健康情報フローチャート
明治大学教授・石川幹人はその著書「なぜ疑似科学が社会を動かすのか」(PHP研究所、2020年)の中で、新聞広告に見られる疑似科学の時代変遷について述べています。
近年では新聞やテレビ等のマスメディア業界が悪徳商法に敏感になり、そういうものにカテゴライズされるビジネスの広告は掲載しないという姿勢を明確にした、と。
そのため昔は見られた催眠術や霊感占い、魔除けグッズ等の広告が消えた、とのこと。
1980年代の漫画雑誌の広告で、札束(らしきもの)で一杯のバスタブに使っている男が狂喜している写真があったけど、ああいうのはもう見かけませんね。あれ何の広告だっけ?
いかめしい印鑑職人がハンコ彫ってる写真付きの、開運印鑑のでかい新聞広告もありました(まだある?)。
「開運印鑑はデタラメだ」と書いた看板を掲示する印鑑屋もあったくらい、つまりはまっとうな業者に悪影響を及ぼしていた。
現代の悪徳商法はズバリ「サプリメント」
その代わりに多くなったのがサプリメントを含む健康食品の広告。
これは確かに多い。
TVでも、地上波だとそうでもないけどBSだとやたら多いですね、サプリのCM、元力士が出て来てさ。
サプリが疑似科学とは言い過ぎでは?と思うかもしれません。
本来サプリや健康食品は、不足する栄養素を補う程度のもの。
広告でも「○○という症状」→「それは△△(栄養素)が不足しているから」という論調で、健康志向に訴えます。
しかし本来健康維持は、バランスの取れた食事によってなされるのが基本。
そしてサプリや健康食品の利用状況は、残念ながらこのバランスを回復するようなものにはなっていません。
機能性表示食品という、サプリ業者サイドが調査データを提出して消費者庁が受理した食品カテゴリーがあります。
調査は業者任せなので、データそのものは公開されるがそのままでは科学的に信頼の置けるようなものではありません。
2024年3月22日付で小林製薬株式会社が販売する、紅麹を原料とする機能性表示食品について健康被害が発生したとして、製品の回収をする旨が同社より公表されました。
この製品も機能性表示食品。
そして世の中に出回っているサプリや健康食品は、この機能性表示食品にすら登録されない代物。
お金だけかかって内容は無意味、もしくはむしろ健康に有害なケースが多々あるのです(この辺の詳しい事情は資料(※)を参照)。
愛用者の声は証拠にならない
ついでに言うと、こういう広告で論点を補強するのに必ずと言っていいほど使われるのが愛用者の声。
どんないきさつであれ「愛用者」なのだからポジティブなこと言うに決まっている(もちろんポジティブな内容しか載せない)。
こういうものは、心のバイアスを駆使して買わせるための手段でしかありません。
この辺の事情については拙ブログ「エビデンスは万能にあらず」参照。
冷静さを取り戻すフローチャート
向こうがバイアスを利用してくるなら、こちらも心理的バリケードで防衛する必要があるでしょう、無駄な出費と健康被害から身を守るために。
左巻健男著「あなたもだまされている陰謀論とニセ科学」(ワニブックス、2022年)に、参考になるフローチャートがあるので、簡単に項目だけ紹介しておきます。
1) 具体的な研究に基づいているか
2) (1.にYesのばあい(以下同様))研究対象はヒトか
⇐培養細胞や動物による実験の結果は確度が低い
3) 学会発表だけではなく論文として発表されているか
⇐学会発表はある意味だれでもできる
4) その論文雑誌は定評のあるものか
⇐雑誌にも格式があります
5) その研究はコホート研究(集団を対象とした追跡研究)や無作為抽出、盲検法などを使っているか
6) 複数の研究グループによるものか
これらをクリアした結果については、一応信頼できるとされます(がそれでも最終判断ではありません)。
複数研究で支持された内容も覆ったことは過去にはあります。
5)と6)は、一般の人では難しいでしょう。
「できない」のであればなおさら、愛用者の言葉に肩入れせず近寄らない、という判断が妥当なところ、と言えるでしょう。
(※)「疑似科学的広告の課題とその解決策」(『情報コミュニケーション学研究』、明治大学(2009))
○新刊 脳は心を創らない ー左脳で理解する「あの世」ー
(つむぎ書房、2023年)
心の源は脳にあらずとする心身二元論と唯物論を統合する新説、「PF理論」のやさしい解説。テレパシーやミクロ念力などの超心理現象も物理学の範疇に。実証性を重視し、科学思考とは何か、その重要性をトコトン追求しつつ超心理現象に挑む、未だかつてない試み。「波動を整えれば病気は治る。」こんな「量子力学」に納得しちゃう人、この本を読んだ方が良いかも!?あなたの時間・お金・命を奪うエセ科学の魔の手から自分を救うクリティカルシンキング七ヶ条。本書により科学力も鍛えられちゃう。(概要より)
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