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イメージ先行?「波動生命体」論

「ウイルスは波動生命体」論、SNSで広まって久しい。
科学的なようで科学とは無関係。
他愛のない論調だが、影響を考えると見過ごせない疑似科学特有の問題点とは?

定義のあいまいな「ウイルス=波動生命体」

「ウイルスは生物ではない。『波動生命体』である。
生物に取り付き、その生物のDNAやRNAを勝手に使って、勝手に増えて、勝手に出ていく。

ということは、取り付いた生物の『意識(波動)がそのまま反映』される。

『不安、恐怖、攻撃』の意識(波動)を持った人に取り付いたウイルスはその波動を受け、そのまま『不安、恐怖、攻撃』の波動を持ったウイルスに変化する。

逆に『愛、平穏、安定、調和』の意識(波動)を持った人に取り付いたウイルスは、『愛、平穏、安定、調和』の波動を持ったウイルスに変化する。

だから『怖い、怖い』とウイルス防御に念を入れている人ほどウイルスに侵され、平然として安定した心で生活している人は、たとえウイルスが取りついても肉体的影響を全く受けない。」

横前忠幸氏のFB投稿より(一部略)

だからPCR検査もワクチンも必要ない、と続きます。

まず、心の持ちようでウイルスの影響がなくなる、などというエビデンスはありません。

それにしても疑似科学でよく出てくるキーワード、「波動」がここでまたしても。

実体のない「波動」論議

科学の世界で使用される「波動」は、それがどのようなものなのか、どのようにしたら検出されるのかなどの科学的属性が明白です。

対して、疑似科学で用いられる「波動」には実態がありません。

ウイルスの波動とはどのようなものか、媒質やエネルギー値、波長は?

その検出方法は?

何一つ明確にされていません。

いきなり「波動生命体」なる言葉が出て来て、「波動」のイメージが独り歩き。

「人間にも固有の振動数がある」、これもよく疑似科学で用いられる発想ですが、もちろん根拠なし。

「意識(波動)」とわざわざ意識にカッコ付けして波動と言い換えていますが、意識イコール波動とはそもそもどういうことか?

本当は「意識」自体も定義をしなければならない事案です。

まあしかし、ここでは不安の意識を持つ、愛の意識を持つ、といった、何かに注意を向ける認知のはたらきを「意識」と呼んでいると理解することにしましょう。
しかしその、「不安の意識」や「愛の意識」などにリンクした「波動」とは何なのか?
何がどうなっている状態なのか、全く不明です。

そしてそれが、どのようなメカニズムでウイルスの「波動」なるものに影響を与えるというのか。

「波動生命体」論者はこういった科学イシューに何一つ答えてくれません。

「気の持ちよう」とウイルスの影響の度合いに因果関係はない

仮にメカニズムが不明だとしても、統計的に有意な結果が出ていれば考慮するべきでしょう。

外科手術や歯科などで永年使われている麻酔。
あれなどは、その効果とリスクが研究により究明されており、専門家がきちんとリスクマネージメントした上で使用されています。
しかしその詳細な動作メカニズムは実のところまだ分かっていません。
「効果」があるから、使っているわけですね。

このように、たとえメカニズムが不明でも効果があるのであればこれを利用する方向で動く、科学にはこのような柔軟性があります。

しかし「気の持ちよう次第でウイルスの影響が低減」論については、メカニズムが不明なだけでなく、その結果に対するエビデンスもない。

一体、不安に満ちた人、愛に満ちた人をどう定義し評価するのか、何人集めて統計を取ったのか、その人たちへのウイルスの影響や統計の有意性をどう評価したのか?

秘匿されているというよりは、おそらくそんな調査などしていないのでしょう。

あったとしても、散発的な体験談の寄せ集め。
体験談とは、「被験者一人」の検証実験をいくつかやり、(都合の良い)特定の結果が出たものだけを抽出し集めたようなもの。
統計と呼べる代物ではありません。

要するに、ここではただ「波動」の観念を感覚的かつ便利に使っているだけなのです。

科学の大勢をまずは信用してもよいのでは?

これ以外にもSNS上では手を変え品を変え、「心構え次第でウイルスの影響などどうにでもなる」的な考えが出回っていますが、非常に危険です。
それは妄信を生み、科学に基づいた適正な対処を遅らせる要因になり得るから。

個人の発する情報を自分の好みで取捨選択するのではなく、まずは科学の知見を取り入れた公共機関の情報を参考にするのが良いのではないか、と思いますがどうでしょうか。

科学は科学であるがゆえに、日々研究が進み常に発展していくもの。
そういう意味では、その主張内容が時系列で変化することはあり得ます。
そしてそれが科学への誤解や科学不信を招いているのは事実でしょう。
「あの時はこう言っていたのに‥」と。

しかしその場合でも、その変化の内容、なぜ変化が起きたのか、その根拠となる研究結果を科学者は白日の下に晒し、検証の便を図ります。

秘匿されたメカニズム、原理があいまいで実績も不明な「効果」を、謳われるがまま信じるのは果たして得策でしょうか?

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