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発展しない・できない疑似科学

邪馬台国・卑弥呼の死亡は西暦247か248年のどちらかと言われていますが、その両方で日本では皆既日食が観測されています(諸説あり)。
 
特に247年の方は皆既日食のその食分(太陽の欠け具合)最大の瞬間と日没とがほぼ同時。
 
この天体現象と、アマテラスの天岩戸伝説とを結びつける天文学者もいます(※)。
 
アマテラス(天照大神)は記紀に登場する太陽神・皇祖神であり、その五代後が神武。

卑弥呼に比定する人もいます。
 
アマテラスが弟・スサノオの乱行に狼狽して天岩戸にこもった伝説、天岩戸伝説が、実際に起こった日食を伝承したものだという説もあります。
 
日本の神話に出てくる神々の性格は様々で、実に人間臭いその素行は、単なるフィクションではなくモデルとなった歴史上の人物がいるのだろうな、と私には感じられますが、どうでしょうか。

類似した話で、聖書の記載が歴史上の事実の反映とする論もあります。

ロマンチック?いやいや、中にはあやしい言説も。


木星の一部が金星に、だと!?

ロシア出身のアメリカ人精神科医、イマヌエル・ヴェリコフスキーはその著書「衝突する宇宙」(鈴木敬信訳、法政大学出版局、2014年)の中で、聖書の中の様々な出来事に関する記述が、実際に起きた天体現象と結びつくとする自説を展開。
 
そのあらましとしては、
 
「紀元前1500年ころ木星から彗星が分離。
 
この彗星はいずれ金星となるのだが、金星軌道に達する途上で地球に接近し、その尾の中に地球が入った。
 
その結果として、天から原油が降り注ぎ、中東地域に油田が形成された。
 
重力の影響で地球の自転速度が遅くなり、地震が多発。
 
モーゼがイスラエルの民を率いてエジプトを脱したとき、紅海を真二つに分けて通過したのも、彗星の影響。
 
彗星接近と共に地球の自転速度が変化し、そのため気温が上昇、岩石が溶け、海が沸騰した。
 
カエルやネズミが繁殖しペストが蔓延。
 
彗星の尾には昆虫の卵や幼虫が含まれていて、それが地表に落下し、現在のように繁殖した。
 
彗星はいったん離れた後50年後に再び接近、この時地球の自転が静止した。
 
自転が戻ると隕石が降り注ぎ、地震、津波、火山爆発などの異変が多発した。」
 
一読して荒唐無稽、あり得ない内容なのは明らかであり、こうなるともうロマンとは言っていられません。

あら探しなぞしなくても、自然に出てくるあら、粗、アラ‥

日食とは異なり、ここに記されている諸々の現象は、まずもって物理法則を満たしていない。
 
木星の一部が彗星になるというのも荒唐無稽だし、それがのちに金星になったと言ったって、そもそも木星と金星とでは組成が違い過ぎる。
 
金星ほどの大きな質量の物体が木星重力圏から脱出速度を得るとなると、そのために必要なエネルギーは膨大なものとなり、その供給源が説明できません。
 
仮に脱出できたとしても、木星からの脱出速度は秒速60キロメートル。
 
木星からの太陽系脱出速度は秒速63キロメートルで、今度は太陽系にとどまることが難しくなる。
 
彗星が現在の金星のところで安定な周回軌道に乗ったというのも、その接近で地球の自転が減速したり加速したりというのも、力学的に説明不能。
 
もし仮に自転が停止したとすると、慣性により地上の人間を含めた生物は地上にとどまっていることはできない。
 
といった感じで、他にも科学で説明不能なことがたくさん書いてあります。
 
そしてとどめを刺すのが、それらの現象の記録が残っていない理由として彼が挙げるのは、事件の与えた精神的ショックが強すぎて、当時の世界中の古代人が記憶喪失になったから。
 
そのために明確には書き留められず、伝説や神話といった象徴的な形でしか記録が残されなかった、と。
 
無理やりすぎるだろ。

信条のオカルト化

ヴェリコフスキーの説発表の1950年から彼が亡くなる1982年まで、天文学に関する知識は膨大に増えました。
 
彼の記述のでたらめさ以上に私が特に注目したいのは、それらの改善された天文知識を反映させて、彼が自説を修正するようなことが一度もなされなかった、という事実。
 
学問の発展による改質を拒絶するというのは、疑似科学やオカルトの一般的な傾向であり、彼の言説は見事にそれを踏襲してしまった。
 
超心理学者・石川幹人によれば、過去に定められた「教え」を頭から信じ込むと、その正当性を支える原理が秘匿されているため、時代に応じた教典の改訂ができず、オカルト化する(※2)。

原理を公開する科学、非公開のまま凝り固まる疑似科学

冥王星は2006年準惑星となりました。
 
これは従来惑星にカテゴライズされていた冥王星がその軌道付近で重力的に支配的な存在ではなく、同様の天体が多数存在することが分かった、という天文学の発展に起因します。
 
これに対し、従来より惑星が大きく影響する占星術は、惑星ではなくなった冥王星を今後もカウントするかしないか、するのならなぜほかの準惑星はカウントしないのか、しないのであれば従来の解釈は誤っていたのかどうかといった説明をしなくてはならなくなります。
 
知識の深化が疑似科学やオカルトに、解釈の違いによる流派を生んでいく所以です。
 
よく「科学とオカルトは紙一重」なんて言いますが、こうやってみるとそれは無責任な言い分な気がします。
 
それらは峻別されるものであり、そして現に科学性を標榜する宗教が存在する以上、それらを峻別することが疑似科学に安易に陥らない術となるでしょう。

(※)「卑弥呼の日食」、天文教育 Vol.13、No.6(2001)
(※2)「なぜ疑似科学が社会を動かすのか」(石川幹人、PHP研究所、2020年)

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