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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㉟ 麻佑 『オリーブ』(東京都世田谷区)

本屋では、どうも自分の気になるものだけを手にとってしまう。いま自分の中にあるものを少しだけ拡張させることができるであろう、都合よくて、居心地のいいものばかりを集めてしまう。自分の経験則で理解できるもの、の枠の中におさめようとして、後悔しないように、(お金と時間が)無駄にならないように、と必死だ。脳や心にビリビリと電流が走るような体験もどこか予定調和で、感動している自分に感動したりしている。無理に感動したフリをして SNS に書き込んでみたりする(真顔)。いい本屋をいくつか知ってるけれど、店側の『選書』に甘え、好奇心と冒険心を棚の中にそっとしまうような本の買い方しか、最近はできていなかった。

COLLECTIVE のいいところは、自分の理解の範疇外から、時々、矢のように小さな言葉が降ってきて胸に突き刺さってしまうところにある。前も何度か書いたけれど、よそでは決して自分から率先して触れないであろう作品に、うっかりタッチしてしまったりするのだ。本屋みたいに無数にタイトルがあるわけでもないし、がんばれば全部に目を通せるくらいの量なわけで、それに『展示』というアプローチをしているおかげで1つ1つの輪郭がはっきりしていることもあって、興味がないはずだった作品を手にしている、という機会が多いのだ。気づいたら読み耽って、気づいたらレジにいた、なんて現象をよく見かける。

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この世の全てを嫌いになりそうな夜が
うそみたいになって

静かにゆっくりと鳴く烏の声を
じっとじっとまつ

「朝」より

今回紹介する ZINE『オリーブ』は、詩なんて全く興味のなかった僕のところに、遠くからすっと矢のように飛んできて、刺さった。オリーブ色の可憐な表紙と、華奢な書体で、恋をしているだろうとある女の子の日常の、なんでもない日々の所作なんて、いままでまったく興味がなかったじゃんか。それだけでポエジーな目次を見ていると、言葉が紙から浮きあがってみえた。生きている言葉特有の、掴み取ろうとしても掴みきれない言葉特有の。頭の中で「へぇー」と、どこか傍観してしまうのは、そんな言葉たちがうっかり自分の中に侵食してきそうだからなんだと思う。静かだけれど心をすっと揺らす言葉がたくさん並んでいるなと思った。

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作者は東京在住の麻佑さん。時々痛々しいくらい生々しくて、ドキドキしてしまうくらいロマンティックな描写が続く。読んでいると、下北沢に住んでた時、恋人とも呼べない女の子と、よく夜道を公園から公園へと散歩して歩いたのを思い出した。缶ビールが底の方でぬるくなるたびに、捨てて、コンビニで新しく缶を補充し、乾杯する。あの時間はなんだったんだろう。23歳くらいの頃は、岡崎京子の漫画の中の世界に憧れて、虚無感と怒りの連続で、少しくらい無駄でなんでもないことは全部 OK だった。くだらないことは時間が解決してくれると思ってた。言葉や常識で成立していないことなんかは大歓迎だった。興奮した。ぼくなりに、オリーブ色の、そういう時代があったなと、詩を読み終えて、思った。

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いつでもあの時を思い出させてくれる、小さな詩集が100円だなんて。

「答え」そして「水滴」という詩と「うつくしいあくび」という詩がうっかりすばらしい。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:麻佑(東京都世田谷区)
日々の日記を詩にしています。
https://www.instagram.com/my413__
【 街のオススメ 】
① 下北沢GARAGE ... 楽しいイベントがたくさんです。
https://www.garage.or.jp

② 駒の湯 ... 歌謡曲がひたすら流れるサウナサイコー。
https://www.setagaya1010.tokyo/guide/koma-no-yu

  


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