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人は死後ワームホールを通る?

2023年2月4日号の週刊現代に「死後の世界の仕組みが判明!」と言う記事が載りました。

ある神学者の臨死体験感が「科学的に」紹介されているのですが、かなーり眉唾。

ホログラフィック宇宙とアカシックレコード

この記事で紹介されているのがホログラフィック宇宙という宇宙像。

ホログラフィと言うのは光の強弱のみならず位相情報までをも二次元物体に記録させ、それにより立体的(三次元的)情報を再現できる技術。

これとのアナロジーで、三次元の宇宙空間で起こる物理過程が、どこかにある二次元的境界面上の物理法則により完全な形で記述できるというのがホログラフィック宇宙の考えです。

この考え自体はブラックホールの研究、特にその熱力学的な側面からの研究に端を発し、今も物理学上の仮説として研究の途上にあります。

これに関連して、ラズローと言う哲学者がアカシックレコードと言う概念を生み出しました。

どこかにある二次元の平面上物体に宇宙の森羅万象が、過去から未来に渡ってすべて記録されている、とされます。

この考えは彼が2004年に出版した”Science and the Akashic Field” (Inner Traditions)のなかで紹介されており、日本でも割と知られているところ。

神学者の臨死体験論

週刊現代のこの記事では、このアカシックレコードの考えを「臨死体験」にリンクさせている神学者・斎藤忠資が紹介されています。

臨死体験でよく語られるのが、身体を抜け出て魂となった当人が暗いトンネルに入っていき、いずれ行き先に見えてくる出口から光に満ちた世界に至る、というような内容。

2006年の彼の論文では、このトンネル状のものを「科学的に解明」と称して、ワームホールを使って「説明」しています(※)。

ワームホールとは、一般相対性理論の時間軸に対する対称性からその存在が仮想される天体。

入ったら抜け出せないブラックホールとは異なり、入り口と出口があるトンネル状の天体であり、異なる宇宙空間同士を結ぶとされています。

あくまで理論上想定されるというだけで、現状ではその存在は確認されていません。

この論文では臨死体験や体外離脱と共に、ブラックホールやワームホールに関する書籍も多く引用されており、それなりに勉強したのでしょう。

しかしその内容は、はっきり言って「科学的解明」とはほど遠い。

まず、臨死体験で語られる内容が本当にその人の身の上に起こった事実であるというのが前提になっている。

まあそれはよしとしましょう。

しかし更に、語られているトンネル通過体験談が、身体から乖離した魂がワームホールを通って別世界に行く経験を述べたものだよと「解明」して見せます。

科学と称するなら最低限、言葉の定義と検証可能性が担保されねばならないでしょう。

検証可能性については、たとえ現在の技術では無理だとしても、将来の技術の進歩でおそらくこういう方向での進歩があれば検証可能となる、というような展望は少なくとも必要です。

それすらないのであれば単なる言いっぱなし。

氏の論議は、臨死体験で語られるトンネルを、そのイメージに近い感覚的印象を与えるワームホールになぞらえただけ。

イメージとしては「分かりやすい」感じはするけど、そんな感覚的な議論だけでは科学とは言えません。

本当は、臨死体験談の内容が事実かどうなのかも深く考証しないとならないところでしょう。

それが事実であるとの前提に立ったとしても、魂がワームホールを通過して別世界に至るという事象をどうやって検証するのか、その検討は必要です。

言いっぱなしはエセ科学の骨頂

それ以前に「魂」(氏の言葉では「自己意識のエッセンス」)とは何ぞや?

物質的身体からは独立に存在すると称するそのようなものを仮定したら、臨死体験なんて何とでも説明できるでしょう。

身体からは独立に存在する「非物質的」な「心」、「魂」、「自己意識のエッセンス」と言うようなものの存在はどのようにしたら検証可能か、については、他のエセ科学論法と同じく一切の言及なし。

ただ、「量子真空のエネルギーから構成されている可能性はあろう」とか、「宇宙の根本的構造にプロト意識が関係している」と言うのみ。

もっとも難しくてもっとも問題の核となる「心とは何ぞや」が棚上げされ、科学では解明不能なアンタッチャブルマターに神格化されているのです。

「ブラックホールは物質を吸い込み、ワームホールは心が通る」も根拠なし。

イメージ先行の「科学的な議論」にご用心。

(※)「ワームホールを通じて別の宇宙へ」(広島大学大学院総合科学研究科紀要. Ⅲ、文明科学研究、1巻、pp29 – 41)

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