金曜夜、町の居酒屋。人は吞めば吞むほど面白くなる。
突然ですが、みなさんお酒は好きですか?
私は大好きです。週に1回、女1人居酒屋探訪。これを楽しみに生きています。
居酒屋のおもしろさを、noteのみんなと共有したい!
今夜は、金曜夜・商店街路地裏の居酒屋へみなさんを招待します!
はじまりはじまり。
というわけで、私は今日も居酒屋の暖簾をくぐる。
時刻は18時。開店したばかりだが、チラホラと常連客の姿がある。
カウンター席に腰掛けると、隣から「おつかれさま」と声をかけられた。
まなみさんだ。彼女のことは何度かこの店でお見掛けしているが、お話するのは初めてである。
※以下、「ま:まなみさん」「私:筆者」「大:お店の大将」
私:まなみさんは今日はお休みですか
ま:ううん、仕事終わり・・・。
ビールで赤くなったまなみさんの顔にわずかに疲労の色が浮かぶ。
まなみさんは商店街で1番人気の蕎麦屋「恵比寿そば」で働くパートさんだ。
勤続15年余りの大ベテランである。
私:まなみさん、仕事終わりの楽しみってなんですか?
ま:楽しみ・・・うーん、家に帰ったら一番風呂に入るよ
私:いいですね
ま:誰も帰ってこない間に風呂でゆっくりして「そろそろ掃除しなくっちゃ」みたいな
私:あー分かります!ぼーっとしてると用事思い出しますよね
ま:ふふふ、ねー。
私:長風呂派ですか?
ま:いや、そうでもない(苦笑)あのー、のぼせる ずーっとおったらのぼせる
「長風呂はのぼせるから」と遠慮がちに微笑むまなみさんの表情をみて、私は彼女の暮らしぶりに思いをはせた。
恵比寿そばの開店時間はお昼の11時から17時。
閉店まで働いてヘトヘトで家に帰り、夜にはお腹を空かせた家族が待っている。
一番風呂は、働き者のまなみさんにとって束の間のリラックスタイムなのだろう。
チューハイのお代わりを頼むまなみさん。店内に彼女のウグイス嬢のように涼やかな声が鳴る。
開店からおよそ1時間が経過し、店内はほろ酔いの空気に。
ここで大将が「恵比寿そば」の話をふった。
と、にこやかだったまなみさんの眼光がキリリと光った。
大:この辺りの蕎麦は「恵比寿そば」さんの一本勝ちですね
ま:朝の10時半から人が並んでます。なに考えてるん?
ま:なに考えてんねんと思う私~~~!
まなみさんの「なに考えてるん?」のツッコミに\ドッ/と沸く常連達。
店内に轟く笑い声につられ、まなみさんもノッてくる。
ま:土日に「いらっしゃいませ」って店を開けるじゃないですか。(開店待ちの人が)ブゥワアァッ来るから!「お席がないです」って断ったら怒られるもん。入れないですごめんなさいお名前書いてお待ちくださいって言うねんけど「なんでやねんなんでおれの前で止めんねん」いやいや満席なんよ!「お名前書いてお待ちください」って言いながら名前書いてもろて。
ま:朝一番に蕎麦なんか食べんでいいねん!朝イチに食うな!思いません?
私:ほんまや!他にやることあるやろ
ま:朝から天ざる食うな!朝イチに来る人が天ざるとカレー丼食べるんよ!
私:さすがに食いすぎ
ま:ほんだら最近は「天ざるの衣を薄くしてくれ」っていう人おんねん!
私が「天ざる棒揚げでお願いします」って奥に言うの忘れたら衣がついてくるでしょ?全部はがすから!
棒揚げより素揚げやんかと思って!それでその後カレー丼食べるから!
私:家で素揚げ食うとれ
ま:そんなことしてまで食べんでええやん!ねえ!?
大:待ってるあいだに名前書いてますやん。そのままおらんようになる人も…。
ま:いらっしゃいますよ!「某」田さんね、ボンダさんです!
(※ホンダさんの伏字と思われる)
ま:名前書いといておれへんようになるか?と思って。私3回ぐらい呼びますよ。ホンダさん!ホンダさん!ホンダさん!ホンダさん!
(※4回呼んでるしホンダさんって言っちゃってる)
いらっしゃらなかったら次の人に飛ばして、名前に〇してもう1回名前呼んでいなかったらまた〇して3回呼ぶんです!いらっしゃらなかったら飛ばします。
(※大事なことなので2回言いました)
飛ばしたあとに来られるから「3回〇書いてあるってことは3回お呼びしたんですよ、でもいらっしゃらないんで。次になりますけどよろしいですか」って言うて、先の人通してから、あとの人よ。
「3回お呼びしたんですよーゴメンナサーイ」歯ァ食いしばりながら言う。
私:なんで3回も呼んでおれへんねんな、そこにおれっちゅうねん!
大:待ってる人を、まなみさんが店の中へお通しするじゃないですか、ぼく昼間買い出し行く時に声が聞こえるんですけど。
ま:ヒイ恥ずかしい!
大:「〇〇様、どうぞー」って。
そこに「神」様って書く人がおられるんですか?
ま:そう、わけがわからん。
私:スベッとる。
ま:ハゲって書く人もいますよ。恥ずかしいけど言わなしゃあない。「ハゲ様いらっしゃいませんかー」って。
私:呼ばれたいか?ハゲ様って。
ま:わからへん。でもほんまにハゲたオッチャンやった。
ま:3回目呼んだ時にいらっしゃって「ずっと待っとる、いつになったら名前呼ぶねん」って。「もしかしてハゲ様ですか」って言うたら「そうや!」って。ハゲハゲ言わすんもいい加減にせえよと思いながら。でも呼ばなしゃあない、名前やもん。
大:「姫」様って言うこともある?
ま:姫って言うてオッチャンがきたりする。でも名前やから呼ばんと。
まなみさん、なんて真面目な方なんだ。接客業の鑑だ。
ま:名前をカタカナで書いてくれっていうのに漢字で書いてて、読まれへん時もあるねん。そのへんで待ってる人に聞かなあかん。
ま:名前の紙持って聞き歩く!
ほんだら他のお客さんが、これってナントカって読むんじゃない?て教えてくださるんですよ。
ずーーーっと歩いて、杉本さんまでは聞きに行きます。
並んで待ってはるから!
(※杉本さん=「杉本青果店」。恵比寿蕎麦から約30mは離れている。)
大:だいぶ遠いところまで並んではるね
ま:そう!萩山さんの店の前、あそこに立ってはるんですよ!
(※萩山さん=「コーヒーショップ萩山」恵比寿蕎麦の向かいにある。)
ま:なんでお店営業しとんのにそんなとこ立つん!?萩山さんのドアの前に5人ぐらいブワーッ立ってるんです!もうやめて~~~!
私:あかんあかん
ま:店の中のヤッチャンに分かるように、「そちらは営業されてるんで、すいませーん!」言うて声かけるねん!
(※ヤッチャン=コーヒーショップ萩山で働く店員さん。萩山家の長女。)
ヤッチャンも気ぃつこて「まなみちゃんは悪くないねんけどお客さんなんとかならへんかな」とかいうて。
「そうじゃないんですよ、うちの店舗が(待合の)部屋がないから外で並ばはるねん。ごめんなさいね」って謝るけど。
歯ァ食いしばって耐えながらも、周りのお店への気遣いも忘れないまなみさん。
私はこのあと間もなく退店したが、入れ違いに入ってきた恵比寿蕎麦の常連にまなみさんが「いつもありがとうございます!」と高らかにあいさつしていたのを聞き逃さなかった。
まなみさん、流石だ。歯ァ食いしばっていないといいが。
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