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「存在」の三形態

「あなたは幽霊を信じますか?」というよくある問い。
 
「信じる」ってのは要するに「存在すると思う」ってことなんだろうけど、それは一体どのレベルでの「存在」を指しているのか?
 
そんな細かいこと考えたことないよ、というかもわかりませんが、超心理学者・石川幹人はこの「ものごとが存在するとはどういうことか」を深掘りし、概念の存在形態を三つに分類しました(※)。
 
それらは「心理的存在」、「社会的存在」、そして「物理的存在」。
 
一番目の心理的存在とは、個人が見たり聞いたりしたその実体験に基づいて信じる存在。
 
幽霊やUFOについて語られる「ある・ない」論争で主張される「ある」はこれ。
 
「私は幽霊を見た」で幽霊の存在を信じる、というようなことですね。
 
三つ目の物理的存在は、客観的に確かめられた、人類に普遍的な意味での存在。
 
物理法則だとか物体そのものだとかが「存在する」、はこれ。
 
で、ちょっと複雑なのがこれらの間にある社会的存在ってやつ。


役に立つのかどうかという新基準

それが物理的に存在するかどうかはとりあえず棚に上げておいて、人間社会で役に立つかどうかという基準で存在を認めるもの、それが社会的存在。
 
例えば文化や法制度など、社会の構成員の間で了解した決め事のようなものは、トラブルや争いを回避し社会をうまく回していく上では欠かせない。
 
しかしそれは、普遍的に存在するものとは言えません。
 
それが存在すべきか否かは人間集団が決めてよいのです。
 
河川敷への不法投棄に頭を悩ませていたある自治体。
 
「不法投棄禁止」などといった立て看板はほとんど役に立ちません。
 
しかし棒で鳥居状のものを作って置いてみると、不法投棄はぱったりやんだ。
 
鳥居という、宗教的ニュアンスを帯びたツールが霊的な存在を暗示し、不正行為をはたらくとバチが当たるというような、得体のしれない超自然的なパワーを想起させるのでしょう。
 
これなども、それが普遍的に存在するかどうかという問いを超越した社会的存在と言えるでしょう。
 
社会的存在の価値基準はそれが社会的に役に立っているかどうか。

科学の条件の一つ:応用性

科学と疑似科学の判定基準にも、この役に立っているかどうかは重要な要素となります。
 
例えば予言。
 
世の中にはあまたの予言が存在しますが、たいていは後出しじゃんけん。
 
震災や事件などを予言し、被害を未然に防いだ(役に立った)事例を系統的に起こすことができれば、予言者としての正当性が認められ、次にはその予言内容がどのように得られたのかとかが科学研究の議題にもなるのでしょうが。
 
しかしそんな話、ついぞ聞いたことがありません。
 
予言が科学の範疇で語られない要因です。

あなたにとっての存在は私にとっての存在ではない

宮城・石巻の遠藤由理さんは2011年、津波により三歳の長男・康生君を失いました(※2)。
 
震災から二年後、仮設住宅の一室で長女と次男を含め家族四人で食事をしている時、由理さんが祭壇の方を向いて「康ちゃん、こっちで食べようね」と声を掛けた。
 
そして皆で「いただきます」と言った瞬間、康生君愛用だったアンパンマンのおもちゃの車が光り、ブーンと音を立てて動き出した。
 
由理さんはそれがスイッチを入れないと動かないことを確認し、「康ちゃんが遊びに来た」ことを皆で確信した、と。
 
その数日後、夫君が次男をお風呂に入れている時、おもちゃが動いた先日の件があったからでしょう、「康ちゃん、もう一回でいいからママにおもちゃ動かして見せて」と心の中でお願いしてみたそうです。
 
するとまた動き出したのだとか。
 
他にも次男や長女が、まるでそこに康生君がいるかのような体験をしているようです。
 
生前康生君は、すまし顔の母親が怒っていると勘違いし、変顔でよく笑わせようとしたのだとか。
 
由理さんはそのことを思い出し、康生君が今でも自分を笑わせようとしているのだと思うのだそうです。
 
不思議体験を通じて、康生君がそばにいるかのような実感を持てるようになり、つらさは変わらないけれども笑顔にもなれるし、仕事も頑張れる、と。

私は個人的にはやはり、おもちゃが自然に動いたのが事実かどうか、事実ならどんなメカニズムで動いたのかが気になります。
 
これは、前述の存在論で言えば物理的存在に関することですね。
 
ひとえにこの宇宙・自然の成り立ちに関する科学的興味です。
 
けど由理さんのエピソードのような話に接すると、物理的存在以外の存在論の重要性に気づかされます。
 
実体験を通じて由理さんは、肉体としては存在しない康生君が今でも身近に存在することを実感している。
 
それをパワーにして前を向いている。
 
ならば康生君は、間違いなく「生きて」いるのです。

(※)「『超常現象』を本気で科学する」、石川幹人、新潮社、2014
(※2)「魂でもいいから、そばにいて」、奥野修司、新潮社、2020

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心の源は脳にあらずとする心身二元論と唯物論を統合する新説、「PF理論」のやさしい解説。テレパシーやミクロ念力などの超心理現象も物理学の範疇に。実証性を重視し、科学思考とは何か、その重要性をトコトン追求しつつ超心理現象に挑む、未だかつてない試み。「波動を整えれば病気は治る。」こんな「量子力学」に納得しちゃう人、この本を読んだ方が良いかも!?あなたの時間・お金・命を奪うエセ科学の魔の手から自分を救うクリティカルシンキング七ヶ条。本書により科学力も鍛えられちゃう。(概要より)

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