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ユヴァル・ノア・ハラリ自身が語る『21Lessons』

書店に行けば、ユヴァル・ノア・ハラリの『21Lessons』が平積みされているのを見かけます。彼の過去の著書『サピエンス全史』『ホモ・デウス』が話題になったことが大きいのでしょう。それぞれの本は人類の過去と未来を語った本です。満を辞して出版された『21Lessons』には我々が直面する課題が記されています。この本を出版した際、彼をこんなことを語っていました。

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情報が溢れる現代には明確さが必要になります。

今、何が起きているのか?
最も重要な課題と選択は?
注目すべきことは?

考える余裕さえ無い人が何十億もいます。なぜなら、やるべきことが多過ぎるのです。仕事や子育て、年老いた親の介護など。

残念ながら歴史は無情です。

あなたの事情がどのようなものであれ顧みられません。子育てに夢中でも今後の展開から逃れることはできません。不公平な話ですが、それが歴史というものです。

本は衣食住を提供できませんが、明確さは提供できます。

世界に公平さをもたらす助けになれます。この本が契機となって、たとえ少数であっても人類の将来を考える人が増えることを願います。

『21 Lessons』には、人類の今考えるべき21の課題を記しています。彼が本書の出版を契機に語ったインタビューを記してみようと思います。

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Q:政治家たちは21世紀の新しい現実に対して十分な準備ができているでしょうか。

A:準備はできていません

ほとんどの政治家は昔話を売り込むばかりで、未来を語ろうとしません。民衆が激変を嫌い、未知のものを恐れるからです。彼らが臨むのは、安定と確固たるアイデンティティです。そこに人生の意味を見出すのです。そのため、政治的風潮はいまだに懐古的で未来より過去を重視します。

たくさんの国々(アメリカ、イギリス、ロシア、インド、ポーランド)では、ナショナリズムや宗教が見直され、過去の栄光の回復がうたわれています。イスラエルでも同じです。聖書やユダヤ教を根拠にして、政策が正当化されています。ナショナリズムや宗教は快い単純な言葉で世界の動向を伝えます。この世界における我々の位置を示し、人生の意味も教えてくれます。

さらにナショナリズムや宗教の物語は絶対的な真実だとされています。何千年も変わることなく伝えられた真実は21世紀の文明でも対抗できないと言われます。それらの物語は嵐の海でイカリを提供すると主張します。残念ながら懐古的なファンタジーでは21世紀の課題は解決できません。世界的な気候変動、AIの導入による数十億の失業者への対策、新しい遺伝子工学の活用法、聖書やユダヤの経典に答えは見つかりません。それらを書き残した人々は地球の温暖化を知りません。遺伝子やコンピューターも知らなかったのです。

21世紀は恐ろしい時代です。しかし、今さら逃避を図っても選択肢は無いのです。現実から目を背けないでください。新たな政策モデルを構築し、未体験の課題に立ち向かわなければなりません。

Q:この10年の間に生まれた人に対してどんなアドバイスをしますか?

A:精神の健康と感情知能を高めてください

2040年の世の中や雇用の動向など誰も知りません。若者に教えることができないのです。従って、今学校で何を学んでも、40歳になったら通用しないでしょう。どうしますか?

私にできる最適な助言をします。
精神の健康と感情知能を高めてください。

昔から人生には2つの季節があります。学ぶためと働くための季節です。まず始めの季節でアイデンティティを構築し、生活や仕事のスキルを習得します。それを頼りに次の季節で生計を立てながら社会に貢献してきました。しかし、2040年にはこれは時代遅れのモデルです。

生き残る方法はただ1つ。
生きている限り学ぶことを忘れず、50歳になっても自己変革を繰り返すことです。

そうは言っても変革はストレスで相応の年齢になればたいてい好まれません。10歳の頃ならば毎日が目まぐるしく移ろい、心と体、他者との関係も変化していきます。流動する世界で自己の開拓を続けます。しかし50歳のあなたは変化より安定を好みます。ところが21世紀ではそう簡単にいきません。これまでの自分にしがみつき、安定した職や世界観を守りますか?そんなことをしたら世界はあなたを置いて飛び去ってしまう。

これからの時代に必要なのは心のバランスとレジリエンスです。果ての無い嵐の海を進むには、非情なストレスに耐えていかねばなりません。

Q:いま、人類が直面している最も重要な問題とは?

A:データの支配者は誰かということ

データを操る人間が未来を主導します。現代ではデータが最も重要な資産です。

昔は土地が何より大切な資産でした。当時の政治は土地をめぐる争いです。広大な土地が少数の地主に独占され、社会が貴族と平民に分断されました。

2世紀前から機械と工場が土地より重視されました。国は産業の統制に照準を合わせたのです。工場の所有権が一部の人に集中し、社会が資本家と無産階級に分かれました。

21世紀にはデータの価値が土地や産業の価値を上回ります。国家はデータの流れを支配しようと狂奔するでしょう。データが一部の人に独占されたら、人類は個別の階層ではなく異なる種に分断されます。

Q:なぜ、そんなにもデータが重要なのでしょう?

A:人間やその他の生物をハッキングできるから

私たちの時代はコンピューターだけでなく、人間やその他の生物をハッキングできます。コンピューターのハッキングを超えて、私たちは新時代に突入しているのです。

人間のハッキングに欠かせない条件は2つあります。
①情報処理の高度な能力
②大量のデータ(特に生体データ)
生体データとは、どこへ行き、何を買ったかではありません。体内で何が起こっているか、脳内まで調べます。

今まではコンピューターの能力もデータも十分でなく、人間のハッキングはできませんでした。スペインの宗教裁判、旧ソ連のKGBも身辺を嗅ぎまわるだけでした。生物学を知らなかったからです。高度の計算能力がなければ生化学の領域に辿り着けず、人間の感情や選択を操れませんでした。

しかし、これからは違います。情報科学が著しく進歩しました。機械学習と人工知能の発達が目覚ましく、情報を処理する能力が格段に上がりました。生物学や脳科学も進歩しました。身体のメカニズムの情報を的確に捉えて、脳や体内を私たちに見せてくれます。情報工学における革命と生命工学の革命を融合させれば、人間をハッキングできるのです。

これを可能にする鍵があります。情報とバイオを統合させるデバイスで、生体センサーと呼ばれるものです。生物学的プロセスを電子情報に転換するのです。その後はコンピューターが記憶し分析します。

十分な情報と高い能力をコンピューターが持つとどうなるか。外部のシステムがあなたの感情や決定や意見をハッキングできるようになります。あなたが誰かを知り、誰よりもあなたを知ることができます。デジタル独裁制の世界がすぐ近くまで来ています。

Q:自由民主主義は死に絶えたのでしょうか?

A:今のままなら滅ぶが立ち直れる

自由主義は今のままなら滅びます。しかし自己を改造すれば新時代に対応できます。自由主義が他より優れているのは、独善的でなく柔軟な点です。過去1世紀の間に何度も危機を乗り越えては再生してきました。

自由主義の最大の危機は、第一次大戦、ファシズムの1930年代、共産主義が台頭した50年から70年代です。

今、自由主義の危機を感じたら、1918年を思い出してください。1939年や68年がどうだったのか。自由主義は今後も立ち直れます。再生の方策がわかりさえすれば。

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たくさんの情報であふれる時代、権力を持つものはデマやたわごとを流すことに熱心です。この時代を生き延びるには、何が課題かを知ることが必要です。この本はその課題を明確に私たちに突きつけてきます。少なくとも知っておかないといけない。


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