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「信じたい」が出発点、の危険性

子供の頃、祖父母の家に遊びに行って夜寝ていると、真っ暗な部屋の中で何かが光っていました。
 
いや、別に怪奇話などではなく、外から入ってきたわずかな光が、部屋の中の何かに反射してるんですね。
 
その光る点をずっと見ていると、なぜか動いているように見える。

 これも別に、なにか超常現象的なことではなく、部屋の中の棚にある何かの反射だとは分かっていて、静止しているはずなのだけど、それがどうしても細かくちょこまかと動いているように見えてしまう。
 
その、止まっているはずのものが動いて見えるさまを楽しんでいたのでした。

そのUFO実は金星でした、のワケ

暗闇で光る点を凝視すると動いているように見える、そんな経験ないですか?

この現象はどうやら一般的に存在するもののようで、自動運動現象と呼ばれる心理現象、なおかつその原因はまだよく分かってないらしい(※)。
 
現代社会では漆黒の暗闇の中に身を置くこと自体まれであり、光点の自動運動を体感することも少なくなったのですが、航空機のパイロットにとっては一般的な現象であり、空間識失調の誘因ともなり得るため、航空心理学的には大きな問題です(※2)。
 
そしていわゆるUFO目撃談に、この自動運動現象は一役買っています。
 
全天で太陽と月以外で最も明るく輝く金星は、誤認目撃談の主要な部分となっています。
 
対象物のない中空に浮かぶ光点は距離感も定まらず、上述の現象により動いて見える。

となれば、UFO誤認に結びつくのもうなずけますね。

日航機長が見た”UFO”

昔TV番組で恒例だった、たま出版・韮澤社長と早稲田大学・大槻義彦教授のバトル。
 
韮澤氏が持論の(宇宙人の乗り物という意味での)UFO実在論を補強しようと、航空機パイロットによる多くの目撃情報があることを挙げていました。
 
しかし目撃情報を積み上げるだけで論証というのは、無理があると言わざるを得ない。

1986年11月、アラスカ上空で、ボーイング747ジャンボ機日航貨物便が、巨大なUFOに追いかけられたという「事件」。
 
寺内機長の証言では機体の左前方4~5キロメートルほどのところに光の帯のようなものが2つ現れ7分ほど並走した後、機の正面300メートルほどのところに瞬間移動し強烈な光を発した、と。
 
アンカレッジ管制センターに問い合わせたが、センターのレーダーには何も映ってなかった。
 
機長が飛行機のレーダーを確認すると、14キロほど前方に緑色の巨大な物体が映っていた。
 
アンカレッジ空港に到着寸前に突然姿を消した、というような内容。

目撃談は証左にならない

CIAがこの事件の隠ぺいを図ったという尾ひれまでついたこの噂の真相は、やはりパイロットの見間違い。
 
飛行機の当レーダーは、金属などの硬い固体は赤で、雲などレーダーの反射が弱い物体は緑で表示する仕組みになっていた。
 
とすると証言から、機長がレーダーで確認したものは気象現象である可能性が高い。
 
また当時この空域にいたのは日航機だけではなく、ユナイテッド航空機と米軍輸送機もいた。
 
UFO出現の報を受けてこれら2機は日航機近辺まで接近したが、日航機以外の飛行物体を確認することはできなかった。
 
そしてこの機長、なんとこの2カ月後にも、ほぼ同じエリアでUFO誤認事件を起こしていた。
 
このとき見たのは、近傍の石油掘削施設の灯火が雲の中の氷の結晶に反射して見えたものだと判明。
 
真冬の北海道で観測されるダイヤモンドダストとかサンピラーなどと同じ現象ですね。
 
あくまで可能性ですが、この機長の当初の目撃談も同じような見誤りと考えるのが妥当でしょう。
 
CUFOSという民間のUFO研究団体の調査では、単独のパイロットによるUFO目撃報告の89%、複数パイロットの場合でも79%が他のものの誤認であったことが分かったとします。
 
これは誤認であることが明確に判明した割合であり、それ以外が「宇宙人の乗った乗り物」だったというわけではありません。
 
韮澤さんのようなビリーバーが多くのパイロットが目撃していると声高に叫んでも、実態はそのようなものだということです。

最後に、いつも言うことですが、やはり単に未確認の飛行物体という意味の”UFO”(Unidentified Flying Object)と、宇宙人の乗った乗り物としての用語は分けて欲しい。

(※)「自動運動現象の成立機序に関する心理物理学的研究の展望」、高橋啓介、愛知淑徳大学論集、文化創造学部第3号、p79、(2003)。
 
(※2)「点滅光による自動運動について」竹内由則、荒毛将史、福崎美稔、The journal of cultural sciences / 立命館大学人文学会 編 (641), 516-506, 2015-03。

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