見出し画像

『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #11 『タモリの TOKYO 坂道美学入門』 タモリ

#11
2023年12月14日の1冊
「タモリの TOKYO 坂道美学入門」タモリ 著(文・写真)(講談社)

散歩がしたい。寒かろうと暑かろうと、私は歩きたい。三度の飯より散歩が好き。読書よりも散歩が好き。書を捨て、街へ出がち。これまじ。ひとたび歩き始めると、(東京など都心における)一駅や二駅は悠々と歩いてしまうし、簡単にはご飯屋さんには入らないし、日が暮れるとか帰って早く寝ないととか理屈を抜きにして行きたい方向に感じるままに進み続ける。その先で出会うものへの期待と感動。この快感、どう説明しようか。家を出て歩き始めた途端にゾクゾクと内側で迸る気持ちよさがたまらない。頭を空っぽにしてただ進むだけでいいという点では最もリラックスできる瞬間の一つでもある。

私が本を読むのは、そんな散歩中に、より充実感を増させる街の歴史や文化についての知識を得るためだったり、人々の営みを見てそれぞれの人生の物語を想像するための糧にしたり、そういう瞬間の喜びを深めるためなのかもしれない。もはや散歩のための読書。散歩の時間をより濃厚にするための準備としての読書なのかもしれない。

そんな私の散歩好きを加速させた1冊がこちら。以前、フリーペーパー『PARKING』の『つぐみの本棚』でも紹介したタモリさん渾身の坂道本です。

日本坂道学会の3人目のメンバー(会員全3名)であるタモリさんが、東京都心に存在する代表的坂道を教示してくださっている、言わば坂道の教科書。

江戸から伝えられている歴史や言い伝え、根付いている文化はもちろん、タモリさん自身の実体験や思い出エピソードと共に綴られている、タモリさんにしか書くことができない本なのです。写真もタモリさん撮影。最も美しく見える、その坂道の魅力を最大限に引き出したアングルが見事で、各坂道への溢れる愛が紙面から煌々と伝わってきます。近隣のええショップや駅からの行き方なども細かく記されていて、今すぐにでも行ってみたい名所ばかり。

実際にこの本を片手に訪れた場所もあるし、車で通ってたまたま「ここだっ」と発見した場所もあります。楽しい。日本坂道学会に心底入会したい‥

私は長崎市出身で、小学生の頃から中学も高校も坂道や階段を登って、その中腹や天辺に佇む校舎へ通っていたのだけれど、山を削って街が作られている長崎市には全ての坂に名があるわけもなく、それが当たり前の日常でした。(もちろん旧浦上街道など、歴史的街道をなぞる坂や階段には名があります。)
東京も他の都道府県に比べて坂の多い地形であり、さらにその歴史や文化の発展の基には、数々の坂道が裏付ける何かがあることを知るとこれまたゾクゾクっと私の興味、関心を刺激してくれる。そんなきっかけとしての1冊がこの『タモリの TOKYO 坂道美学入門』だったのです。そう、「坂道美学」なのですね。

この本はどちらかというと歴史的、文化的観点から坂道を学ぶ入門編なのですが、地形的に見たり、川・暗渠について書かれた別の本と合わせて学んでいくと、より東京の街の変遷や世の流れがわかったりしてさらに面白いと思います。またブラタモリなんかを合わせて観るのも、さまざまな情報がリンクしていって、もう、やめられなくなりますよ。坂道美学の世界へ浸かりましょう。なんつて。

散歩の快感について話を戻すと、今は萩原朔太郎の『猫町』を読んでいます。歩いて歩いて、酔いが回るように未知の世界へ吸い込まれいく、脳内でめくりめく彩られる理想的快楽、全ての欲求がこれで満たされるのであればこれだけでいい。旅、散歩に心を揺さぶられがちな方におすすめ。『猫町』は同じく旅好きな私の師匠に勧められた一編です。

これからも、誰かが書いた散歩日記、旅日記なる種の本を読み漁りながら、歩き続けようと思います。

----
【 わたしのつれづれ読書録 】
古本屋兼ギャラリーの創設を目指し、パークギャラリーと並行して古本屋でも修行中の秋光つぐみ。
『わたしのつれづれ読書録』はパークスタッフのつぐみが出勤日(主に木曜日)に「今日の1冊」を紹介するコーナーです。
パークで開催中の展示テーマに寄せた本、季節や世間のムーブに即した本、つぐみ自身のモードを表す本、人生に影響を与えた本、趣味嗜好まるだしの本など‥日々積読が増えていく「つぐみの本棚」からピックアップした本をお届け。
----

PARK GALLERY
木曜スタッフ・秋光つぐみ

グラフィックデザイナー。長崎県出身、東京都在住。
30歳になるとともに人生の目標が【ギャラリー空間のある古本屋】を営むことに確定。2022年夏から、PARK GALLERY にジョイン。加えて、秋から古本屋・東京くりから堂に本格的に弟子入りし、古本・ギャラリー・デザインの仕事を行ったり来たりしながら日々奔走中。
Instagram https://instagram.com/tsugumiakimitsu

この記事が参加している募集

🙋‍♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁‍♀️