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山内マリコさんの「一心同体だった」読み終わって

山内マリコさんの新刊「一心同体だった」を読んだ。
今まで読んだ山内さんの本は、この本でかれこれ9冊目(!)

こんなに読んでると、作者のメッセージだとか、伝えたいこと、大切にしてることは、もうだいたいわかってくるし、この本も過去作と同様に作者のイズムが貫かれてる。

けれども、「一心同体だった」はいつもよりもっともっとメッセージの純度が高かったような気がする。「女性による、女性のための本」って感じ。

この本は、8つの短編で構成されていて、主人公がバトン形式で繋がっていく。主人公の年齢や時代も読むつれに進んでいく。

例えば第一遍は小学生が主人公、その次は中学生、高校生、大学生、社会人、自立、結婚、妊娠・出産…というふうに。

読んでいく中で、「この感情、この状況、心当たりあるな」と思うことがたまにあって、読んでいるうちに、いつのまにか心にできていた、チクチクした鋭いトゲみたいなのを溶かしてくれるような感じになる。

登場する女性たちは、完璧ではないというか、どこかに本当にいそうな、リアリティがある人たちばかり。(いっぱい取材してるんだろうか…)いろんなタイプ・年齢の主人公がいて、たまに自分のカケラみたいな人が出てくることがある。今回は特に、いきなり地方転勤になってしまった人が出てきて、その回はすごくニヤニヤしながら読んでいた。

読み終わって思った事は、地味というか、誰かにとって取るに足らないような人生も、それはそれで尊いんじゃないかってこと。


世の中で注目されるような女性って(男性もかもだけど)仕事で実績を残していたり、自立していてバイタリティがあったりする人が多いかなって思うんだけど(そりゃわさわざ取り上げるんだから、分かりやすい「凄さ」が必要なんだけど)、この本には臆病で一歩を踏み出せない大学生だとか、アルバイトや派遣社員で生計立ててる人、いい企業に入ったのに30で地方転勤させられる人、産後に子育てでへとへとになってる人…。

いろんな人のある種の「映えない」瞬間が描かれている。そして、新たな出会いがあり、意気投合して、せっかく親友みたいに仲良くなっても、それぞれの道を別々に歩んでいく。

凄くて映える人のいちばん素敵な所を切り取った情報が溢れる中で、「○○でいることが価値である」とか「○歳だったらこういうもの」って像は、知らない間に形成されていくけれど、文字にも残されないような、誰にも注目されないような日々を歩む彼女たちの物語を読んで、フィクションだけど、なんだか、元気がでてくるの。だから9冊も買ってるんだけどね。


さいごに、
山内さんの本では、誰かが急に現れて助けてくれるようなドラマチックなことは全然起きなくて、ちょっとした出会いにハッとした主人公が、ひょいって行動することで拍子抜けしたみたいに物事が進むことがある。

だから、王子様みたいな、救世主を待つんじゃなくて、一歩前に進んでごらん。女の子にはそれができるんだから。

みたいなメッセージが、すごく好きです。

おわり。

#山内マリコ #一心同体だった #読書感想文  

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