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沖縄三線民謡コンクールに出場した話


三線コンクールに出場した!

6月7日(金)に開催された沖縄三線民謡コンクールの話。

18歳まで福岡県、大学で熊本に7年間居座り続けた生粋の九州人な私であるが、沖縄で開催されたコンクールに出場して「新人賞」を獲ってきた。

琉装した私



そんな私と三線の出会いは少し前の↓の記事を書いた頃に遡る。前職でメンタルを病まなければ三線を始めなかったと思うと、人間万事塞翁が馬。人生、何が起こるか分からない。

ウルトラ三日坊主である私であるが、驚嘆すべきことに、この記事を書いてから1年半も、しかも高い熱量を保って、三線の稽古を継続した。
そして今も尚、三線という楽器と沖縄八重山諸島の文化・伝統芸能の奥行きの深さに魅了され続けている。


三線民謡コンクールの「新人賞」とは何か?


「新人賞を取得した」と先述したが、これは上位〇%に入ったという訳でも、他の受験者との競争に勝ち残ったという訳でもない。

三線民謡コンクールは、新人賞、優秀賞、最高賞、最優秀賞と部門が分かれている。

新人賞に受かれば次は優秀賞を受験する、そして優秀賞に合格すれば次は最高賞を受験する、、、といった具合に自分のステージに合わせて受験を繰り返していく。

考え方は柔道や合気道の「段」とほぼ同じである。

そのため、三線を初めて2年弱の私はまず入門として「新人賞」を受験したのである。


課題曲について

受けるステージが「新人賞」「優秀賞」..etcと分かれていることは先述したが、加えて、課題曲は沖縄本島民謡、八重山民謡、宮古民謡によって異なる。

新人賞では、自分が習っている民謡から課題曲を1曲選択することとなる。

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各民謡とその課題曲(多分こんな感じだった)
本島民謡: 安波節・恋の花・遊びションガネー・祝節宮古民謡:なりやまあやぐ・世果報世・豊年の歌
八重山民謡:鷲ぬ鳥節・でんさ節・鳩間節
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私の師匠が八重山民謡の先生のため、コンクールでは八重山民謡のでんさ節を課題曲として選択した。

「でんさ節」とは、BEGIN「島んちゅぬ宝」の3番の歌詞「とぅばらーまもでんさ節も言葉の意味さえ分からない」の「でんさ節」である。
BEGINは石垣島出身なので八重山諸島の人間なのである。
とぅばらーまもでんさ節も八重山民謡である。


ちなみに、コンクール出場者の95%以上は沖縄本島民謡である。私が習っている八重山民謡受験者はかなりの少数民族である。

「八重山民謡を習ってます!」
というと、決まって、
「八重山!?なんで???なんで八重山!?!?」といった反応を受ける。そのくらい少数である。

しかも、99%の沖縄本島民謡の受験者は「安波節」を選択する。この「安波節」がなかなかのクセモノなのである。


あはあは攻撃

大会はうるま市民芸術劇場で開催された。

受験者は広い待合室にパンパンに入れられて、舞台袖に呼ばれるのを待っている。
私も2時間前には劇場入りして、待合室にて事前準備を行っていた。

先述したが90%以上が沖縄本島民謡の受験者でほぼ全員の課題曲が「安波節」のため、待合室は安波節で埋め尽くされる。

待合室の私を除く老若男女全員が安波節を練習している。

\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦

集中してでんさ節を弾いてても、私の耳に、アーハーヌー!が飛び込んでくる。

私だけが、でんさ節を練習している。

\ スマムチー!/
 🙎‍♂️(ワイ)

待合室を再現してみると以下のようになる。

\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \スマムチー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴   🙎‍♂️(ワイ)  👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦
\ アーハーヌー! / \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/ \ アーハーヌー!/
 👦   👴    👵   👩   👦


これが八重山民謡受験者に「あはあは攻撃」と呼ばれているものである。

ここまで安波節を聞いていると、本番で、でんさ節のイントロを弾いた後に間違えて アーハーヌー! と歌ってしまわないだろうか、と変な恐怖心に取り憑かれる。

一旦気を鎮めるために外に出ても無駄である。
外でもみんなが安波節を弾いているためである。

みんなものすごい集中力である


ステージははちゃめちゃに緊張した

待合室では、脳内ででんさ節のスマムチー! を繰り返し繰り返しリピートさせた。正直言うと、ソワソワしまくり挙動不審で目は泳ぎまくって集中どころではなかった。

私の先生からも「絶対受かる!自信を持て!」と言われても、緊張しすぎて「ハッ、ハッ、ハイ!⤴︎」、と返事も上擦っていた。


大学受験以上に緊張したかもしれない。


半年以上の練習がたった2分で水泡に帰すかもしれないと思うと恐ろしすぎた。
しかも、私は隠岐からはるばる24時間以上かけ沖縄に来ているのである。失敗するわけにはいかない。


🎙「29番 安波節」

私の直前の人がマイクで呼ばれステージに上がってゆく。

直前の人の演奏は安波節であった。
というか、1番から29番まで全員「安波節」だった。

とりあえず、脳内ででんさ節の\ スマムチー!/を連呼する。間違っても\ アーハーヌー! /から歌い始めてはいけない。


自分の心臓の音が聞こえる。
手は油まみれだ。
本番で三線を滑って落としたらどうしよう、、とあらぬ心配もする。



🎙「30番 でんさ節」


ついに私の番号が呼ばれた。


舞台袖からステージ中央にスタスタ歩く。


ステージの中央に立つ。

観客席の後ろの方に私の三線の先生が見守っているのが見える。


礼をする。


深呼吸をする。


三線を構える。


ゆっくり、


弦をはじく、



演奏後


気がつけば演奏は終わっており、ステージからはけていた。


緊張と集中でステージ上はほぼ無意識だった。
指が楽譜を覚えていてくれて勝手に弾いてくれていた(何ヶ所かミスした気もするが)。


結果は2日後に判明するのですぐには分からないが、私の演奏を聴いてもらった人々からは「上等だったよ」と沖縄らしいお褒めの言葉を授かった。

私の先生からも「合格おめでとう!」とまだ確定した訳ではないが合格を祝われた。私の先生の経験からしても私の演奏が合格の基準に達していると思ったのだろう(そしてちゃんと合格していた!)。


合格後


新人賞には合格したがこれはまだスタート地点に立ったに過ぎない。

最優秀賞を合格して「やっとスタート地点に立ちました!」と晴々した顔で答えていた先輩がいるが、最優秀賞でスタート地点なのであれば、新人賞はなんなのだろうか。


ともかくこの後も修行が続いていく。


過去千年以上にわたって、先人たちの生活の苦しみ、素朴な喜び、感動が染み込んだ奥深い唄と三線の世界に片足(つま先程度)突っ込めたことに深い感慨を覚えている。


追記:


八重山そば、めちゃくちゃ美味い。

先生の故郷の日本最南端の有人島の波照間島を訪問。高那崎の景色は圧巻だった。

海の荒々しさを感じる

波照間島では本当に偶然開催されていた「でんさ節大会予選会」に飛び込み出場。コンクールで練習してきたでんさ節を波照間島でも弾くこととなった。

歌詞を間違えた。コンクールで間違えなくて良かった。


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