセンチメンタルなメロディ、御伽話の世界を彷彿とするファンタジックな世界観を、見事にビジュアル化したアルバムの顔。ジャケットも含めて大好きな CD だった。
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時を経て今、街の古本屋や古本市の会場でも度々目にすることとなった宇野亞喜良作品。多くの人々に愛され、創作を続けてきた彼は御歳90歳。生涯かけて携わってきたグラフィックデザイン、描き続けてきたイラストレーションの大回顧展をまさに今、目にすることができたのだ。大満足の展覧会。
そして今回紹介するのは、 宇野亞喜良氏の『奥の横道』。
宇野氏の1週間の記録。俳句とイラストレーションよって、世の中への目線、友人たちとの交流、日々考えていることを、軽快に綴った句画エッセイ集である。
エドワード・ゴーリーやオーブリー・ビアズリーなど欧米のゴシック・ガーリーらしきスタイルを感じさせる作風が印象強いけれども、時代小説挿画や歌舞伎ポスターなど日本の伝統文化も表現し得る宇野氏は、俳句にも関心が深く、自身がサウスポーであることから「左亭」という俳号を持ち、自らも度々句を詠んでいる。
「サバト」「老アリス」「冥府魔道」「メフィスト」「ルナロッサ」「冬薔薇」など、季語であろうとなかろうと、幻想文学的な宇野ワールドを感じさせる言葉がちらほらと見受けられ、俳人としても、イラストレーターとしてのそれと同じくして個の世界観を確立させていて、その世界が大好物な私にとっては、ただ俳句を読むだけとは違った面白さがあり、読んでいて楽しい。
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グリムをテーマにしたお仕事について語られる篇。
日々の仕事のやり取りのなかで起きた出来事や、欧米で言い伝えられた御伽話をもとに詠んだ句も多々あり、それらにほんのちょっと、宇野氏自身の「こうだったらおもしろいかな」という“妄想“ を一滴投下する。それがその物語に毒っ気を盛ることになり、受け取る側に快感すら与える。“遊び心” “小さい冒険”そんな無邪気な心が、彼の魅力をたっぷりと余すことなく表現させる。
60年代の銀座。横尾忠則ら同僚と働いた日本デザインセンター時代。当時の重役、原弘、亀倉雄策、山城隆一といった巨匠たちの年齢を遠に越してしまったことを憂いながら、青春時代を回想する。そのとき銀座で観察した少年少女たちについて語った一句。
私にとっては、雑誌やテレビでしか見たことのない日本の姿を刹那的に詠んだ句に、時代は流れ交差すること、同じようにどこかで流行った何かを見つめながら今私が感じていること、それらを留めておきたいという気持ちに駆られ、心がギュッとなった。
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『奥の横道』を通して、ほんの少しだけ宇野亞喜良氏の魅力を語らせてもらった。これを読んで気になった方には、是非ともオペラシティでの展覧会に足を運んでみることをおすすめしたい。
創作をする者、アートを感じ取りたい者、アートに携わる者、好きなことをとことん突き詰めて取り組みたい者‥あらゆる人に響く空間になっていると思う。そして「自分の世界を持つ」ことの豊かさを教えてくれる。
展覧会図録も本自体のデザインが凄まじいかっこよさ、ずっしりと贅沢な仕様になっていて最高なので、こちらもあわせて必見。
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パークギャラリー・木曜スタッフ
秋光つぐみ
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