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使いたくなる「知識の魔力」

「知識の魔力」に関する面白い実験があります。

科学用語の魅力

アメリカの認知科学者・D・ワイスバーグらは、人間の認知に関するある現象について、それがなぜ起こるのかを解説する文章を被験者に読んでもらい、そしてその良し悪しを判定してもらいます(※)。

被験者に呼んでもらうこの文章にはまず、学術的に妥当なもの、不適当なものの2種類があり、またそれぞれに科学用語を含むものと含まないものの2種類があります。

つまり、併せて4種類の文章を用意したのです。

2種類の学術的に妥当な文章は、科学用語の有無を除けば、全く同じ内容のもの。

学術的に不適当な方もしかり。

そして、これら4種類の文章が被験者にどれほど説得力を持つものであるかを測定しました。

その結果はと言うと‥、

脳神経科学などの知識が全くない一般の人の場合は、不適当な解説文でも科学用語が使われていると高く評価する傾向があり。

それに対し専門家は、科学用語の有無にかかわらず、不適当な解説は低く評価しました。また、面白いことに学術的に適切な解説文に対しては、科学用語が含まれる方を含まれていない方より低く評価したのでした。

専門的見地から、科学用語の使い方に問題ありと判断したのです。

さらに、一般人と専門家の間と言える、脳神経科学の授業を半年間受講した学生についても測定しました。

その結果は、なんと専門家とは真逆のものでした。

不適当な解説文でも科学用語があれば高く評価し、素人と同様の反応を示す一方、適切な解説文の方も専門家とは反対に、科学用語が含まれている方をより高く評価したのです。

生半可な知識はない方がマシ?

この結果は何を意味するのか?

専門知識(ここでは脳神経科学の知識)を持っているということと、その知識を適切に使うこととは全く別の能力だということ。

こう言ってしまうと当然のことのようにも思えますが、より重要なのは、むしろ知識があることによりその適切な使い方が妨げられることがある、ということです。

要は知識を使わないほうがより適切な場合でも、知識を使いたい誘惑に人は駆られる、と。

ワイスバーグはこれを知識の誘惑幻惑効果と名付けました。(原語では”Seductive Allure Effect”で、シンプルに「知識の誘惑効果」でも良かった気が個人的にはしますが、正式な和訳を勝手には変えられませんので。)

この効果はその後の研究でも確かめられ、物理学などの自然科学でも存在が認められています。

この効果はつまり、

1) 人は内容の妥当性よりも一見科学的な装いをまとっただけの説明の方を好む傾向がある、そして

2) 中途半端な科学知識を持っている話者は、実際にはその知識を当てはめるのが不適切な場合でも一見科学的な説明をしがちになる、

ということを意味します。

デマ・陰謀論の源泉となることも

これは既報の当ブログ記事「無知の知を知る」でも触れた、ダニング・クルーガー効果とも関連するでしょう。

人間関係や人生の好転に「波動」や「共鳴」などの物理用語を使って指南するエセ量子力学も、ここで言う「科学用語を使った不適当な解説文」に当たるでしょう。

私にはそれらが、聞きかじった量子力学の断片的な知識を、本来無関係な持論にあてはめている我田引水にしか見えません。

量子力学、ひいては物理学の「権威」、知識の魔力を悪用しているに過ぎないのです。

(※)D. S. Weisberg et al., Journal of Cognitive Neuroscience 20(3):470-7 (2008)

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