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変化の中で捉える科学思考

2020年1月全地球的に広がった新型コロナウイルス。

当初はCDC(米国疾病予防管理センター)もWHO(世界保健機関)も、マスクは医療従事者と感染者の介護者だけがつけるべきで、一般の人には勧めない立場でした。

その後同年4月にCDCが、続いて6月にWHOも、一般の人にもマスクを勧奨する立場へと変更。

専門家でも意見は変わり得る、これはその一例です。

「意見がコロコロ変わる専門家は信用できない。」

そうなんでしょうか?

定説は経典ではない

その「コロコロ」がどの程度コロコロかにもよるんだけどね。

逆にそれでは専門家たるものその主張するところ一途で一貫、をヨシとすべきなのか?

意見を変えることはあり得べかざること、なのでしょうか?

医療の専門家や自然科学系の科学者は、一般的にはその時々のエビデンスに基づいて意見を構成します。

しかしそのエビデンスには信頼性の高低がある、というのは既報の通り(例えば本ブログ「エビデンスは万能にあらず」)。

ノーベル賞の本庶さんも言ってましたね。

常識を疑えとか教科書を疑えとか。

逆に何でもかんでも疑うと、今まで学んできたことは何なんだともなる訳ですが。

基礎はしっかり学ぶ、と。

そこは大事。

しかし定説とされているものを、一切疑いをいれず金科玉条のように扱うと足元をすくわれることがあるよ、と。

認識の深まりと共に変化する対策法

さらに難しいのは、研究というのは日々進んでいくものなので、ある時点で決断を下すのに必要なデータが十分出そろわないことも十分あり得る。

物理学の基礎研究ならまだしも医療の現場、例えば感染症対策とかで急を要する場合など、その条件下で最善と思われる策を講じなければならない。

そういう意味では、ある時点で出した専門家としての決断が最終的なベストの選択となるとは限りません。

その時点でのよりましな選択となっている、ということを気にとめる必要があります。

コロナウイルスについて言えば、武漢で流行り出した頃の専門家の意見はほとんどが、手指衛生と組み合わせない単独のマスク使用は効果がない、というもの(「『エビデンス』の落とし穴」松村むつみ、青春出版社、(2021))。

しかしその後の研究で、くしゃみや咳で飛沫の飛ぶ距離が大きいこと、また呼吸や会話でも、無症状の人からでも感染し得る等新たな事実が浮き彫りになり、CDCの方針転換につながりました(※)。

WHOも、Lancet(世界で最も権威ある医療系学術雑誌の一つ)にマスクの効果に関するメタアナリシス論文(※2)が出たことが後押しとなり、方針転換。

専門家の認識はこのようにして、時系列で変化することはあるということですね。

エビデンスが先か対策が先か

科学なのだから、研究の進展とともに理解が深まり、それまで最善とされていた治療法がより良い治療法にとって代わられる、ということはあり得る。

場合によっては、最善どころか治療法としての資格すら失うケースもある。

プロ野球で、投げ終わった投手が肩を冷やすのは今や常識ですが、昔は温めていたらしい。

(ただしこの点については今だに議論があるみたい(※3)。)

昭和の映像で、注射器使いまわしている小学校での予防接種風景がありました。

今では信じられないけど、当時はこれが普通だったのでしょう。

エビデンスの質の向上と迅速な対応とはトレードオフの関係にあり、一概にどちらを追究すべきとは言えません。

上で見たように、状況によって判断していくしかないでしょう。

そしてもちろん、対策の適用は個々人の状況によって異なってくることも頭に入れておかなければなりません。

呼吸器疾患でマスク着用が困難とか。

ワクチン忌避に関しては宗教的な立場もあるでしょう。

さらに、WHOやCDCといった公的機関の権威を利用した自説の正当化や情報の切り取りなども現にあるので、過度な強調には注意したいところです。

(※)Bourouiba, L., “Turbulent Gas Clouds and Respiratory Pathogen Emissions Potential Implications for Reducing Transmission of COVID – 19”, JAMA, 2020; 323 (18) : 1837 – 1838.
 
(※2)Chu, D. K. et al., “Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person – to – person transmission of SARS -COV – 2 and COVID – 19: a systematic review and meta – analysis”, The Lancet 2020; 395 (10242) : 1973 - 1987.
 
(※3)「投げ終わりの投手は肩を冷やす?温める?どっちが正解?吉井理人氏が石橋貴明と議論「アイシングは‥」」、スポニチ
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/08/21/kiji/20220821s00041000230000c.html
最終更新日:2022年8月21日、最終確認日:2023年5月2日
 

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