『熱帯』を求めて。
わたしたちはどこに生きているのだろう。この命は、本物だろうか。さては死んでいるのでは?
何が本当でどこからが嘘なのか。
他人が決めることではない。しかし虚像の世界で過ごす時間が長ければ長くなるほど、現実世界への戻り方が分からなくなる。そういうことは、例えば小説を読んだり映画を観たりしていると、ときどき起こる。ここはどこで、わたしは誰なのか。頭の中が混乱して、足元がふわふわするのだ。
『熱帯』の物語を読み始めると、新たな物語が次から次へと語られる。混乱と興奮、そして不安な気持ちが一度に襲う。元の場所に戻って来られる自信が、なくなってしまうのだ。
わたしたちは現実を生きている。現実とはなんだろうか。今いる世界?本や映画で語られる物語を作る世界か?わたしたちはいつでも"あちら側"に行ける。戻ってきた後の世界は、果たして本当に現実と呼べるのだろうか。もしかすると、戻る前の世界も戻ってきた世界も現実ではないのかもしれない。
わたしたちは曖昧な境界線の中で生きている。何が本当で何が嘘なのか。真実が真実のまま語られることは少なく、嘘が勢力を増してわたしたちの間をびゅんびゅんと駆け抜けてゆく。勢いにのまれて、気付けば嘘が真実になっている。そしてそれが真実のなのである。
まったく不思議な本だった。わたしのちっぽけな脳みそで理解するのは難解だった。しかしわたしも『熱帯』というその本の正体を知りたくて、その不思議さに陶酔していたのかもしれない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます! 泣いたり笑ったりしながらゆっくりと進んでいたら、またどこかで会えるかも...。そのときを楽しみにしています。